ミュージカル『アニー』で秘書グレースを演じる蒼乃夕妃 インタビュー
累計約176万人の観客を動員して国民的ミュージカルとして愛され続けているミュージカル『アニー』が、4月27日から新国立劇場で幕を開ける。(5月13日まで。8月に夏の全国ツアーあり)
逆境の中でも希望を持ち前向きに生きる孤児アニーが、クリスマス休暇に大富豪ウォーバックス邸に招かれたことから、新たな人生の扉を拓くハッピーオーラに溢れた作品で、今年で34年目を迎える。
その名作ミュージカル『アニー』で、ウォーバックスの秘書グレースを演じるのが、元宝塚歌劇月組トップ娘役で、女優として活躍する蒼乃夕妃。歴代多くの宝塚OGたちが演じてきたグレース役に、蒼乃がどうアプローチしていくのか、その意気込みを聞いた「えんぶ4月号」インタビューのロングバージョンをご紹介する。
自分が演じる意味を持ったグレースを表現していきたい
──『アニー』という作品について、これまでどんな印象を持っていましたか?
日本で大変長い間愛されているブロードウェイミュージカルという認識はずっと持っていたのですが、まさか自分が出演させて頂けるとは夢にも思っていなかった2015年に、リメイクされた映画版を観て、現代にも通じるものがきちんとあるなと思いました。ロングランされる作品には必ず、時代を超えて共感できるものがあると思うので、そういう作品のひとつだなと感じていました。
──そんな作品に今回グレース役で出演することが決まった時にはどうでしたか?
グレースはとてもやりたかった役なんです。これまで私は比較的色の濃い役柄を多くさせて頂いていたので、グレースのようにシンプルに仕えている人を思っている役柄は、宝塚でも退団後もあまりやったことがなかったので、映画を観た時にも一番心惹かれた役柄でした。ですから、今回出演できると決まって本当に嬉しかったです。
──憧れの役を実際に演じるわけですが、どうアプローチしていこうと?
これまでの上演でグレースを演じられた方は皆さんとても品があって、真っ直ぐに凜とした方ばかりで。そう考えると難しい役だなとも感じています。「品」というのは作って出るものではなく、日々の生活などから自然ににじみ出てくるものだと思うので、そういう部分を大切に、自分自身をグレース役に寄せていきたいなと思います。今回、お声をかけて頂けたのも、私の中に何かグレースと重なるものがあったのだと思うので、演出の山田和也さんからも色々とご指導頂きながら、舞台で私が演じる意味をきちんと持ったグレースを表現していきたいです。
退団したからこそ感じる宝塚歌劇団のありがたさ
──グレース役を演じた歴代の方々には、宝塚OGの方も多くて、やはり皆さんドレスの着こなしなども見事でした。
親しい先輩である白羽ゆりさんが演じていらっしゃるのを拝見したのですが、仕草ひとつとっても素晴らしいなと感じました。グレースは今の時代にはあまり着ないような、ロング丈のタイトスカートの衣裳もありますし、ハイヒールを履きこなして、テキパキと人のスケジュールを管理して、お世話をする女性なので、立ち居振る舞いにもそうした美しさと、責任感が出るようにと思います。アニーに対してもやはり愛情と共に責任も感じて接していると思うので、そこも大切にしていきたいです。その前には彩乃かなみさんも演じていらっしゃいますし、お客様の中にはグレースに対するイメージが、きっとおありになると思うんですね。ですからその素敵な部分は踏襲しながら、私らしさも加味していけたらと思っています。
──そうした宝塚の歴代トップ娘役の1人として、105周年を迎えた宝塚に改めて思うことは?
女性だけの劇団であるとか、そういう宝塚の特徴は置いたとしても、舞台創りの環境や、自分達のお稽古場が当たり前にあることが、如何に恵まれていたかを、退団して外の舞台を経験してみてつくづく感じました。舞台を務めることだけに専念できる環境は、本当にありがたかったです。更に、出来上がっていない生徒の成長をお客様が見守ってくださるところでもあって。外の舞台であれば、主役の人はここまで出来ないといけない、メインキャストであれば当然こういうレベルでいなければ、というものがハッキリとあるのですが、宝塚は入団した時から、まだ舞台の右も左もわからない時点で「この子が育っていく姿を見て行こう」と思ってくださる優しいファンの方がいらっしゃるんですね。そういう意味でも独特の世界だったなと思いますし、本当に温かいところでした。
──それは、今客席から宝塚をご覧になっても感じる部分ですか?
そう思います。観に行くと、私が在団していた時期とは全く重なっていない下級生が私のことを知っていてくれたり、「今、こんな下級生の子がいるんだな」と認識したり、自分もその立場を経験した一番後ろの群舞で踊っている子たちまで「ちゃんと観たい!」という気持ちになったり。やはり切っても切れない絆があると感じています。
──蒼乃さんが出演された作品が再演されたりもしています。
そうですね!やはりそこには特につながりを感じます。
──また、私生活でも中河内雅貴さんと結婚されて、同じ舞台人の方と家庭を築いたことで変化などは?
一番身近にいる人間が同じ仕事をしていることで、やはり1人でいた時よりもとても良い刺激をもらっていると思います。夫婦ですがお互いに「負けていられない」という気持ちは持っていますし、もちろんお互いの舞台は純粋に観に行きたいですし、「今度こんなことをやるんだ」と話を聞くと、いいなぁ、羨ましいなと思うこともあります。もちろんそれが「私もまた頑張ろう!」という励みにもなるので、マイナスに感じることは何もないと思っています。1人ではない、誰かがいてくれるだけで心のゆとりも持てますし、そこから役柄を大きく捉えられるようにもなった気がします。
──そういう気持ちがあると、きっと役柄の幅も更に広がっていくでしょうね。
そうしていきたいですし、そうなると良いなと思っています。
──名ダンサーの蒼乃さんですから、是非またダンスの舞台も拝見したいですし。
やりたいです!チャンスがあれば、ダンスにはずっと取り組んでいきたいと思っています!
子供たちのエネルギーを感じながら、舞台を観る楽しさを伝えて
──アニーや、孤児たちを演じる子役さんたちに対してはどんな印象を?
本当に子供らしくて可愛らしいのですが、やはり子役さんというよりは、もうきっちりと女優さんなんだなと感じるほど、しっかりしているのに驚いています。自分自身が小学校の4年生、5年生だった頃はダンスも習っていませんでしたし、ただドッジボールに夢中だったなと(笑)。私が宝塚に出会ったのが中学生の時で、それまではこうした表現をする仕事をするようになるとは想像もしていなかったので、彼女たちが9歳、10歳で舞台への夢を持って日々努力を重ねているのには、ただ感心します。そういう意味でもたくさんのエネルギーや、刺激をもらえるのも楽しみですね。ミュージカル作品も多岐に渡っていて、考えさせられるものや、悲しい気持ちを反芻するものも多い中で、やはりこの作品『アニー』の、観終わってストレートにハッピーになれる力は素晴らしいなと。更に、ただ孤児の少女が家族を得ましただけではない、生きていく上での大切なメッセージが込められている、大人が観ても、むしろ大人だからこそ感じられるものが詰まった作品です。アニーに憧れているお子さんたちは勿論ですが、一緒にご覧になるお父様、お母様にもこの作品の力をお届けしたいですし、まず舞台を観るって楽しい!と感じて頂きたいです。「トゥモロー」だけではなく、名曲の宝庫でもありますので、是非劇場にいらしてください!
あおのゆき○岡山県出身。04年宝塚歌劇団入団。10年『スカーレット・ピンパーネル』で月組トップ娘役に就任。抜群のダンス力を武器に多くの舞台で活躍。12年『エドワード8世─王冠を賭けた恋─/Misty Station─霧の終着駅─』で退団後、単身NYに渡りダンスを学ぶ。近年の主な舞台作品に『アルジャーノンに花束を』『グレート・ギャツビー』『クレスト☆シザーズ』『夜曲 nocturne』等がある
【公演情報】
丸美屋食品ミュージカル『アニー』2019
脚本◇トーマス・ミーハン
作曲◇チャールズ・ストラウス
作詞◇マーティン・チャーニン
翻訳◇平田綾子
演出◇山田和也
出演◇岡 菜々子 / 山埼﨑玲奈(アニー役Wキャスト)/、藤本隆宏、早見優、蒼乃夕妃、青柳塁斗、服部杏奈、阿部裕 ほか
4/27~5/13◎新国立劇場 中劇場
【夏のツアー公演(予定)】
8/1~6◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
8/10◎松本・まつもと市民芸術館 主ホール
8/17~18◎仙台・東京エレクトロンホール宮城
8/24◎広島・JMSアステールプラザ 大ホール
8/30~9/1◎名古屋・愛知県芸術劇場大ホール
〈公式サイト〉http://www.ntv.co.jp/annie/
【構成・文/橘涼香 撮影/田中亜紀】
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