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森新吾が信じた演劇の可能性が輝く「アクトカンタービレ scene2『golden lemonade』〜森新吾へのオマージュ〜」開幕!

ダンサーとして、また優れたクリエーターとして活躍し、先般37歳の若さで急逝した森新吾が立ち上げた演劇プロジェクト「アクトカンタービレ scene 2『golden lemonade』 〜森新吾へのオマージュ〜」が5月9日銀座 博品館劇場で開幕した(13日まで)。

「アクトカンタービレ」は森新吾がダンスを主体にした自身の主演による公演「ダンスカンタービレ」に続き、芝居の面白さを追求するべく2018年に立ち上げた演劇プロジェクト。ダークでミステリアスな、森カラー全開の「ダンスカンタービレ」から一転、大人の男たちが大真面目に繰り広げるコメディを目指し、劇団ホチキスの米山和仁を脚本・演出に迎え、scene1 『Smoky Dog』を上演。訳アリの男たちがドタバタと大騒ぎを展開しながら、いつしか深い信頼や友情が浮かび上がるノンストップコメディが上質な笑いを振りまく舞台となった。

その「アクトカンタービレ」第二弾として予定されたのが、アクトカンタービレscene2『GOLDEN LEMONADE』で、LEMONADE=イカレた、というスラングをタイトルに、最高にイカレたレモネード野郎がやってくる!という、新たな「笑撃」が展開されるばかりでなく、男性アーティスト集団“DIAMOND☆DOGS(D☆D)”の創立メンバーであり、演出家、振付家として豊かな才能を発揮してきた森が、長年の目標のひとつにも掲げていた初の脚本も手掛けることで、多くの注目が集まっていた。

だが、その森の逝去というあまりにも突然の訃報により、公演は「森新吾へ捧げるオマージュ」として、scene1『Smoky Dog』を改訂。脚本・演出として森の名前を残し、『Smoky Dog』に「golden lemonade」を組み込み、また出演者に合わせた改稿を施した米山和仁の協力。森のポジションにD☆Dの咲山類が新たに参加し、演出協力に小寺利光、中塚皓平、森が全幅の信頼を寄せた愛弟子の木野村温子が名を連ね、音楽に引き続いてTAKAの他、森の想いを引き継いだ全ての人々によって、「Show must Go On!」を目指したステージの幕が開いた。

【STORY】
とある波止場に建つ立ち入り禁止の第三倉庫。タバコをふかしながら一人の男(町田慎吾)が現われる。男は裏社会で「死神」と恐れられる敏腕の殺し屋で、今日の彼のターゲットは「同業者」だ。この倉庫はその同業者たちのアジトであり、お互いをタバコの銘柄で呼び合う彼らの中に、新入りとして潜入し合図が出たところでターゲットを抹消する、というのが依頼内容だった。そんな謎だらけの依頼に男が応えたのは「同業者」という言葉に強く惹かれたからだった。だが男の前に次々に現れたのは、関西弁の気遣い中間管理職(咲山類)、彼を補佐しているらしい男(小寺利光)、笑顔は固いが恐ろしく身体の柔らかい男(長澤風海)、アメリカ帰りだという男(冨森ジャスティン)、年若い新人(若松渓太)、そして強面だがノリの良い男(水谷あつし)という、とても同業者とは思えない面々。混乱する男は、次々に荷物を配達に来る宅配業者(法月康平)の存在を気にする暇もなく、DJ(桐生園加)の深夜ラジオ番組『ミッドナイトレモン』が流れる倉庫の中で、なんとか彼らの素性を知ろうとするが……。

下手高みに倉庫の入り口。デスクにソファ、そしてダンボール箱が積まれた一室という、場面が動かないワンシチュエーションの中で物語が展開するのは、scene1から引き継がれている形だが、やはり場所が銀座 博品館劇場になったことで、実験的な面白さがあったscene1よりも、より洗練された「演劇」の香りが自然に立ち上るのは、劇場空間自体が持つ力あってのこと。特にこの部屋に集まってくる男たちとは異次元に存在している、部屋に流れるラジオ番組のDJに出演者唯一の女性である桐生園加が入ったことと、外から部屋を訪ねてくる宅配便の配達員の法月康平が運んでくる風が、作品に新しい色を加味している。もちろん、咲山類、長澤風海、冨森ジャスティンが、scene1とは確実に異なるキャラクターを造形していることが、町田慎吾、小寺利光、若松渓太、水谷あつしの役柄の造形にも、新たな化学反応を起こしていて、最後に「golden lemonade」に物語のすべてが帰結する様はまるで奇跡のよう。ただただ米山和仁に頭を垂れる気持ちになった。こういう人材と縁をつなぎ、才能が才能に協力を惜しまない姿に、森新吾という天才の人徳が浮かび上がる思いがする。

しかも、台詞の端々、舞台のそこかしこに、森へのオマージュが溢れている舞台だから、もう冒頭の町田のモノローグから、胸詰まるものもあるのだが、それでも気が付いたら思わず声をあげて笑っていて、また気が付いたら泣いている舞台には、森が目指した演劇への愛、舞台芸術への想いと可能性があふれていて、これこそが森が信じたものの尊い輝きなのだと深く感じ入った。

そんな新たな作品を全力で創り上げた出演者たちは、scene1同様に、すべてがラストへとつながっている関係上、細かく触れるのが非常に難しいのだが、全員が清々しいまでに「楽しい舞台を創る!」との思いで団結していることがひしひしと伝わってくる。

森のポジションで急遽加わった咲山類は、スラリとした長身の二枚目だからこそ意外性がツボに入る、という咲山の個性を巧みに加味した役作りを披露。近年役者として積み上げてきた経験をフルに活かし作品を支えている。森と個性が全く違うこと、でも小寺との盟友関係は共通していることなど、咲山だからこそ可能だった造形に奮闘した姿に拍手を贈りたい。

冒頭から客席への語りも担う町田慎吾は、その役割に相応しい抜群の口跡の良さで惹きつける。大真面目だからこそ可笑しい、冷徹に決めていたからこそあまりにも馬鹿馬鹿しくて吹き出してしまうという、役柄の振り幅を全力で務めるのも町田ならでは。役者としての高い熱量を感じさせた。

今回演出面も担当した小寺は、咲山との自然な連帯感と共に、作品の流れの全体を俯瞰しつつ役柄を演じている絶妙な位置取りが際立つ。非常に細かい改訂がなされているが、それらを把握しながら舞台に立ったことは、小寺自身にとっても後々大きな実りとなるに違いない。

その小寺、更に咲山とチームになる長澤風海は、これがストレートプレイへの初挑戦。比類なきダンサーとして知らぬ人とてないだろう長澤だが、中性的な役柄、またこの世の者でない役柄も非常によく似合う個性とは、ややギャップのある低いトーンの声質が面白い効果を上げている。更に身体能力が高いということは、つまりここまで演技の幅を広げるのか!と驚かされる仕掛けが随所に施されていて、役者を志す人が何故ダンスを必修とするのかが、逆説的にわかる舞台ぶりで魅了した。これを機に、是非芝居にも積極的に関わっていって欲しい。

アメリカンな富森ジャスティンは、徹底的にダイナミックで豪快な演技と存在感を発揮。この役柄は一歩間違うと空回りになりかねない、実はかなりの難役だと思うが、冨森が生き生きと演じることでそう感じさせない爽快感を生んでいる。それぞれの人物たちが語る「過去」のシーンで演じる役柄、特に老人役にも絶妙な味があった。

若松渓太は、scene1で見せた瑞々しさ初々しさはそのままに、役者としてひとまわり大きくなったことが、芝居の随所に現われて頼もしい。何よりもscene1では若松が出るからには歌わせないと、という「実はこんな武器を持っています」に感じられていたナンバーが、極自然に作品の中に馴染んでいるのは、確かな成長の証だろう。

また、新キャラクターである宅配便配達員の法月康平が、まるで最初からドラマに当然必要な人物にしか見えないのにも驚かされるが、それはポイント、ポイントで出演しながら強い印象を残す法月あってこそ可能になった人物配置。出てくる度に何がしかのアクシデントがあり、更に出番がポイントであることを逆手に取った終盤の展開は喝采もので、是非期待して注目して欲しい。

そして新たに「ミッドナイトレモン」となった人気ラジオ番組のDJ桐生園加が、チャーミングな笑顔から、意味深長な強面までを自在に操り、女性も男装の麗人もと、ある時は可愛く、ある時はカッコよく登場する様が絶大なインパクトを与えている。敢えての真っ赤な口紅で、宝塚の男役を彷彿とさせるナンバーも披露するが、それが決して安直な印象を与えないのは、クリエーターたちが「宝塚歌劇」へのリスペクトをきちんと持っているからに他ならない。こうした場面が効果的に入るのは、実は思うほど多くなく大いに好感を持ったし、桐生が演じたならではの新しいDJになった。

そんな彼らを水谷あつしがどっしりと支え、舞台の要になっている効果は絶大。基本的に欧米人の肉体に合わせて作られたスーツ姿が、どこから見てもここまで完璧な男優は少ないことと共に、このノンストップステージに強いメリハリを加味していた。随所に入るダンスシーンが、ゆったりと動きながら尚様になるのも得難い存在だ。

何よりも、scene1で森新吾が演じた役からのリクエストとして「どんな逆境にあっても前を向いて進もう」というメッセージが届けられることが深く胸を打つ舞台で、9人の出演者と、小寺が「もうひとりの共演者」と呼ぶ音楽のTAKAの更に冴え渡る様々な楽曲の力、そしてもちろん森新吾その人の想いが、DIAMOND☆DOGSが産声をあげた銀座 博品館劇場の舞台に、確かに共にいることを感じられる特別なステージとなっている。

 

【公演情報】


「アクトカンタービレ scene 2『golden lemonade』〜森新吾へのオマージュ〜」
脚本・演出◇森新吾
音楽◇TAKA
協力◇米山和仁(劇団ホチキス)
出演◇咲山類/町田慎吾/長澤風海 小寺利光 法月康平  冨森ジャスティン 若松渓太/桐生園加/水谷あつし
●5/9〜13◎銀座 博品館劇場
〈料金〉7,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉博品館劇場 03-3571-1003
http://theater.hakuhinkan.co.jp/pr_2019_05_09.html

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

 

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