35年目を迎えるミュージカル『アニー』製作発表レポ―ト
人気ミュージカル『アニー』が、2020年4月25日から5月11日まで新国立劇場中劇場で上演される。丸美屋食品ミュージカル『アニー』が上演される。35年目という節目の年を迎える本公演には、一般公募によるオーディションでアニーに選ばれた荒井美虹(あらいみく)、德山しずく(とくやましずく)をはじめとし、孤児やダンスキッズを演じる総勢26名の子どもたちが出演する。
大人キャストはウォーバックス役に4年目の出演となる藤本隆宏、ハニガン役には2017年に出演したマルシアが再登場する。ウォーバックスの秘書・グレース役は昨年に引き続き蒼乃夕妃が務め、ハニガンの弟・ルースターとその恋人・リリーは、栗山航と河西智美が初参加する。
この公演の製作発表が、12月9日、都内において行われ、演出の山田和也、アニーを演じる荒井と德山、そして大人キャストの藤本、マルシア、蒼乃、栗山、河西が登壇し、公演への意気込みを語った。またゲストとして初演の演出を手掛けた篠崎光正が登場した。
まず日本テレビ放送網株式会社・取締役執行役員の広瀨健一が挨拶。1986年4月の初演を観た時、舞台上に犬のサンディーが出てきたり、ステージが動いたりまわったり画期的な演出だと感じたことにふれ、『アニー』は感動を伝えるというコアな部分は継承しつつ、時代にあわせて中身が進化しているところが35年にわたって支持が得られている最大の秘訣と語った。
続いて協賛社の丸美屋食品工業株式会社・代表取締役社長の阿部豊太郎が登壇し、2020年はオリンピックが開催されることから、ウォーバックス役の藤本がオリンピックに2度出場していることや、ハニガン役のマルシアがブラジル出身で国際的な活躍をしていることにふれ、オリンピックイヤーにふさわしいキャスティングになったので期待してほしいと語った。
このあと大人キャストとアニー役の2人が登場し、司会者より大人キャストから順に質問が行われた。
──今回で4回目となるウォーバックス役を演じる藤本さんですが、毎年同じ役に向き合う難しさ、楽しさを公演に向けた意気込みとともにお伺いできればと思います。
藤本 来年で4年目ということで本当にありがたい話なのですが、『アニー』という作品は、毎年すごく新鮮です。もちろんキャストも違いますし、子どもたちやお客様の反応が違います。もちろん惰性で芝居をしてはいけないと思っているのですが、そうなり得ない作品なんです。だから新鮮な気持ちで毎回やらせていただいています。また山田(和也)さんの演出も来年4年目になるんですが、少しずつ演出が変わっているんです。
マルシア えー!
藤本 はい(笑)。それを楽しみに演じていきたいなと思っています。来年はまた新たな『アニー』のメンバーの一員として、精一杯演じていきたいと思っています。
──孤児院の院長で、アニーにつらく当たるハニガン役のマルシアさん。マルシアさんは2017年以来のハニガン役ということで、以前演じた時とはまた違う感覚もあるかと思うのですが、今回の役への意気込みとともにお願いいたします。
マルシア 2017年にやらせていただいた時のことは、覚えていません(笑)。つまり、前回を思い出しながらハニガンはいたしませんということです。新たな気持ちでやらせていただきたいのと、私も歳を重ねてきたわけですから、そういう意味でも芝居が変わるのではないでしょうか。また山田さんの演出もお変わりになっているとお聞きしまして、そういう意味でもいっぱいコミュニケーションをとって、2017年に出演した時は100ボルトでやりましたけれど、今回は1000ボルトに上げていきたいと思います。やるぞ!ということでございます(笑)。いつも思っていましたが、子どもたちが主役ですので、稽古でも本番でも毎回大きなパワースポットなんですよね。子どもたちのエネルギーが私たちを動かしているので、本当に楽しみです。頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
──ウォーバックスの秘書、グレース役の蒼乃夕妃さん。2019年の公演で、蒼乃さんは初めて『アニー』に出演しましたが、その時の感想と来年への意気込みをお聞かせください。
蒼乃 前回初めて参加させていただいて、子どもたちのパワーに圧倒されたのと、藤本さんがおっしゃったように毎日変わっていく空気がすごく新鮮でした。私たち大人はシングルキャストなのでハードな公演だと感じていたのですが、終わってみるとあっという間で楽しさのほうが残っていました。また参加させていただけるということで、本当にうれしく思っています。今回キャストもガラッと変わっておりますので、新しい空気になると期待しているので、私もそこに馴染んでいけるように改めて頑張りたいと思います。よろしくお願いします。
──続いてハニガンの弟、ルースター役の栗山航さん。栗山さんは2016年に第4回ジャパンアクションアワードにて、ベストアクション男優賞を受賞され、今は『男劇団青山表参道X』でリーダーも務められています。今回『アニー』に初参加ということで、意気込みを改めてお願いいたします。
栗山 僕は初参加になるのですが、『アニー』といえば誰でも知っているという作品に参加できることは本当に光栄に思いますし、僕が選ばれたというのも何か意味があると思うので、僕らしいルースターを築き上げたいと思っています。2020年はオリンピックイヤーですが、それに負けないぐらい盛り上げていければと思います。よろしくお願いいたします。
──最後はルースターの恋人、リリー役の河西智美さん。河西さんはAKB48を卒業後、舞台、ミュージカルなどで活躍の場を広げています。リリー役への思いとともに意気込みをお願いいたします。
河西 ずっと『アニー』の隣の会場で(別の公演の)お芝居をしていたんですけれど、「アニー、楽しそうだなあ」と思っていました。その作品に来年関わることができることへの実感がまだありません。私は少女役をやることが多かったので、大人の役をやるというのと、ちょっと悪だくみをする役だったりするので、それも初挑戦となりますから、私自身また新しい一面に出会えるのかなと思って楽しみにしています。そしてAKB48で同期の野呂佳代がこの役をやっていたというのもあって、私らしいリリーを演じられたらと思います。
──それではいよいよアニーのお二人にもお聞きします。まずはそれぞれ自己紹介を元気よくお願いします。
荒井 チームバケツのアニー役、荒井美虹です。
德山 チームモップのアニー役、徳山しずくです。
荒井・德山 よろしくお願いします!
──「よろしくお願いします」がぴったりと合いましたね! まずは荒井さんからお伺いしたいと思いますが、大きなミュージカルに出演するのは今回が初めてということですが、今はどんな気持ちで毎日を過ごしていますか?
荒井 アニー役になると決まって、すごくうれしくて、これからいつどこで誰に見られているのか分からないので(笑)、挨拶や言葉づかいに気を付けて生活しています。
──プロとしての意識がすごいですね。そして德山さんは、アニーのオーディションは3回目の挑戦ということで、過去2回は書類審査で落ちてしまったそうですが、今回初めて実技の審査を受けて、「今年はいけるぞ!」という自信はありましたか?
德山 私はダンスが得意なので、ダンス審査で最後まで踊りきれたので、そこで自信が上がりました。
──ダンスが得意なので、悔いなく実力を発揮できたということですね。多くの人に劇場でダンスを観ていただきたいですよね。
德山 はい。
──お二人はこれからどんなアニーを目指していきたいですか?
荒井 私は観てくださったお客さんの心に残るアニーを演じたいと思っています。
德山 私も演技でアニーの気持ちを伝えられたらと思います。
──2020年はオリンピックイヤーで、いろいろな外国の人も来るかもしれません。歌や演技や表現でぜひ『アニー』の素晴らしさを伝えてほしいと思います。そして演出家の山田さんにお伺いします。来年はどのような公演になりそうでしょうか?
山田 僕が担当して4年目になるんですけれども、最初の年は結構大変な仕事でした。1年目は無我夢中で、もちろんやれるだけのことはやったと思っていましたが、あとから振り返ってみると「もっとこうすればよかったな」というのが残るものなので、それを2年目に直しました。これでうまく直したと思っても、3年目にまた直したくなるということで、かなりいろいろなところが整理されてきました。4回目なので今までの集大成といいますか、熟されたクオリティーの高いアニーになるといいなと思っていますし、そうなると思っています。
『アニー』では子どもたちが毎年入れ替わることが決まっているので、新鮮にならざるを得ないといいますか、「去年はこうだったから」ということが稽古場で通用しないんです。皆さんもおっしゃいましたけれど、子どもたちからもらうアイデアやエネルギー、あるいは子どもたちの思いがけない発想、無邪気な瞳、意地悪そうな態度、いろいろなものが我々大人を大人にさせてくれないというか、子どもたちと平等になってしまうところがあって、成熟していると同時に新鮮なアニーを来年は観ていただけると思います。特にルースターとリリーが新しい2人になりますので、新たな風が吹くだろうと思います。成熟しているのに新鮮なアニーにご期待ください。
登壇者全員への質問が終わると、特別ゲストで『アニー』初代演出家の篠崎光正が登場した。その後、これまでの『アニー』の歴史を刻んだ映像が流れ、篠崎が子どもたちに「泣かない!」と厳しく指導している稽古場の風景や、歴代アニーが歌う「Tomorrow」が流れる。映像を観たあとに、篠崎へ質問がなされた。
──篠崎さんには当時を振り返っていただきながらお話を伺いたいと思います。映像の中で印象的なのが、子どもたちが目を潤ませながら厳しい指導を受けているシーンです。篠崎さんご自身は、どのような気持ちで稽古をされていたのでしょうか?
篠崎 実は当時の日本テレビ高木社長が『アニー』をやるにあたって「日本テレビの良心を作ってください」とおっしゃいました。30代だった僕は、良心なんて簡単に作れないと思ったのですが、結果、我々スタッフが一丸となって作るしかないとなりました。日本テレビの制作で初めてミュージカルを作ることになったわけですから、1986年の初演の2年前から準備のためにいろいろな方が参加され、素晴らしい2年間を過ごしました。
そこで、今までにない公演をしっかりと作っていくということ、そしてメイキングを作ることで、大勢の人たちに『アニー』を分かってもらおうと思いました。当時は『アニー』といっても日本人は誰も分からなくて、『アニーよ、銃を取れ』という違う作品を思い浮かべる人がいたからです。そして公演をするにあたり、全員で合宿をやろうということにしました。
この3つを守ってやっていく中で、先ほど映像で私が怒鳴っているところだけが出てくる(笑)わけですが、でもその前後を見ていただくと分かるのですが、怒っているんじゃないです。叱っているんです。私は15年間演出をやりましたけれど、1度も怒ったことはなく、叱りとばします。それは叱るということが必ず子どもを成長させるからです。自分の感情をぶつけて怒るということは、われわれの稽古場では御法度でした。こういうふうに映像で切り取られてみると「なんて演出家だ!」と思われてしまうのですが(笑)。
──子どもたちを育てる気持ちで演出されていたということですね。山田さんは今の映像と篠崎さんの言葉を聞いいかがでしたか?
山田 これからは叱り飛ばそうと思います(笑)。とても身の引き締まるお話で、特別なものを作っていくんだ、良心だと思ってもらえるものだということは、肝に銘じてそれにも恥じないものにしていかなければと思いました。
──篠崎さんから35年目を迎えるミュージカル『アニー』にコメントをいただきたいと思います
篠崎 私は先ほども申し上げましたとおり、初演の2年前からやっていましたから、37年前という感覚があります。『アニー』というのは、ウォーバックスが成功していく、その成功した中で何か欠けたものがあるということ、これは37年前に我々がどうしても作りたかったことです。ちょうどその時代は猛烈社員といって、団塊の世代が一丸となって夜中まで仕事をする時代だったんです。そういう人たちに「本当にそれで幸せなのか」ということをこの作品で伝えたいというのがありました。
そしてもう1つは、当時男の子が元気に育ってほしいというテレビCMが流れていました。そのため男の子は元気になったんですが、女の子は元気じゃなかったんです。『アニー』をやることで女の子が元気になってほしい、女の子にもっと活躍してほしいということで、演目として選んだ理由があります。結果、今は女の子と男の子が逆転しまして、女の子は強くなって男の子は元気がなくなりました。
僕としては『アニー』の任務は終えたのかなとも思っていたのですが、実はそうではなくて、今、世界中が分断の社会と言われているように、自分のエゴを出していけばいくほど、それぞれが諍いを起こすわけです。その中でこの作品が新たに重要な意味を持っているんじゃないかと思います。分断の社会の中で、例えばウォーバックスのように成功をしているように見えるけれど、幸せではなく不幸せになっていくんじゃないかという、そこにもう1つのコメントがあるような気がします。ですから『アニー』は、まだまだ続けていただきたいと思っています。
非常に手間のかかることですが、私たちは7ヵ月半稽古をやっており、しかも全員合宿だったので大人の役者はみんなブーブー言っていましたが、やはり心を作る仕事ですから、キャスト、スタッフ、関係者の皆さまが大事にしていただければもっと素晴らしいものができるし、山田さんが頑張るので、来年の『アニー』も素晴らしいものになるかと思います。ぜひよろしくお願いいたします。
ここで篠崎が退席、引き続き質疑応答が行われた。
──皆さんに質問ですが、『アニー』は周りの人を笑顔にするキャラクターですけれど、皆さんが笑顔になれる秘訣は何でしょうか?
栗山 丸美屋さんの「のりたま」や「麻婆豆腐」を食べていれば笑顔になれます(笑)。
マルシア さすがですね(笑)。栗山さんがそこまでおっしゃるなら私も丸美屋さんのすべての商品というのはもちろんそうでございます。そして、私たちは生きていればいろいろなことが起きるし、当たり前のように朝がくると思いがちですけれど、何もかもに感謝することですね。私はいつも朝、鏡に向かって笑顔を見せてすべてに感謝しています。
藤本 特にアニーでは子どもたちが芝居で笑っているのを見ると、自分も笑っていられるというか、そうなれることが一番幸せですね。昨今、笑うことが少ないじゃないですか。でも子どもたちが笑顔でいてくれるので、アニーの稽古場が一番好きです。
蒼乃 向かい合う人が自分の鏡だなと思うことがよくあって、自分が笑顔でいると相手の方も笑顔になるし、相手の方の笑顔も素直に受け取ったら自分も笑顔になれると思うので、素直でいたいといつも思っています。
河西 真面目なことがあまり思いつかないんですけれど、私は笑いのツボが浅いので、笑えないと困ったことは特になく、気付いたらいつも笑っているので、幸せな毎日を過ごせているのかなと思います。何年か前、忙しすぎて笑顔を忘れたことがあったので、そうならないように毎日楽しみながら過ごそうという努力もしています。
荒井 『アニー』を観てくださった方々には、いつも笑顔でいてほしいなと思うので、私たちが皆さんに笑顔を届けられるように頑張っていきたいと思います。
德山 私は家族と一緒にいると笑顔になれます。家にいるとホッとするからです。
【囲み取材】
ここで質疑応答が終了、囲み取材が行われた。
──藤本さんは4回目、蒼乃さんは2回目、マルシアさんは2017年以来2回目ですが、今までのアニーで印象に残っていることはありますか?
藤本 昨年、お昼ごはんの時にパンを立って食べていたら、アニーの2人から「ご飯は座って食べて」と怒られることが多かったです(笑)。
マルシア ハニガンはすごいハイテンションですし、2回公演ですから毎日フルマラソンをやっている感じでしたね。でもとても楽しいです。ハニガンのテンションが上がれば上がるほど主役が活きると思っているので、今年は100ボルトじゃなくて1000ボルトでいくというのは、そういうことです。
蒼乃 昨年初めて参加させていただいたときに、お稽古場で私が間違えた時、素直にその間違いを受け取って、アニーの二人がきょとんとした顔をしたりするんです。ですので、大人がしっかりやらなければいけないとすごく責任を感じたのを覚えています。
──栗山さんと河西さんはずるがしこい役回りということですが、ご自身に似ているところはありますか?
栗山 先ほどの製作発表で丸美屋さんにゴマをすったので(笑)、差し入れが楽しみになりました。そういうところがずるがしこいかなと(笑)。
マルシア 丸美屋さんの差し入れ、すごいよ!
栗山 やっぱりそうなんですか!(笑)そして大富豪の藤本さんにご飯をごちそうしていただきたいです(笑)。
藤本 ずるがしこいですねー(笑)。
河西 ずるがしこいところが自分に見当たらないので、(アニーの二人がクスクス笑っているのに対して)何で笑うの?(笑)。でもこれからずるがしこさを作っていかなければいけないと必死に考えています。
──アニーのお二人に質問です。今日の製作発表でたくさんの人が集まっていましたが、緊張しましたか?
荒井 最初は緊張していたんですけれど、ここに立つと緊張がほぐれるというか、楽しくなってこんなにたくさんの方々が『アニー』に関わっているんだなと思って楽しみになりました。
德山 最初は全然緊張しなかったのですが、ここに出るとちょっと緊張しちゃいました。でも隣に(荒井)美虹ちゃんがいてくれたから緊張がほぐれました。
──お互いのアニーの印象を聞かせてください。
荒井 明るくてすごく話しかけてくれるから、まさにアニーだなと思います。
德山 美虹ちゃんはいつも素直なので、そこがアニーだなと。
荒井 素直じゃないよー(笑)。
德山 素直だよー(笑)。前向きな子だから本当にアニーに合っていると思います。
最後に荒井と德山が声をそろえて「ぜひ劇場に観に来てください」と決めたところで、囲み取材は終了した。稽古が始まるにあたり、「犬のサンディーに会うのが楽しみ!」と生き生きとした表情で語っていた荒井と德山がどんなアニーを演じてくれるか、2020年の『アニー』に期待したい。
【公演情報】
丸美屋食品ミュージカル『アニー』
脚本◇トーマス・ミーハン
作曲◇チャールズ・ストラウス
作詞◇マーティン・チャーニン
翻訳◇平田綾子
演出◇山田和也
出演◇荒井美虹 德山しずく (アニー役Wキャスト)
藤本隆宏 マルシア 蒼乃夕妃 栗山航 河西智美 ほか
●2020/4/27~5/11◎新国立劇場 中劇場
【夏のツアー公演(予定)】
●2020/8/13~18◎大阪 シアター・ドラマシティ
●2020/8/23◎群馬 太田市民会館
●2020/8/28~30◎名古屋 愛知県芸術劇場大ホール
●2020/9/5・6◎富山 オーバード・ホール
〈公式サイト〉http://www.ntv.co.jp/annie/
【取材・文・撮影/咲田真菜】
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