謎が謎を呼ぶ世界観!宝塚歌劇宙組公演『FLYING SAPA─フライング サパ─』制作発表会見レポート
宝塚歌劇団宙組トップスター・真風涼帆、トップ娘役・星風まどか、男役スター芹香斗亜らの選抜メンバーが、荒廃した地球から未来の水星(ポルンカ)に移住した人々を描く、上田久美子のオリジナルSF作品に挑む『FLYING SAPA─フライング サパ─』が、3月30日~4月15日までTBS赤坂ACTシアターで上演される。
『FLYING SAPA─フライング サパ─』は、未来のいつか、水星に移住した人々が、到達すれば望みが叶うという謎に満ちたクレーター「SAPA」を巡って繰り広げる上田久美子のSFオリジナル作品。世界的に活躍している作曲家・三宅純がテーマ曲をはじめとした楽曲を提供するなど、宝塚歌劇団にとって新たな挑戦が多い新作となっている。
そんな作品の制作発表会が27日都内で開かれ、作・演出の上田久美子、キャストを代表して真風涼帆、星風まどか、芹香斗亜が登壇。作品への意欲を語った。
まず、会見はキャスト三人によるパフォーマンスからスタート。こうしたパフォーマンス定番のテーマ曲の歌唱披露ではなく、三宅純の楽曲に乗せて、ダンスとごく短い会話で、作品の世界観を繰り広げて行く凝った趣向。
ブルーに染まった舞台上手に置かれているデッキ・チェアに横になっているオバク役の真風の夢なのか、うつつなのか、「夢 誰かの この場所 知らない 誰かの夢 交わっているのか いつの 夢だったのか 偶然とは何か 道を訪ねて だがどこへ」といった、断片的な言葉が連なった声が響き、ミレナ役の星風と、ノア役の芹香の三人がコンテンポラリーな動きを展開する。
下手のハイテーブルに置かれたアルコールのグラスを真風と芹香が酌み交わし、どうやら芹香のノアが精神科医だということがわかっくるが、地球から逃れた人々が住むという過酷な地では、肩書によらずどんな病気でも診る…「一番多い仕事は娼婦の出産、密売のへその緒」などの台詞が交わされるが、むしろ全ては謎めいていくばかり。真風のオバクも、星風のミレナも何者なのかが明かされないまま、三人が踊り、それぞれに振り返って暗転という、意味深長な余韻だけを残してパフォーマンスは終了。時間にして僅かに3分ほどだったが、謎めいているだけに、もっと長い時間だったような気がする不思議な世界が展開され、この作品が宝塚歌劇として大きな挑戦作になることが予見された。
そこから続いた会見は、作・演出の上田久美子を交えたトークショー形式で行われ、作品の謎を探るような、従来とは趣を異にしたトークが展開された。
【トークショー】
──作品の手がかりと致しましては、宝塚歌劇のホームページに掲載されています内容、配役、そしてポスターといったところなのですが、今のパフォーマンスをご覧頂いて更に謎が深まったかも知れないと思います。真風さんポスターの反響はいかがでしたか?
真風 見て頂いた通りモノトーンでスタイリッシュで、現代的なような謎の多いポスターになっていますので、色々な声を頂いています。
──ご自身では?
真風 私自身もお稽古がはじまるまでは、ポスターのイメージだけが頼りでしたので、新しいお役への挑戦なのかなと期待を膨らませておりました。
──役柄について色々伺っていきたいのですが、ネタバレをしたくないお気持ちが上田久美子先生におありでいらっしゃるとのことで。
上田 今回、自分の役の背景や年齢を各々に語って欲しいところでもあるのですが、SFということで。SFというのは往々にして想像のつく世界観の中で、登場人物たちが出会って恋をしていく過程を追うような作品とは全く違って、叙事的に事件を追っていく。この人たちはいったい誰なのであろうか?ということが段々判明していくのが楽しいというタイプの作品にどうしてもなってしまいますし、今回はそれにチャレンジしたいなと思いましたので、そもそもどういう仕事ですとか、どういう設定で、どういう状況ですということも言うのはマズイと(笑)。そう言うとまるで意地悪のようなのですが(笑)そうではなく、お客様に良い状態、良いコンディションで観劇して頂きたいという思いでございます。
──とは言ってもトークショーですので(笑)ある程度ギリギリのところまでは攻めて行きたいなと思っておりますが、真風さんお稽古がはじまってどんな印象を?
真風 本当にこういったSFの世界観に挑戦させて頂くのが私自身初めてですので、お稽古場でも万事イマジネーションとの戦いと言いますか、日々新鮮に自分の中から出てくるものを大切にしながらお稽古をさせて頂いております。
──オバクという人物を演じられますが、オバクはどんな人ですか?
真風 (上田にOK?というアイコンタクトをして)記憶を失っている兵士ということで、政府の…(上田を見て)あ、ちょっとこれ以上はダメみたいなので(笑)
──趣味とかは?
真風 趣味ですか?コーヒーを飲むことです。
──先ほどのパフォーマンスでは(芹香と)お二人でお酒を。
真風 はい、嗜んで。
──そしてコーヒーを飲む?
真風 はい。
──そこがギリギリですか?
真風 (上田を見て)はい、話しづらい(爆笑)。
──はじめ長椅子に横たわっていらっしゃいましたね。
上田 まだ一幕しか稽古をしていないのですか、寝るかアンニュイな感じでちょっと喋るかで。
真風 そうですね(笑)。
──今までにない形かなと思うのですが、星風さん芹香さんはそんな真風さんをご覧になってどんな印象を?
星風 ポスター撮影の時にはじめてオバクさんに出会って、その後お稽古をして、なのですが、宝塚の時代もの、コスチュームものとは違って、オバクさんという人、お芝居を通してなのですが、そのままリアルタイムに生きていらっしゃる方という新鮮なものを感じたことがあって。真風さんのその取り組み方を私自身も感じながら、皆さんもポスターで思われたと思うのですが、今までにないようなお衣装がとてもカッコいいので、私もそういう思いで日々拝見させて頂いております。
芹香 アンニュイ感や、気だるい感、声を張らない感じもカッコいいですね。真風さんは元々男役を演じる時に無駄な動きが凄く少ない方で、人が三歩くらいで行くところを、大きく一歩、使っても二歩で行かれるところが、オバクにピッタリだなと思っています。そこが萌ポイントです。動かないんです。全然動かない。
──動かずにアンニュイなのですね!上田先生はオバク役を真風さんをイメージして書かれたのか、或いは元々役のイメージが先にあったのでしょうか?
上田 どちらかというとゆりか、真風さんに寄せたオバク役だなと思っています。ただ昔からSFをエンターテインメントで描きたいなという気持ちがあって、記憶をなくした兵士が主人公で、長身で力をわざと抜いた感じがカッコいいみたいな、あまりやる気が見られない感じ(笑)が出せる方の方が良いと思っていて。その怠惰な雰囲気がむしろカッコいいみたいな人でと。そこに真風さんの大人の男の人の雰囲気、芹香さんがおっしゃるような感じでの動きをイメージしながら書いていったというところです。
──真風さんはオバクが自分と近いと思うところはありますか?
真風 いや、あまりないですかね。結構私もアンニュイな渋い男性をすごくイメージしていたのですが、ちょっと言えない部分とかをいまお稽古している段階で、人間じゃない部分も少し必要となってくるので、そこの感覚をいま模索しつつ、人なんだけれども、テン、テン、テン、という、自分の男役像に近いような、でも全然違うという、両面の感覚があります。
──星風さんはミレナ役をどう捉えていますか?
星風 やはりポスター撮影の時からこの作品の世界観を考えていて、本日この制作発表でパフォーマンスをさせて頂いて、この場にいま存在している意味ですとか、物語が進んでいくにつれて、何故そういう行動に至ったかですとか、ちょっとしたことをしっかり噛み砕いていかないと、と。謎が多いからこそ自分でしっかりと納得した上で初日に向けて、ストーリーを皆様にお伝えできるようにやっていきたいと思います。
──お二人からご覧になったミレナはいかがですか?
真風 まだお稽古が最初の部分なので、わからない存在という感じなのです。星風自身もこれまでにやったことがない役なので、自分がどう進んでいくのかわからない部分と、役の謎の部分を咀嚼して、これからやっていこうという状態です。
芹香 今回の役はすごくビジュアルもモード系な感じで素敵だなと思いますし、元々まどかちゃんが持っているハムスター的な可愛らしさ(笑)みたいなものを封印した上での役じゃないといけないので、新たな星風さんが見られるのではないかな?と思います。
──上田先生は星風さんが演じるミレナという人物をどのように?
上田 元々の話の構造の中にヒロインはだいたいこういう感じというものがあり、それがまどかであれば、こういう性格で、こういう要素が良いだろうなというものを入れていきました。私は前の『神々の土地』の時にも思ったのですが、彼女には何か大きいものを背負って欲しいんです。『神々…』では王家を背負っていましたし、ミレナも今回は色々背負っていて、そういう役が似合うのかなと。どちらかというとフランス映画のヒロインのような感じで、普通の宝塚のヒロインですと、わりと正当化されるような行動をとるんですけれども、もう少し本能の赴くままに、普通に考えたら正義とは違うという行動を平気でやってしまう人間の面白さ、ちょっと崩れたところの魅力を、ある程度正当化せずに勇気をもってバンとぶつかってやって欲しい。野性がある方がかえって面白い役だと思うんですね。それが最後にどうなっているのか?というところなので、それをやっていってもらったらいいんじゃないかなと。でもいま稽古場で見ていても、凄く体当たりして思い切って腹をくくってやってくれていると思うので、これから先が楽しみです。
──そういう新しい役柄への挑戦は楽しいですか?
星風 本当に「はじめまして」の感じなので、先生がおっしゃってくださったように思い切って臨んでやっていきたいなと思います。
──芹香さんのノアは少しだけパフォーマンスの台詞の中にヒントがありましたね。
芹香 はい。基本情報は精神科医。でも台詞にもあったようになんでも診ちゃう。
──妖しいことを色々言われていましたが、「密売のへその緒」という、キーワードが耳に残りましたが。
芹香 はい、ですが(上田を見て)「へその緒」はダメですね(笑)。出産もお手伝いしますし、色々な疾患を診ます。
──真風さんからご覧になっては?
真風 最初のポスター撮影をさせてもらっている時から、今まだ少しですが立ち稽古をしていて、芹香自身が私が思っていた役作りとはまた違う感覚を出していて。このお役の在り方もまだこれから創っていく段階なので、まだなんともという部分もあるのですが、また新しい役作りができるんじゃないかな?と楽しみにしています。
星風 私もお稽古場で観させて頂いている時に、芹香さんの演じられるノアは理性的で、穏やかな部分もあって。普段お話させて頂いている芹香さんと少し重なるものがあるのかな?と思いながら、お医者様なのでちょっとお世話になって(上田を見て言葉を切り)と、いう感じです(笑)。
──芹香さんは上田先生とは『金色の砂漠』以来ですね?
上田 そうなんですけど、でももう忘れちゃったんだよね(笑)。
芹香 結構昔の話なので、どんなことがあったかはあまり覚えていないのですが(笑)、すごく久美子先生の作品の時には己の集中力との戦いみたいなことが毎日あって、それがだんだん快感になってくる(笑)イメージがあります。
──今回はまた、三宅純さんが音楽を担当されることが、演劇界からも注目を集める大きな話題ですが、これは上田先生のリクエストなのですか?
上田 そうなんです。結構最近、劇音楽もたくさんされていますし、CM音楽もされていますが、私が最初に出会ったのは20年くらい前で。フランスに旅行していた時に、同じ寮にいた日本人学生がとてもカッコいいボサノバをかけていて、それがただのボサノバではなくて、色々なものが混じった無国籍な感じが素敵だなと思って「誰の曲?」と訊いたら「三宅純だよ」と教えてもらって。そのままフランスのCDショップに行き「ジュン・ミヤケのCDありますか?」と言ったら、当時日本ではそこまでメジャーではなかったのですが、フランスの田舎のCDショップのお兄さんが「あぁ、これだよ」と即座に教えてくれて。ヨーロッパでは知られているのか!という不思議な出会いをしました。一方その頃エンキ・ビラルという人の、大人のアート系の漫画の「モンスターの眠り」が好きで。それを読んでいる時に、また、たまたま三宅さんの音楽が流れてきて、この絵の雰囲気とこの音楽が合うなと思ったところから、音楽を聴いていて今回のお話のような世界観が浮かんできたんです。そういう経緯で、元々三宅さんの音楽から生まれてきた世界観だったので、だったら源流に戻って三宅さんにこの作品の音楽を書いて頂けたら、どんなことになるんだろう?と思いましてお願いすることになりました。
──なかなか三宅さんの音楽にのせて踊るということは普段ないかと思いますが、今日のパフォーマンスでもいかがでしたか?
真風 本当にこの世界観を創らせて頂く上で、初めて音楽を聴いた時には衝撃でした。これまでは比較的自分の身体から音楽が出てくるような感覚になることが多かったのですが、実際に今日のパフォーマンスですとか、作品を作らせて頂いている時の感覚としては、自分のお役とも関連しているのかも知れませんが、出てくるというよりも細胞に染みこんでくるような感覚の方が強くて、新感覚の体験でした。
星風 今回のパフォーマンスでもそうですし、曲とのバランスとの感覚がアンニュイな世界観につながっていくのかなと思いながら、無意識に動かされていく感じとかもリンクしています。作品の中でどんどん色々な曲と出会っていくことで、次はどんな気持ちになるのかな?も楽しみです。
芹香 曲を聴いた時に心地よい違和感みたいなものを感じて、それがすごく魅力的だなと思ったので、曲との出会いも楽しみですし、曲からイマジネーションを得て創っていけたらいいなと思います。
──基本的な質問なのですが、今回ポスターだけではお芝居なのか、ミュージカルなのか、ショーなのかがちょっとわからない部分もあったのですが、そこはどうですか?
上田 お芝居ですね。ダンスは比較的あるかな?と思っていて、パフォーマンスでやってくれたのは前田清実先生振付のプロローグを一部アレンジしたものなのですが、そういうコンテンポラリー的な動きのダンスというのはかなりあるかなと思っています。ただ歌は事情があってあまり歌えない(笑)という。水星に於いてはちょっと歌えないんです。でもそれを破ってちょっと地球の懐メロを歌っちゃう人もいるかな?みたいな。
──これだけ三宅純さんの音楽で、デストピア的な雰囲気を醸し出していながら?
上田 いえ、懐メロと言っても(山口)百恵ちゃんを歌っちゃうということではないのですが(笑)。地球で昔歌われたという設定の懐メロで。水星に移住してから15年しか経っていないんです。これは言っても良いと思うのですが、ずっと昔に移住したのではなくて、ちょっと地球が訳あって住めなくなり、光を求めて水星に上陸した一部の人間たちの話なんですよ。ですから15年前にあった地球の歌という形で、時たま歌うことがあります。ただメインの人たちに関してはそこまで歌はない、特にゆりかはほとんど寝ている(笑)。
──あまり動かない、喋らない、いつも寝ていても主役というのを成立させるのはご本人の存在感ということですが、難しいのでは?
真風 いえ、いま、お稽古をしている段階では楽しいです。さっきもお話ししましたが人間じゃないものに寄っていくような感覚。記憶がないというところとの兼ね合いもありますし、もちろん環境や物理的に起きている出来事も、現実的にはあり得ない。そういう部分では普段の役作りとはまた違う感覚があるので、そこは本当に自分のイマジネーションや想像力がかなり大きく反映してくるので、自分の感覚と交信して何か出していけないかなと。もちろん音楽でとか、ちょっとした振りや、お芝居で頂く動きをきっかけにしながら模索して、自分の集中力と想像力の限界に挑戦!みたいなところが楽しくなってきている最中です。
上田 ですから歌って踊って発散型というものとはちょっと違っていて、例えばある時代の貴族であったりすれば創っていくものもある程度限定されるのですが、未来なので若干機械と一体化している不思議な状況ですとか、そこから脳内に例えば何かの情報が直接配信されてしまうとか、そういう感じがどうなのか?という、体験したことがない感覚を各々が想像で演じているのは、結構楽しそうだなと。すみません(笑)傍ではそう思っています。
──新しい出会いがありそうですね。
星風 いつもと何が違うのかな?と、これがどうしてこうなったのか?と考え出すと、もうとめどなくて。先生が書いてくださったお話がなぜこうなったのかという思いがどんどん沸いてくるところも面白いですし、基本として水星にいるというところが、今の私達とは違う。でも登場人物はその世界で当たり前に生きているところが、お芝居をする上では当然でもあるのですが、世界観を手探りしていく感じが日々新鮮で楽しいです。
──芹香さんは精神科医ということで、お二人に比べれば水星に根を下ろした感じが?
芹香 私は意外と…(上田に)どこまで言っていいんですか?意外と普通です。
上田 存在が自由なんですよね。だからどうにでもなるところがあると思う。
芹香 いま先生に色々伺おうと思って箇条書きにしていることが山ほどあるのですが、それは自由に作っていい感じなのですか?
上田 そうですね。ただ、どんな感じで作っているのかは教えて下さい。
芹香 はい!わかりました。
上田 いまここにいてこうということは決まっているのですが、なぜ水星にくる船に乗ったのかとか、どうして乗ることができたのかとか、ここでどうやって生活ができているのか?などは想像で作れるところがたくさんあって。普段生きたことがない世界で生きられる楽しさが、つまり芝居の楽しさだ、というようなことを皆が少しでも稽古場で感じてくれたら良いなと。まだ5日間しか経っていないんですけど(笑)。でも少し実らない感じの思いとかない?
芹香 そういう意味では人間的なものをすごく持ち合わせているなと。
上田 真風さんはどちらかと言うとそこに至る前ですね。
──トークショーが25分ほど経過して、わかったような、わからないような(笑)。でも色々ヒントは出てきたので、あとは実際に舞台を観に行って、その世界観に自分が飛び込んでいくといいですね。SFって生身の人間が別の世界を演じる難しさがあると思うのですが、それを信じてもらう為には?
上田 SFにも色々あって、ファンタジー系の、エンタメ系のSFもたくさんあると思うのですが、これは文学系のSFで「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」ですとか色々ありますよね。ああいうSFで、SFと言っても皆が銀色の衣装を着ているようなものではなくて、どちらかと言えばパラレルワールドに近いような、今の私達からそんなに何十年も経っていないような時に、たまたま太陽の熱が弱まってしまって、地球がものすごく寒くなった、みたいなことでやっている、ちょっと未来の架空の話です。ただ惑星探査ができるくらいには文明が発達しているなというイメージでしております。ですからあまりにも突拍子もない未来だと感情移入もしにくくなってしまうので、そこはなるべく現実のものと思って頂けるようなものにしていきたいなと思っていて。衣装もこういう天然素材のようなもので、今の私達からしても共感しやすいものにしていきたいです。
あとは演じる人たちの作り出す説得力というものがすごくあると思うので、その人たちがその世界を信じて入り込んでいたらやっぱりそうなんだな、とお客様も飲み込まれて、引き込まれていく。ですからあまりこちらからお客様に対して発散して「こちらに来てください!」という「一緒に盛り上がろう!」というミュージカルとは全然違うので、舞台上でその世界を信じ込んで演じていることによって、どういうことだろうと観る人が吸い込まれるようになる。それが出ている人たちの腕の見せどころで。今回は専科から、京三紗さん、汝鳥怜さんというすごく有力な助っ人を得まして。あの方達のどこがすごいかと言いますと、どんな世界観に放り込まれても熱い人間として演じられるんです。どんなに宇宙の酒場の女将だと言われても、やっぱりすごく血が通っていて、なぜここにその人がいるんだという疑問を差し挟ませない力業みたいなものがあるので、そういうところが信じさせてくださる、もちろん真風たちにもそれを期待しています。
──では、皆さんから一言ずつ意気込みをお願いします。
真風 私自身新しい挑戦に日々楽しくお稽古させて頂いております。TBS赤坂ACTシアターに初めて出演させて頂くので、お客様と一緒にどんな世界が創れるか、まずはお稽古を精一杯務めたいと思います。
星風 初日に向けてまだお稽古ははじまって間もないですが、先生が表現されたい世界観を咀嚼して皆様にお届けできるように、頑張りたいと思います。
芹香 普段は過去のものを演じることが多くて。それがフィクションであってもその時代を調べたり、どういう歴史があったかのを知ることによって、自分の中で役柄に対するヒントが蓄積されて、演じていける部分があるのですが。今回は何も情報が調べられない。逆に自分の中からの想像力だけにかかっているかと思うので、そこは楽しみながら想像力を膨らませて頂きたいと思います。
【質疑応答】
──上田先生、宙組でSFということで、今の宙組の魅力をどう作品に落とし込まれようとしていらっしゃるのか、またTBS赤坂ACTシアターに感じていらっしゃるイメージは?
上田 まずTBS赤坂ACTシアターは都心の一等地にあって、新しいことに挑戦できる劇場であると思っています。今回はその赤坂ACTシアターだけでの公演ということで、本来は宝塚の古典的なパフォーマンスが好きなのですが、そこではない新しいものをやるべきだなと感じまして、このSFにしました。またそのSFが真風とまどかコンビに似合うということがありましたね。真風さんの大人の男としての、ちょっと緩みのあるような男性像というところの魅力と、まどかは、確かにハムスター的で可愛らしいのですが、わりと色っぽい雰囲気もあるなと思っていて。その色っぽいコケティッシュな、小悪魔的な雰囲気を組み合わせた時に、この作品が合うのではないかなと思いました。芹香さんは一見明るい太陽のような感じだけれども、ちょっと影のあるところも魅力だと思っていて。この二人に比べれば精神科医として安定している役柄ではあるのですが、ノアにも背負っている問題がありまして、明るい雰囲気を出しながらも影があるという役ですので、翳りに魅力のある芹香さんにやって欲しいと思いました。また宙組には個性のある人たちがいますので、今回役もそれぞれにあった出自や仕事を持つ人たちという群像劇にしてあるので、その人たちがどうプレゼンテーションしてくれるのかな?を楽しみにしております。
──キャストの皆さんが上田久美子先生の作品創りや演出に感じている魅力は?
真風 私は上田久美子先生とは『神々の土地』と今回ご一緒させて頂くので、二作品だけで先生の作り方を語るのはと思いつつも、今回は『神々…』の時とは全然違うお稽古場だなと思っていて。先生がおっしゃっていたように、時代ものの時に求めて下さるものと、今回のような作品の時とのセッションが全然違うので、勉強させて頂けていると感じます。『神々…』の時にはそこにあるものに対しすごく鮮明に求めて下さる先生なのかな?と思っていたのですが、今回はまた全然違うアプローチをして下さるので、たくさん刺激を受けながらお稽古している最中です。
星風 私も『神々…』と今回でご一緒させて頂いているのですが、『神々…』の時には先ほど芹香さんがおっしゃったように、とても集中力のいる公演だったなということをすごく覚えていて。実際にお稽古の時にも、実演して下さる時があって、先生の役に対するビジョンがしっかりありつつ、私はその圧に負けないようにと、色々と模索していった記憶があります。今回もお稽古がはじまって間もないですけれども「こういう気持ちだったらどういう?」という訊き方でアプローチして下さるので、あの時のことが蘇りつつ、日々新しいものに挑戦させて頂いています。
芹香 台本を読んだ時には「先生の頭の中はどうなっているだろう」と感動を超えて不思議に思えました。何故こんなものが思い付くのかとポカンとしました。皆様観てのお楽しみなのですが、先生は結構厳しく繊細に求められるのですが、そこに自分が演じるならばというものがないとお客様に伝わらないので、こうでなければというものがありながらも、その日のコンディションもお客様の空気も違いますので、その日の新鮮度が一番大切かなと思っているので、そこを大切にしていきたいです。
上田 求められていないのに、私も発言して良いですか?(笑)いま、まどかが「先生の圧に負けないように」とコメントしたのを私は聞き逃さなかった!確かに時代劇ですと、台詞回しまで細かく言ったりしますし、今回のような作品ですと「こういう気持ちだからどう言う?」くらいの形なのですが、全体の流れとしてはこっちにいかなくてはならないというものがあっても、結局自分のものとして自発的にやれる、圧に負けないようにやれるか?というのが俳優さんのイマジネーションだと思うんです。演出家というのは「日によってコロコロ替えていい」という言葉がありまして(笑)、前の場面に対してこうだというのが大事なんですね。「この気持ちだったらこうだよ」ということを私は言っていますけれども、本当はきっとみんなが集中力や想像力で、そこに至る流れを汲み取って立って、自然発生的に、圧に負けずにやって欲しいと思っています。
【公演データ】
宝塚歌劇宙組『FLYING SAPA─フライング サパ─』
作・演出◇上田久美子
作曲・編曲◇三宅純
出演◇真風涼帆 星風まどか ほか星組
●3/30~4/15◎TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席 9,500円 A席 6,000円 B席3,000円
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時~18時)
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/
【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】
Tweet