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美しき愛と魂のリレーを描く音楽劇『ライムライト』

喜劇王チャールズ・チャップリン晩年の傑作映画『ライムライト』を世界で初めて舞台化するという大きな挑戦を果たした意欲作、音楽劇『ライムライト』が、チャップリン生誕130周年の記念の年となる2019年、新キャストを迎えて日比谷のシアタークリエで待望の再演の幕を開けた(24日まで。のち全国公演もあり)。

音楽劇『ライムライト』は、表現者である肉体が老いていく宿命を負った舞台人と、その想いをリレーしていく崇高なまでに美しい愛を描いたチャップリンの不朽の名作映画を、チャップリン研究の第一人者として知られる大野裕之の上演台本、荻野清子の音楽、荻田浩一の演出、石丸幹二主演で舞台化し好評を博した作品。今回の2019年版は、ヒロインのバレリーナ・テリーに実咲凜音、ヒロインとかつてほのかな想いを寄せ合ったピアニスト・ネヴィルに矢崎広を迎え、更にブラッシュアップされての上演となった。

【STORY】

1914年、ロンドン。かつてミュージック・ホールの人気者だったが、時代の趨勢の前に今は落ちぶれている老芸人・カルヴェロ(石丸幹二)は、元女優のオルソップ夫人(保坂知寿)が大家を務めるフラットで、酒浸りの日々を送っていた。
ある日カルヴェロはガス自殺を図ったバレリーナ・テリー(実咲凜音)を助ける。テリーは自分がバレエを続ける為に、姉が街娼をしていたことにショックを受け、脚が動かなくなり人生を悲観したのだ。
カルヴェロはテリーを献身的に介護し、再び舞台に戻そうと支え続ける。その甲斐あって歩けるようになったテリーは、ついにエンパイア劇場のボダリング(植本純米)が演出する舞台に復帰し、将来を嘱望されるバレリーナとして認められるようになる。今度は自分がカルヴェロを助ける番だと彼に求婚するテリー。だが、カルヴェロは若いテリーが愛情と感謝と同情を混同していると察し、かつて彼女がほのかな思いを寄せ、今は新進作曲家として注目を集めテリーに求愛しているネヴィル(矢崎広)と結ばれることを願って、自身はテリーの前から姿を消してしまう。ロンドン中を探し回りようやくカルヴェロと再会したテリーは、劇場支配人のポスタント(吉野圭吾)が、カルヴェロの為の舞台を企画しているから、戻ってきてもう一度舞台に立って欲しいと懇願する。はじめは頑なに拒んでいたカルヴェロだったが、遂にテリーの真心に突き動かされ、再起を賭けた舞台に挑むが……

アカデミー作曲賞を受賞した名曲「エターナリー」を軸とした、美しい音楽に乗せて展開する舞台は、たった8人の出演者が、それぞれの主たる役柄ばかりでなく、アンサンブルとして様々な役柄を演じながら紡がれていく。これは初演の形と変わらないが、今回特徴的だったのが、多層的でどこか幻惑的でもある舞台創りが「荻田ワールド」と称される、演出の荻田浩一の個性が良い意味でほんのわずかに後退して、舞台上に1人の悪人も出てこない、主軸となる切ないラブストーリーだけでなく、登場人物たちすべてがそれぞれの立場で互い尊重し、情を持ち、心を寄せ合っているこの『ライムライト』という美しい世界を、美しいままにストレートに提示していることだった。それによって人を想う心根の尊さや愛おしさが更に透明感を増して、舞台上に立ち現れたのが印象的で、この人生の哀歓を謳い上げる舞台にあるのが、ひとつの世代が次の世代に想いを受け渡していく、魂と愛のリレーだという美質をより明確に表していた。どこかいびつなものに表現の根底があった荻田の、この静かだがクリアな変化が、舞台にもたらした温かなものに新しさと豊かさを感じる。

その印象を強めたのが、主演の石丸幹二がこの期間に重ねた経験の蓄積からくる、どこか飄々とした味わいで、それがあるからこそ、時代から忘れ去られようとしている芸人のプライドと哀しさ、そしてそのプライドが愛によって昇華され魂をつないでいく様が、より胸をうつ。思えばこの役柄は、石丸が年齢を重ねるにつれて更に近づいてくるものなだけに、是非ライフワークとして演じ続けて欲しいし、その可能性が一層高まった作品になっていると感じた。

ヒロインテリーを新たに演じた実咲凜音は、憂いに沈んだ初登場時から、カルヴェロに命を救われ、やがてプリマバレリーナになっていくまでの変化を、瑞々しくあくまでも可憐に美しく演じて作品の華になっている。宝塚時代にはどちらかと言えば元気溌剌なチャーミングさの方が前に出ていた人だが、しっとりと気品高い舞台ぶりが実に新鮮。バレエシーンも凜として踊りきり、改めて確かな実力とヒロイン力の高さを示していた。

もう1人の新キャストネヴィルの矢崎広は、軍服が抜群に似合う爽やかな二枚目としての資質と、うちに秘めた想いの深さの表現が役柄に打ってつけ。テリーへの愛故に、カルヴェロに抱いた複雑な感情が、後悔と感謝に変わっていく終幕の演技も見事で、『ジャージー・ボーイズ』初演から再演で感じさせた長足の進歩を、更にハッキリとあらわした好演だった。

彼ら三人を取り巻くメンバーは全員初演から引き続いての登場だが、それぞれに深みを与える存在と演技が素晴らしい。
カルヴェロとテリーが暮らすアパートの大家オルソップ夫人の保坂知寿は、お節介焼きで鵜の目鷹の目のこの夫人が、深いところでカロヴェロに情を感じ、最後まであくまでも味方であることに説得力を与える温かさの表出が巧み。石丸との芝居が互いに絶妙なのも、やはり同じ出自を持つ二人故で、年始に同じ劇場で『レベッカ』のダンヴァース夫人を演じていたことを思うと、その役幅の広さに感嘆させられる。

劇場支配人ポスタントの吉野圭吾は、時代を見極める厳しい支配人として登場している時から、どこかに憎めなさを残すのがこの人ならではで、それが終幕のカルヴェロに示す親愛に不自然さを与えず、胸を打つ効果につながっている。年々深みを増している吉野の役者ぶりが際立った。演出家ボダリングの植本純米は、ボダリング以外に演じている様々な役どころでも、登場ごとに強い印象を残し、笑いを誘いながら決してうるさくならない絶妙な演技が余人をもって代え難い。様々な雑用に追われて「お母さんじやないんだから!」と言いながら引っ込む場など、きっとこのカンパニーでは本当にお母さんのような存在なのだろうな、と思わず想像させる味わいがある。また美しいバレエダンサーとして舞台を彩った佐藤洋介、舞城のどかも、幾多の役柄でも活躍。彼ら出演者の成長と、演出の変化が、チャップリン映画の舞台化という初演にあった「挑戦」の二文字をほぐして、より豊潤な美しさを増した作品となっている。

【公演情報】
音楽劇『ライムライト』
原作・音楽◇チャールズ・チャップリン
上演台本◇大野裕之
音楽・編曲◇荻野清子
演出◇荻田浩一
出演◇石丸幹二 実咲凜音 矢崎広
吉野圭吾 植本純米 保坂知寿 ほか
●4/9〜24◎日比谷・シアタークリエ
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半〜17時半)
[全国ツアー]
4/27〜29◎大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
5/2〜3◎福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール
5/5〜6◎愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
https://www.tohostage.com/limelight/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

 

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