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彩風咲奈&朝月希和率いる新生雪組始動!『CITY HUNTER』-盗まれたXYZ-『Fire Fever!』

宝塚歌劇団雪組新トップコンビ彩風咲奈と朝月希和のお披露目公演ミュージカル『CITY HUNTER』-盗まれたXYZ-とショー オルケスタ『Fire Fever!』が、10月2日~11月14日東京宝塚劇場で上演された。

宝塚の誇る歌唱力トップコンビとして名を馳せた望海風斗&真彩希帆コンビから雪組のバトンを受け継いだ、新雪組トップスター・彩風咲奈は、抜群のプロポーションと爽やかな個性を併せ持つ生粋の雪組育ちの男役スターとして、長く組の中核メンバーの地歩を固めてきた逸材。また新トップ娘役・朝月希和は新人公演ヒロインも務めた花組時代から可憐な娘役として注目を集め、雪組に組替え後は彩風と共に、特にショーシーンで名場面を繰り広げた記憶も新しく、まさに満を持してのコンビ就任となった。

そんな門出のお披露目公演に用意されたのが、まずミュージカル『CITY HUNTER』-盗まれたXYZ-。1985年「週刊少年ジャンプ」での連載開始以来、累計発行部数5,000万部を超える大人気コミックに成長し、テレビアニメーション、またフランス実写映画版なども作られた北条司の「シティーハンター」初の舞台化作品となった。

【STORY】
1980年代終わりの東京新宿──
新宿駅東口の伝言板に書かれた「XYZ」の文字。それは裏社会の敏腕スイーパー(始末屋)「CITY HUNTER 」こと冴羽獠(彩風咲奈)への依頼を示すメッセージだった。アルファベットの最後の三文字XYZ=後がない。法的な手段では解決できない困難な状況に陥った依頼人が、最後の望みを託して獠に助けを求めてくるのだ。だが、獠が依頼を引き受けるのは、滅法弱い美女の頼みか、心が震えた時のみだった。

そんな選り好みの激しい獠の仕事ぶり+美女に誘われると断れない体質が禍して、「CITY HUNTER 」の懐事情は常に火の車。今日も新宿のCLUBやバーからツケの取り立てが押しかけ、パートナーの槇村香(朝月希和)は頭を悩ませている。そんな「CITY HUNTER 」に旧知の警視庁敏腕刑事・野上冴子(彩みちる)が、軍事クーデターが勃発したグジャマラ王国から日本に亡命してきたアルマ王女(夢白あや)の護衛を依頼してくる。だが王女がまだ17歳の少女だと聞かされた獠は、オトナの女性にしか関心がないと首を縦に振らない。

同じころ新宿駅東口伝言板にも「XYZ」のメッセージが。こちらは暴力団絡みの厄介事に巻き込まれた息子・小林豊(彩海せら)を守って欲しいという、女優の宇都宮乙(千風カレン)からの依頼だった。かつて女優の道を極める為に手放した息子を、今こそ命懸けで守りたいという母の一念に心を打たれた獠は、この依頼を受けることに。

そんな折も折、獠がアメリカにいた時代のパートナーだったミック・エンジェル(朝美絢)が獠を訪ねてくる。早速旧交を温める二人だったが、ミックの来日には獠の人生を決めたと言っても過言ではない、国際犯罪組織ユニオン・テーベの首領・海原神(夏美よう)の思惑が絡んでいて、一見無関係に思えたいくつもの出来事はいつしかつながりあい、獠と香それぞれの生きざまに関わる事件へと発展していき……

基本的には1時間半という時間枠のなかで、物語は非常によくまとめられていたと思う。まず獠の元パートナーで国際犯罪組織ユニオン・テーベの幹部ジェネラル(真那春人)に殺された槇村秀幸(綾凰華)の亡霊をストーリーテラーにした着想が効いていて、妹の香が獠のパートナーとなったいきさつや、香のたったひとりの兄への復讐譚を根底に据え、獠と香が「CITY HUNTER 」としてのパートナーであるが故に、ハッピーエンドが迎えられないのでは?という疑問を通奏低音にしていくのが、二人の信頼関係や愛情、だからこその葛藤を情報量が非常に多い作品のなかで埋もれさせない効果になっている。ここにグジャマラ王国の軍事クーデター、女優の宇都宮乙の隠し子・豊が暴力団「劒会」から持ち出した麻薬、野上冴子の父・野上警視総監(奏乃はると)が重大な決断を迫られる警視庁内部の腐敗等々の大きな柱の出来事が全て収斂されていく様は、なかなか見応えのあるものだった。中でも獠と海原の因縁の対決をオリジナルで描いたことは、作品の宝塚化に際して重要なキーポイントになったし、喫茶「キャッツ・アイ」の海坊主・こと伊集院隼人(縣千)と美樹(星南のぞみ)や、「CITY HUNTER 」の追っかけジャーナリスト冬野葉子(野々花ひまり)と、彼女に恋する政(諏訪さき)の二組のカップルをはじめ、とても書ききれない膨大に出した登場人物のエピソードを、ほぼ取りこぼしなく回収したのは、脚本・演出の齋藤吉正がプログラムの作者言で「思春期の男子学生たちが、大人の男になる為のバイブル」という趣旨の言葉で原作を讃えている思いの深さの現れだろう。おそらくこの仕上がりなら、男女が出演する一般の舞台でも、是非上演したいという声があがるのではないかと思うほどだ。

ただ、これが雪組新トップコンビ彩風咲奈と朝月希和の披露公演に最適だったか?という一点に於いては、どうしても一抹の疑問が残ったのも正直なところだ。獠が親しみを込めて美女たちにするボディタッチは、現代の視点からすると完全NGだが、こうした行為がむしろ「礼儀」に近い感覚のものだった、思わず遠い目になる時代というのは現実にあったし、それを全部取っ払うと「CITY HUNTER 」の冴羽獠が冴羽獠でなくなる、という面も確かにあると思う。その為に映像効果で登場する当時の宝塚歌劇の作品宣伝をはじめとした数々の小ネタで、この舞台に描かれているのが1980年代終わりの、所謂バブル期の新宿だったことが強調されてもいる。考えたら駅に必ずあった伝言板自体、もう見たことがない観客も多いだろう。新宿の占い師の婆(沙月愛奈)の「こんなんでましたけど~?」が流行語になったに至っては、おそらく通じない層が増えていて、逆にこれで時代感が出るか?が怪しいと思えるほど、こだわった作りにもなっている。

ただ、そうした努力は重々わかった上で、やはり宝塚のトップスターに冴羽獠を演じさせるのなら、今の描き方からできればあと3割、少なくとも2割シリアスを加えて良かったのではないか。中でも秀幸と香兄妹の関係性の真実、秀幸から獠がそれを託された象徴である指輪、そして香の射撃の腕がからっきしなのはなぜか?など、原作のロマンチックな部分、宝塚のトップコンビにとって必要不可欠だと思えるエピソードが「ご存知ですよね?」とばかりに、全く説明されないのがどうしてももったいない。そこに尺を割くと或いはキャスティングにも影響があったかも知れないし、いくつかの役を割愛せざるを得なかったかも知れない。青年のバイブルの躍動感と軽やかさが、多少なり後退した可能性もあるだろう。だがそこはやはり宝塚歌劇作品だし、ましてや新トップ披露公演なのだから、獠と香の関係に焦点を定めて「『CITY HUNTER』は俺ひとりじゃない。俺たち二人で『CITY HUNTER』なんだ」を強調して、しすぎるということはなかったと思う。

もちろんこの大人気漫画を原作にした効果は大きく、客席にはひとりで観劇していると思われる男性の観客が特段に目立ったし、彼らが必ずと言っていいほどプログラムを購入して、開演前や幕間に熟読している姿を実に多く目にした。コロナ禍で集客に苦慮する劇場が多いなか、宝塚歌劇の観客層を確実に広げたこの効果は素晴らしいし、『ルパン三世』でスタートダッシユをかけた雪組の先々代のトップスター早霧せいなの勢いに、彩風が続いてくれることも願っている。だからこそ「CITY HUNTER」らしさと「宝塚らしさ」のバランスを、齋藤にはもうひと匙加えてもらえたらと感じた。

そんな作品の冴羽獠を、宝塚歌劇作品のトップスターが演じる役柄に収めた彩風咲奈の、これがトップ披露とはとても思えない堂々たる主演ぶりには、どれほどの賛辞を贈っても足りないものがある。前述したように現代の視点では問題行動の多い獠の振る舞いを、心に深い闇を抱えているからこそ、全てを冗談にしてしまおうとしている姿に見せたのはほとんど驚異的だ。ややガニ股にも見えるマンガチックな走り方をしても、これだけカッコイイのも彩風のこちらは少女漫画ばりのプロポーションあってこそ。あくまでもふざけながら、瞬間に見せる真顔がきちんと目に残る、非常に早い段階から雪組の将来を担う人材と目され、確実にキャリアを積んできた彩風だからこそできた離れ業にひれ伏すトップ披露になった。

そのパートナー槇村香の朝月希和も、常に男性と間違われる容貌で、美人に弱い獠に鉄槌の100tハンマーを振るうという、漫画世界ならではの設定を、宝塚歌劇のトップ娘役として担う困難は如何ばかりだったかと思うが、踊れる強みを生かしたカリカチュアされた動きで、生きた槇村香を体現することに成功している。役柄上美しいドレスも着ないし、本来の得意の音域より格段に低い楽曲など、朝月ほどのキャリアがなかったらとても成り立たないと思える香役でも可憐さを手放さない姿にはただ感嘆するし、彩風の獠を見つめる瞳も美しかった。

アメリカのスイーパー、ミック・エンジェルの朝美絢も気障にキメているようで、微妙にズレていくという、やはり宝塚の二枚目男役としては難しさのある役柄を、派手なピンストライプの衣裳に負けない目力で描き出している。性根がどこにあるのかが二転三転していくミックだが、これまでミステリアスで腹に一物あるという役どころを多く演じてきた朝美の経験値が生きて、最後まで興味を引っ張る存在になったのが実に効果的だった。香へのグイグイくるアプローチも嫌味なく微笑ましい。

槇村秀幸の綾凰華は、ほとんどの場面で霊体という存在が非常に面白い。無理なくストーリーテラーの役割を兼ねてもいて、この宝塚版に欠かせない存在を、綾の優しく柔らかな持ち味がよく活かしている。このポジションを二番手にという考え方も十分できたかもしれない作劇のなかで、どこか癒し系の、いまの時代ならではの綾の男役像がピッタリとあった。槇村が見えている花束ゆめ演じる竜神さやかとの小芝居も、ついつい目で追いたくなる作り込みになっていた。

もうひとり原作の人気キャラクター海坊主・こと伊集院隼人の縣千が、バズーカ砲をかついでいる姿が似合い過ぎる、と思えるほどのマッチョ感を巧みに出していて、「キラキラ宝塚系」とわかるラストまでグラサンをかけたままという役柄で、ここまで目を引くのに驚かされる。誰の目にも納得だろう海坊主になっていて、美樹の星南のぞみにとってかけがえのない存在なのが台詞のない場面でもよく伝わった。星南も驚くほど芝居が自然体になっていて、ここまで成長した美貌の娘役の退団が惜しまれてならない。

その娘役では野上冴子の彩みちるが、原作世界の「イイ女」を体現したスリットの深く入ったミニスカートで、色気もありつつ宝塚世界を踏み越えない絶妙のバランスを保ち、くっきりとした陰影を残した。月組への組替えが決まっているが、力量を買われての異動だろう。ますますの活躍を期待している。更に獠と二人のロマンチックなシーンや会話が、香よりもひょっとしたら多いかもしれないと思えるアルマ王女の夢白あやが、獠への一途な初恋を具現して、なんともプリンセスらしい。こういう役柄は独壇場の娘役だけに、作品世界の印象も大きなものだった。一方勘違いしっぱなしの「CITY HUNTER 」の追っかけジャーナリスト冬野葉子の野々花ひまりが、ジャーナリストというよりはディープなファンという存在を振り切って演じたし、彼女にぞっこんの政の諏訪さきが、滑稽味たっぷりの演技で気を吐いた。一転、ストーリー展開の大きな鍵を握っている小林豊の彩海せらは、拗れた少年らしい強がりと心許なさをよく表現して、物語を進める重責を果たしている。その母の女優・宇都宮乙の千風カレンが、さすがの大女優らしさを醸し出せば、野上警視総監の奏乃はるとが、総理に頭が上がらない小物感を通しているからこそ、ラストの決断がよく生きている。彼が娘の婿にと見込む警視正・北尾裕貴の眞ノ宮るいも、役柄に必要な食わせ物感をきちんと描き出した。つながる悪の組織側では、暴力団「劒会」の会長・伏見劒の久城あすが頭脳派、国際犯罪組織ユニオン・テーベの幹部ジェネラルの真那春人が武闘派の悪を演じ分け、なんといっても海原神の夏美ようのラスボス感が群を抜く。本来英真なおきが演じる予定だったところを、体調不良による降板を受けて急遽の出演になったが、適度にナルシスティックで押しが強く、自分本位な雰囲気がよく出ていて、最初から夏美の為の役だったかに思わせたのはさすがにベテランの技。宝塚の冴羽獠をある意味で支えた、もうひとつの力業に拍手を贈りたい。

他にもこれが退団公演の雪組の誇るダンサー沙月愛奈の新宿の婆が、非常に良いポジションで登場したのをはじめ、獠の協力者の教授の橘幸、名取かずえの華蓮エミリ、第一声で目立つエラン・ダヤンの汐聖風美、豊の親友・南敦の望月篤乃と退団者に手厚いだけでなく、残念ながらとても書ききれない多くの役柄で新生雪組が躍動。新たな雪組の熱気が感じられるのが、何より尊い舞台になった。

その熱気が真っ赤な衣装に象徴されていると思えるほど「真紅」の印象が強いショー オルケスタ『Fire Fever!』は、踊って、踊って、更に踊りまくる彩風&朝月率いる新生雪組を強固に感じさせる作品で、稲葉太地の作。朝美以下男役陣も加わる大ラインダンスまで用意された、とにかく踊る雪組!が堪能できる。バラエティに富んだ場面で異次元スタイルを披露してくれる彩風と、男役に添うこともひとりで場面を担うことも共に可能な朝月のコンビ感もよく表れた。

ただ芝居が「二人でCITY HUNTER」という作りだっただけに、冒頭からのコンビの衣裳はもう少しロマンのあるものでも良かったように思うし、朝美が任されたドン・ジョヴァンニが滑稽味の強い場面だったのも、芝居とやや似通ってしまう二本立て上演の難しさも感じる。場面単体とてしては素敵なのだが、帽子をかぶるシーンが何場面も続くのは二階席の観客に不親切で、スターの顔がどこからでも見える配慮は、やはり宝塚としては外さないで欲しい。このあたり、日本物では特段な美しさを放つ衣装の川底美由紀にも一考を願いたい部分だが、雪組の様々な顔が見える場面が多い美点は文句なしに買う。特に縣千中心のダンスシーンの二倍速とも思えるスピード感に溢れる爽快感が出色で、雪組次世代のダンサーたちが頼もしい限り。ここからデュエットダンスに至るフィナーレの流れも贅沢で、和希そらが加わってくる2022年からの雪組の充実度にも期待が高まる。総じて新しい組になったという感覚満載の、新星雪組のスタートを隅々にまで感じる舞台だった。

【公演データ】
ミュージカル『CITY HUNTER』-盗まれたXYZ-
原作◇北条 司「シティーハンター」(C)北条 司/コアミックス 1985
脚本・演出◇齋藤吉正
ショー オルケスタ『Fire Fever!』
作・演出◇稲葉太地
出演◇彩風咲奈 朝月希和 ほか雪組
●10/2~11/14◎東京宝塚劇場
〈料金〉SS席12.500円 S席9.500円 A席5.500円 B席3.500円
〈お問い合わせ〉0570-005100 宝塚歌劇インフォメーションセンター
〈公式ホームページ〉 http://kageki.hankyu.co.jp/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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