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アラン・エイクボーンの傑作コメディ『嘘と勘違いのあいだで』に出演! 水夏希インタビュー

イギリスを代表する喜劇作家アラン・エイクボーンの傑作コメディ『嘘と勘違いのあいだで』(原題:Relatively Speaking)が、7月17日~28日、東京・六本木トリコロールシアターで上演される。
この作品は、結婚秒読みの若い男女のカップルのうち、女性が男性に秘密にしている歳の離れた愛人の男性とその妻という、4人の男女が織りなす「嘘」と「勘違い」が引き起こしていくすれ違いの数々を描いたコメディで、日本でも何度も上演されている名作だ。

今回の上演にあたり演出の保科由里子が新たに翻訳・日本語上演台本を担当。タイトルも『嘘と勘違いのあいだで』となり、新たにブラッシュアップされた作品が生まれでる。
そんな舞台で、若い女性を愛人に持つ男の妻シーラを演じる水夏希が、作品や役柄の魅力、パワフルに進む稽古の様子などを語ってくれた。

 

 

すべてのことをポジティブに受け留める

──お稽古たけなわとのことですが、作品に感じている魅力から教えてください。

この戯曲は翻訳されたものが市販されてもいるのですが、少し前のものなので、今回新しく演出の保科(由里子)さんが翻訳されていて、内容を刈り込んだり、現代風なアレンジをされたりしています。保科さんがとてもコメディが得意な方ですから、非常にテンポアップして面白さの詰め込まれたものになっていますね。本来は2幕ものなのですが、それを休憩なしで一気にご覧頂くので、場面転換もほとんどありませんから、おそらくあっと言う間という感じで、楽しんでいただけるのではないかと思います。

──その中で水さんが演じるのが、栗原英雄さん扮するフィリップの妻シーラ。夫には新垣里沙さん演じるジニィという愛人がいます。

何しろこういう、郊外に暮らしている普通の主婦という役どころが初めてで! 遠からずとは思っていたものの、やればやるほど根本の部分が違うというか(笑)。シーラには時間がたっぷりあり余るほどあって、今日の予定も何もなく、朝起きると「今日は何をしてすごそうかしら」と思っている。それも、「時間が有り余っちゃって何して良いかわからない。退屈だわ」ではなくて、緑の溢れる綺麗なお庭の中で、日々のほんの小さなことに幸せを見出して、毎日とっても幸せに楽しく暮らしている人なんです!でも私自身は、どちらかというと生き急いでいて(笑)、時間がとても大事!時計が欠かせない!で生きているので、そこが今、すごく大変です。自分のやりたいようにいつもの調子で演じると役と離れてしまうので、すごく気をつけてシーラという人物のポイントをいつも頭に置いて、修正しながらやっているという感じですね。でもそこがちゃんと叩き込まれていけば、楽しく出来ると思うので、スローライフを満喫しているシーラに如何に近づいていくかですね。今はまだ行ったり来たりしちゃっているんですけど(笑)。

──そうしたご自身とは距離がある役柄を演じるからこその発見もあるのでは?

そうですね。ある意味今まで、特に宝塚では忙しい時間の中で、しかも男役で先頭に立ってバシバシやってきましたが、本来の自分が持っているであろう、例えば自然を見て「あ~癒されるなぁ」と思う感覚に、フォーカスしていけたらいいなぁと思っていますね。

──宝塚を受験しようと思う以前のご自身には、そういう部分は?

あまり無かったんですけどね(笑)。小学校の時から学級委員長とかやりたいタイプで、「皆さん静かにしてください!」みたいな方だったから。でも、何十年も生きていく中で、やっぱりほっこりのんびりしたいなという気持ちは、もちろんありますし、シーラは全てのことをポジティブに受け取る人だからこそ、小さな事にも楽しみを見出せて、いつも明るく楽しい。つまり、自分のことが好きで、自分が楽しく過ごしたいというのが一番にあって、なんでも面白く受け取るし、何かハプニングがあっても「このハプニングどうやって乗り越えようかな~!」というのを楽しみにしていて、だから、この嘘と勘違いの連続のお話を導くキーパーソンにもなるんですよね。そのポジティブさには憧れますし、「あ~、明るくて愛くるしい人だな」って思っていただけると良いなと思っています。

──そうしますと、水さんにとっても新境地開拓ということになりますね!

本当にそうなんです!だから演出家にも「セリフが矢のように飛んでくるみたいな感じはやめてください」って言われています(笑)「スポーン!と言わないで、まぁるくまぁるく言ってください」っていうのが演出家からのオーダーなので、長年のファンの方にも初めて見る私をご覧頂けると思います。

 

これをどうするの?というハラハラドキドキ

──共演者の皆さんについてはいかがですか?

辻本祐樹さんと新垣里沙さん、若者二人のシーンから始まるんですけど、二人がもう可愛くて面白くて。それをも見て焦る大人たちみたいな(笑)。冒頭からの第一場は特に、若い才能が溢れていて、二人共素晴らしいです。若いけれども場数は踏んで来ていらっしゃる二人なので、もう流石だなと。感性も素晴らしいし、テクニックもおありだし、瞬時のアイディアもすごいです。また栗原英雄さんはいろんなジャンルのことをされている方なので、知識が豊富で頼りになって!栗原さんもどちらかというと、きちんとしていらして、真面目で厳しそうな雰囲気ですけど、その栗原さんがめちゃくちゃお茶目なんですよ!演出家からのワードは「ダサカッコイイ」で、「カッコつけてるんだけど、どこかダサいんだよな~」みたいな(笑)ところを的確に出されるので、そこが可愛くて面白いです。

──お二人のその掛け合いも楽しみですね。保科由里子さんの演出家さんはどうですか?

とてもパワフルでスピーディーです。それこそいつも「皆さん元気ですか~!」という勢いで(笑)、私たちがグッタリしている時でも「ハイ、頑張るよ~!やるよやるよ!あ、すごく良かったよ!」とのせてくださるので、「あぁ、はい、ありがとうございます」みたいな(笑)面白いことが大好きな方なので、「ここはポンポンポンと言ってください」という指示によって、台本だけではただの会話なのに、そこに演出が入ると「こんなに面白いシーンになるんだ!」というところがたくさんあるんですよね。

──台本を読んで、笑うポイントではないと思っていたところも面白くなるとか?

そうなんです!そこが素晴らしいなと思いますね。アイディアも豊富だし、何より作るのが早い!次から次へと発想が浮かんでくるのが凄いなと。子供の頃から演劇一筋で、他のものにはそれほど関心がなかったというほどの、演劇少女だったんだそうです。そういう方が、10年以上ニューヨークで勉強されて来ているので、発想も新鮮ですし、舞台の隅から隅まで全員が使う動きも面白いです。六本木トリコロールシアターはコンパクトな劇場なので、4人が縦横無尽に動き回っているのを、どこからでもよく見て頂けると思います。

──皆さんが勘違いをしていくお話ですから、観客にはわかっているけれど、登場人物が大真面目にズレていくことが、伝われば伝わるほど楽しいでしょうし。

そうだと思います。だから演じる方は、喋っている相手役のニュアンスのとまどいや驚くをあまり感じてはいけないのですが、お客様はきっと「あ、このシチュエーションでこの会話になったらそりゃ勘違いするよね」というのが良くおわかりになると思うし、「あぁあの人、勘違いしたまま、この人にその話しちゃった!」みたいな。ドリフターズの「後ろ後ろ~!」みたいなね(笑)。「これどうするの?どう修正するの?」というハラハラドキドキを楽しんでいただけるんじゃないかと思います。カンパニーが和気藹々と良いコミュニケーションが取れていて、本当にファミリーみたいな感じで楽しくて、人数が少ないぶんセリフが多くて、覚えられる気がしないぐらいセリフが多いんですけど(笑)、なんにでも楽しみを見出すシーラらしく(笑)楽しく頑張りたいです。

厳しいことを如何に楽しくやるかでより良い結果が

──気がつけばもう7月に入っていて、初日が迫っていますね!

そこが問題です(笑)。ついこの間まで、まだ6月だな~と思っていたのに!ここからのスパートが勝負ですね!

──今年も半分過ぎたところですが、この半年の水さんの活動も密度が濃かったですね。

もう覚えていない!(笑)だいたいいつも覚えてないんですけど、終わったことは(笑)。でも、今年の9月で宝塚を退団して10年目に入るんです。だから「この9年間何をやって来たのかな?」と思って、やってきた作品のタイトルを眺めたりはしました。「色々やらせてもらったな~」とか、「あぁ、この年はすごく忙しかったな」みたいな事は思いましたね。

──10年間を振り返ってみた?

少しですけどね!本当に少しだけ。ただ10年目に入るので、その10年目が丸々終わったところで、また何か一つ目標というか、次へのステップに進めたらなと思います。この10年の集大成というか、10年の積み重ねを今年1年、この9月から来年の9月まで生かしてより自由になれたら良いなとは思っていますね。

──まだ振り返る感じではないとのことですが、宝塚時代があり、そこから10年経とうとするところまで走って来られたことについて、今ご自身では?

あっという間すぎて怖いですね。退団する時に荻田浩一さんが「やっぱり男役から女性になるのに10年はかかるよね~」っておっしゃっていたんです。荻田さんの方が少しだけ早かったですけれど、だいたい同じ時期に退団していて、よくそういう話をなさっていた。それを聞いて「よし!じゃあ10年かからずになんとか形にするぞ!」って思っていましたけれど「あ、やっぱり10年かかるんだ」と今は思っていて(笑)。ちょうど今年9月に荻田さんとの仕事があるので、10年目に突入する手前で、また新たな発見があったり色々な話も出来たらと思っています。このカンパニーでも栗原さんも劇団四季を退団されて10年で、保科さんもニューヨークから帰って来られて10年なんですね。だから皆ちょうど10年目というタイミングで今回ご一緒しているので、それぞれの10年というものを感じます。自分の9年間も決して怠けることなく毎回いただいたお仕事に真摯に向き合って来たつもりではありますが、もっとやれる事があったんじゃないかとか、今後はもっと違う角度から自分をアピールして行こうかな等の思いはありますね。

──10年経たからこそ、新たにやりたい事も?

里沙ちゃんと前回ご一緒したのが『義経千本桜』で、退団してまだ4年ぐらい、しかも役柄が男として生きてる女性だったので、バリバリ男役が残っていましたから、「全然雰囲気が違ってびっくりしました」と、今回言ってくれたんですけど、そういう自分の中でも女性として生きることとか、自分の個性、魅力に対してもやっぱりどんどん認識が変わってきているので、これからはもっと楽しくという気持ちもあります。これまでは「楽しく仕事するなんてありえない、仕事とは厳しいものだ」と思っていましたから(笑)

──そこはかなり共感します(笑)。

そうでしょう?もちろん遊びじゃないですから楽しいだけということはあり得ないですけれども、厳しいことを如何に楽しくやるかで、より良い結果が残せる。そうしたらやっぱり自分を好きになる。好きになると自分が楽しむ事をしたいって思うから、より楽しくなるんですって!

──まさにシーラですね!

そうなんですよ!つまり、良いことしかないじゃない!みたいな。ポジティブに生きるしかないぞと思っています。更にただポジティブだけだと「アイツあまりにも楽観的でムカつく」みたいになっちゃうんですけど、ネガティブ出身のポジティブは強いだろうなと思うので(笑)。物事を楽しく捉える思考をつけていけば、次の10年間は高い目標に向かっていくことも、もっと違う道から進めるんじゃないかと思うので、もちろん真摯に仕事に向き合う姿勢は変わらずに、もっと楽しい時間を増やしていきたいので、今ここでシーラに出会えたのはすごく良い機会になりました。シーラを通してお客様が癒されるような時間をお届けしたいなと思ってます。

──新たな水さんに出会える期待が高まりますが、では改めて意気込みをお願いします。

六本木トリコロールシアターは初めてなのですが、小さめの劇場ならではお客様との距離の近さを楽しんでいただけると思います。そして、舞台ではロンドンの郊外の美しいグリーンのお庭でほとんどのシーンが展開されるので、爽やかな夏の風を感じていただければいいなと。その中で四人四様に色々な観点で一つのシーンを、引いては物語を生きているので、お客様も「あの人はこの事態をどう見ているんだろう」と一人ずつにフォーカスして観ていただけたら楽しいと思います。

──今日はこの人の視点で観てみようとか?

はい!ですから最低4回はご覧いただけるといいかなと(笑)。「生きるとは」というような、重い話ではありませんので、気楽に来ていただいて、最後はほっこり幸せな気分になっていただけたら良いなと思っています!

みずなつき○千葉県出身。1993年宝塚歌劇団入団、07年雪組男役トップスターに就任。10年に退団。以後は舞台を中心に活躍中。最近の主な出演作は、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』、『パンク・シャンソン』~エディット・ ピアフの生涯~、『ラストダンス-ブエノスアイレスで。~聖女と呼ばれた悪女 エビータの物語』、『Pukul』、『一月物語』、『Flamenco マクベス ~眠りを殺した男~』、ミュージカル・コメディ『キス・ミー・ケイト』『ベルサイユのばら45~45年の軌跡、そして未来へ』『細雪』など。

【公演情報】
ショウビズ企画公演
『嘘と勘違いのあいだで』
原作◇アラン・エイクボーン「Relatively Speaking」
翻訳・日本語上演台本・演出◇保科由里子
出演◇辻本祐樹、新垣里沙、栗原英雄、水夏希
●7/17~28◎六本木トリコロールシアター
〈料金〉7,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公演公式サイト〉http://www.show-biz.jp/usokan/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】

 

 

 

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