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《たからづか♪あいうえお》その3「イメージ」

宝塚を愛する方々に送る連載企画《たからづか♪あいうえお》。宝塚に関するあらゆるワード、スター名、キャスト名、スタッフ名、作品タイトル、楽曲タイトル、更に関わりの深い事柄やちょっとした小物まで、あらゆるジャンルから「あいうえお」順に、旬の話題や、その場のインスピレーションで思い付いたワードを手掛かりに深堀りしていこう!という企画の第3回「い」としてお送りするのは宝塚歌劇の「イメージ」です。

女性だけの歌劇団である宝塚歌劇はずいぶん長い間、熱狂的なファンを常に生み出している傍ら、一般の舞台やミュージカルとはどこか別個に扱われていたものでした。もちろん宝塚歌劇の持つ非現実感、「男役」と「娘役」で紡がれる煌びやかで美しい、ここにしかない幻想空間は、確実に芸能のひとつのジャンルで、他の演劇と比較するものではない部分は確かにありました。

その一方で、歌舞伎を例に出すまでもなく、日本には遥か昔から性別を超える芸能を受け入れる素養が人々にあって、女性だけで物語を演じることの親和性は高かったものの、男性優位の時代が長かったことが影響してか、宝塚歌劇は綺麗で可愛ければいいんでしょう?という、どこか斜めに見る視線もまた、長く付きまとっていました。
かなり前のことですが、男女の出演するミュージカルが上演されている劇場で、客席の大半を女性が占めているのを見た方に「これじゃあまるで宝塚の客席じゃないですか」と言い放たれたこともあって、「それが何か?」と大変不快だった強い記憶まであります。その言外に決して良いイメージがないことが明白だったからです。

こういう、実際には舞台をちゃんと観ていないのに、イメージだけが先行することは、往々にしてあって、アイドルの方が初舞台を踏む時や、演劇界の一大勢力となった「2.5次元」と呼ばれる舞台などを見る視線にも、その香りを感じることがあります。でも、例えば乃木坂46の方達や、2.5次元の美しき若手俳優さんたちがいなかったら、演劇を観る習慣を持つ人たちの高齢化はもっともっと進んでしまっていたでしょう。ひいては今、熱気に包まれているミュージカルブームも、ひょっとしたら起きていなかったかも知れません。

それと同じで、宝塚歌劇がなかったら、それこそミュージカル界の人材枯渇は大変なものになっていたと思います。劇場に出向く度に頂く(と書くと、それが叶わない今はとても寂しいですが)公演パンフレットの何倍もの厚さになる今後の公演予定のフライヤーの束から、宝塚OGの方が一人も出演していない舞台を探す方がずっと早いのです。この1点だけをとっても、宝塚歌劇が演劇界に果たしている力を感じます。

更にこうした人材育成としてだけでなく、『ベルサイユのばら』に代表される、この世ならぬ夢の世界を紡ぎ続けている宝塚が取り組む作品の幅は、実際びっくりするほど広いのです。ごく最近の作品でも、おそらく一般的な宝塚歌劇のイメージに最も近かった、明日海りおの退団公演でもあった、ファンタジーの極みの花組公演『A Fairy Tale─青い薔薇の精─』(作・演出 植田景子)と、セルジオ・レオーネ監督の大作映画をミュージカル化した、望海風斗主演の雪組公演『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』(脚本・演出 小池修一郎)の色合いの差、両者のふり幅には果てしなく大きなものがありました。でも両方をちゃんと宝塚は「宝塚歌劇作品」として提示しているのです。

そういう意味で近年最も印象的だったのは、2018年の夏、落語世界を題材に「あの世」を徹底的に明るく、賑やかに描き出した紅ゆずる主演の星組公演『ANOTHER WORLD』と、第二次世界大戦前夜のパリに住む寄る辺なき亡命者たちを、轟悠特別出演を得て描いた雪組公演『凱旋門』が続けて上演された時のことでした。この真反対と言っても過言ではない両作品を、同じ劇団の公演として、同じ劇場で何事もなく受け入れる観客というのも、そうそういないのではないか…と、宝塚歌劇団はもちろん、宝塚歌劇を愛する人々の懐の深さに感嘆したものです。

そんな宝塚の多様性もまた、近年多くの人たちにますます知られるようになっていて、冒頭に書いたどこか斜めに見る目線が、確かに変わってきているのを感じるのは嬉しいことです。ひとつには、やはり宝塚歌劇が創立百周年を迎えたことで、伝統芸能として受け入れられたことが大きかったと思います。やはり「百年」の重みは伊達ではなく、宝塚そのもののイメージを一気に押し上げる効果につながりました。またひとつには、『エリザベート』に代表されるように、海外のミュージカル作品をまず固定ファンの多い宝塚歌劇で上演して世に浸透させたあとで、男女の俳優が出演するプロデュース公演として上演するという流れが定番化していったことが挙げられると思います。

小池修一郎という宝塚のみならず、ミュージカル界の雄となった演出家の出現もこの流れ一気に加速させ、両方を観劇する観客も増えました。同時に宝塚の様式美の中に取り入れられていったナチュラルさと、前述した2.5次元世界を苦も無く体現できる美しい男優たちが大挙して現われたことも、両者を近づける力になっていきました。今では早霧せいな主演の『るろうに剣心』のように、宝塚オリジナルとして創作された作品を、男女のプロデュース公演で上演することが可能になったばかりか、宝塚を退団した早霧が同じ主人公緋村剣心を演じて、ちゃんと企画として成立できたのですから、凄い時代がやってきたと感じずにはいられません。

この3月に梅田芸術劇場が製作したミュージカル『アナスタシア』は、コロナ禍で時期こそ未定になっていますが、真風涼帆主演の宙組で宝塚バージョンがこれから上演されることになっていて、これは従来のパターンとは逆の順番での企画ですから、もう本当に両者の隔てがなくなっていることにはただただ感心するばかりです。何しろレースとリボンとスパンコールなくして語れないはずの宝塚の主人公が、サルエルパンツを履いてOKなことまでが、今年2020年の幕開きを飾った花組公演『DANCE OLYMPIA』─Welcome to 2020─(作・演出 稲葉太地)でプレお披露目を飾った柚香光によって証明されたばかりです。宝塚歌劇のイメージはこうして、日々更新され、進化しています。

そんな変化の中でも、尚変わらないもの、100年積み上げてきた美しき世界は強固に保ち続けている宝塚歌劇。花組がピンク、月組が黄色、雪組が緑、星組が青、宙組が紫で表現されているイメージカラーがありますが、この各組はトップスターの交代と共に、常に「新生○組」と称されて新たに生まれ変わることを繰り返していきます。代替わりするトップスターの個性は、決して同じではありません。
それでも、5組それぞれのイメージカラーはちゃんと踏襲されていく、今度のスターにこの色はちょっとピンとこない、ということは、まるで奇跡のように全くないのです。このある意味のしぶとさ、底力がある限り、新しい生活様式の中で、宝塚歌劇がどんな形で幕を開けたとしても、そこにはきっと新たな時代に即した、けれども決して根本は変わらない宝塚がちゃんと存在してくれるはずです。
その未来のイメージを確信として容易に描けるのが、宝塚の素晴らしさなのだと、開幕を待ちながらつくづく感じる今日この頃です。

【文/橘涼香】

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