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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】『不思議の国のアリス ミュージカル版』ルイス・キャロル&ヘンリ・サヴィル・クラーク

『不思議の国のアリス』初版本表紙

 

坂口 今回はルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』ミュージカル版。とてもたのしいミュージカル台本でビックリしました。
植本 なんかルイス・キャロルって、もともと演劇が好きだったみたいで、本を書いてからすぐ演劇にしたかったんだけど、うまくいかなくて。で、劇作家のヘンリ・サヴィル・クラークという人からミュージカルにしたいと申し出があり、やってみたら大ヒットしたらしいですね。

『不思議の国のアリス ミュージカル版』
【キャスト】(登場順)
 アリス
 妖精たち
 白ウサギ
 芋虫
 公爵夫人
 コック
 チェシア猫
 帽子屋
 弥生ウサギ
 ヤマネ
 トランプの兵隊
 ハートのクイーン
 ハートのキング
 ハートのジャック
 処刑人
 グリフォン
 ウミガメフーミ

 白のチェスのコマたち
 白のクイーン
 白のキング
 ユリ
 バラ
 赤のクイーン
 チードルダン
 チードルデー
 セイウチ
 大工
 ハンプティダンプティ
 赤のチェスのコマたちと馬
 赤のキング
 ライオン
 ユニコーン
 羊の肉
 ウェイターたち
 プディング

坂口 本を書いてから20年くらい経ってます。今から130年くらい前ですね。
植本 初演が1886年ですね。
坂口 当時の公演は良い評価を得たみたいですね。それにしても僕らが読んだ台本は翻訳した人がすごく上手ですね。ナンセンスな言葉遊びとかうまく入っていてたのしいですね。
植本 そうなのよ!大久保ゆうさんね、俺ビックリした。古いものにしてはなんて現代的で洒落いて小粋な翻訳なんだろうと思ったら、お若い方なんですね。
坂口 はい。
植本 翻訳したのは2009年。今、40歳くらいの方で、当時20代終わりとかに訳してる。ご本人も書いてらっしゃるけど、読み物としてじゃなくて上演を目的として翻訳されてるのでそれぞれの言葉使いとかね。「〜でおじゃる」、とかね。主人公のアリスも自分のこと「あたくし」とか言ったりするでしょ?

坂口 状況によって言葉が生きてます。関西弁にもなったりね。元の台本自体もよいタイミングで歌や踊りが入っていて、全体の流れがとてもうまく作られています。
植本 基本的にアリスの夢だから。夢はやっぱり支離滅裂、はちゃめちゃじゃない。ストーリーとかそんなにね関係無いんだよね。
坂口 歌の内容も意味が通らない歌詞なのに、歌ってるところを想像すると、お、かわいらしいって思っちゃいます(笑)。
植本 翻訳した方も上演を目指しているから、歌とかも聞いた時に耳馴染みのいい感じの訳し方をされていて。
坂口 どこで誰がどう歌うっていう、デュエットだったりソロだったりの設定がたのしい。「ここでトランプの王様のソロが入る」と、バリトンかな、どういう感じで歌うんだろうなって。「ここはアリスが可愛らしい感じで」とか、「とぼけたおっさん達が〜」とか・・・。

(前略)
白のキングは起きあがり、メモ帳を取り出して書こうとする。そこへアリスはキングの手と鉛筆に自分の手を重ねて助けようとする。

白のキング おまえ、こりゃもっと細い鉛筆がいるわい。こいつじゃ何ともできん――思う方とは違う方に動きよる。
白のクイーン (メモ帳を取って)どれどれ、どんなふうざますか。あなた、これ、気持ちのメモになってないじゃない! (アリスに)そこの人、これを読むか歌うかしてごらんなさい。
アリス あたくし? でもこんなのちんぷんかんぷんよ。
白のクイーン (白のキングに)じゃああなた、読んでおあげんなさい!

〈ジャバウォッキのうた:キングのソロ〉
 ぐつころトウヴが
 うぬるではすった
 あわるボロゴウヴ
 じめレイスがののしつ

 ジャバウォクようじん
 とくにアゴとツメ
 ジュブどりようじん
 ククッタクリも

 コトパのつるぎで
 かたきをさがして
 タムタムでやすんで
 おもいにふけった

 らあらしでいると
 ジャバウォクあらわる
 ふぐれたもりから
 いきなりひっぐり!

 えい や! えい や!
 たぁ たぁあ
 かたなりほうだい!
 てきをたいじて
 かえりはうきっぷ

 せがれよ えらいぞ
 ジャバウォクたおした
 きょうはめでたいな
 ふつかわらい

 ぐつころトウヴが
 うぬるではすった
 あわるボロゴウヴ
 じめレイスがののしつ

 全員が急いで立ち去り、アリスはひとり残される。
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

『鏡の国のアリス』挿絵で描かれたジョン・テニエル作「ジャバウォック」

坂口 この「ジャバウォック」は物語の中には登場しないで、この歌のなかにしか登場しないんですね。
植本 それぞれ強烈なキャラクターで理不尽な台詞が多いんですけど、当時よく受け入れられたなぁって。その土壌が豊かだなぁって思うんですよね。
坂口 イギリスのビクトリア朝時代で、産業革命でとても経済がいいときだたったらしいんだよね。そういう時ってある勢いみたいなのがあるかもしれないですね。今まで見たことの無いようなものが受け入れられていく土壌があったのかもね。
植本 ある程度関係あるんですかねぇ。
坂口 ある、かもしれないですね。今みたいな時代には受け入れる方もなんかね元気が出ない・・・。

 

◆第一幕「不思議の国」

 時は秋、場所は森。アリスがある木の根本で眠っていると、妖精が現れ、アリスの周りをひらひらと踊り出す。

〈うた:妖精たちのコーラス〉
 お眠りなさい、輪のなかで
 さえずりの子守歌
 大丈夫、この森は妖精のたまり場よ
 お眠りなさい、アリスちゃん
 せせらぎの魔法歌
 見守るから、目を開けたら不思議の夢の国
 ようこそ、ようこそ
 アリス! アリス!
 不思議の国へ!

 妖精たちはアリスの左右に分かれ、コーラスの声は優しく遠のいてゆく。場所は変わり、不思議の国のどこかの庭。わきの方に大きなキノコがあり、その上で芋虫が煙管をふかしている。アリスは目を開けると、何が何だか分からないというふうに、あたりをうろちょろする。そこへ白いウサギがあわてたていで、前を横切ってゆく。

白ウサギ およよ! 御前さま、御前さま! およよ! お待ちさせたらかんかん、そんなのいやでおじゃる!
アリス あの、よろしくて?

 白ウサギは通りすぎ、その際に白手袋と扇を落としていく。

アリス もう、もう! 今日はけったいなことばかり! でも昨日はずっといつも通りだったのに。もしや夜中のうちにあたくしの身に何か。待って、今朝起きたときのあたくしはちゃんとあたくし。でも今あたくしがあたくしでないのとすれば、いったいどなた? んもう、まったくややこしい。どうかしら、ちゃんと覚えてたこと覚えてる? ええと4×5=12、4×6=13、4×7
――ああ、もう! そんな調子じゃいつまでも20にならなくてよ。だったら『がんばるぞミツバチ』のお歌はどうかしら。

〈うた:アリスのソロ〉
 びっくりだ わあにさん
 しっぽがね ぴかーん
 ナイルがわ ざあぶざぶ
 うろこにね びしゃーん!

 キバだして にいんやり
 ツメひろげ じゃきーん
 おいでませ さかなちゃん
 にこにこ……がぶりっ!

アリス もう! ぜんぜん歌詞がちがってよ、もううんざりよ、こんなところでひとりぼっちだなんて。
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

植本 これは『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』なので、まあ今日は内容はそれぞれ調べていただくとして。(編注:青空文庫で無料で読めます!)
坂口 面白い所をひっぱりだしてきてる、という感じですね。ダイジェストにならずに上手に構成してある。
植本 1幕が『不思議の国のアリス』で、2幕が『鏡の国のアリス』と完全にわかれてるんですね。
坂口 作者の希望だったんでしょ?
植本 それまでにあった2つの作品をごちゃごちゃにした舞台作品とかが本人がお気に召さなかったらしくて。
坂口 これ上演年月が後になるとオペレッタになってるらしいのね。ぼくはミュージカルの方が良いと思うけど。
植本 どうして?
坂口 オペレッタって歌が中心になるじゃないですか。でもこれはお芝居寄りでやった方がニュアンスがわかりやすいし馴染めるっていうか、それのほうがおもしろい台本なんじゃないかな。

植本 たまたまYouTubeでケント大学でこれを上演してるのを観たんですけど、アリスは太目の女性がやってらして、「あ、ありだな」と思いました。
坂口 そうだよね。色んなキャラクターが上手に出て来るし。
植本 パイプ吸ってる芋虫とか。
坂口 ぼく一番好きだったのは、大工とセイウチの・・・
植本 長いところでしょ?あれ歌なのかセリフなのか
坂口 一応歌かな・・・
植本 すごい長い二人のやりとりですね。台本には歌って書いてあるけど、ラップでもいいよね。

(前略)
書き割りが開いて海辺が現れ、そこにはセイウチと大工。

〈うた:セイウチと大工〉
 お日さまが 海に照る
 ぎらぎらと 輝いて
 頑張って 大波を
 おだやかに きらやかに
 でも不思議 というのも
 真夜中の ことだから

 お月さま ぎろぎろと
 光っては いらいらと
 お日さまが うっとうしい
 まだ朝じゃ ないんだぞ
 ぶしつけな 野郎だわ
 楽しみの 邪魔なんて

 海はもう ひたひたで
 砂浜は からからで
 雲さえも 見えなくて
 空はただ 晴れている
 鳥もまた 見えなくて
 空に飛ぶ ものはない

 セイウチと 大工さん
 すぐそばを 歩いてる
 海沿いは 砂だけで
 さめざめと 涙する
「すっきりと なくなれば
 どんなにか いいだろう」

「七人の 娘ッ子で
 半年も 掃除すりゃ
 どうなるか」とセイウチだ
「すっきりと するかしら」
「どうだかな」と大工さん
 ただつらく ひとしずく

「カキさんや みなこちら」
 セイウチが さそい出す
「ご一緒に 散歩でも
 浜辺にて おしゃべりを
 お相手は 四つまで
 手の数が 足りるぶん」

 にらんでる カキじじい
 一言も 返事なし
 片方の 目をつむり
 ゆっくりと 首をふる
 つまるとこ カキどこを
 絶対に 離れぬと

 それなのに いそいそと
 カキたちは やってくる
 身だしなみ ととのえた
 四ひきの むすめたち
 くつだって ぴかぴかだ
 カキに足 ないのにね

 そのあとに また四つ
 さらにまた 四つ来る
 次々と ぞろぞろと
 これはもう 止まらない
 とびはねて 波こえて
 浜辺まで ずるずると

 セイウチと 大工さん
 それなりに 散歩して
 岩場にて 一休み
 ちょうどいい 低さだな
 かわいらしい カキたちは
 列になり 待っている

 セイウチの 言うことにゃ
「そろそろだ おしゃべりを
 くつや船 ふうロウと
 キャベツとか 王さまね
 なぜ海は わきあがる
 豚に羽根 あるのかな」

 カキたちの 言うことにゃ
「待ってくれ その前に
 つかれてる やつもいる
 それにみな ぽっちゃりで!」
「わかったぜ」と大工さん
 みんなして うれしがる

 セイウチの 言うことにゃ
「こうなると パンがいる
 あとお酢に コショウもね
 そうすれば ばっちりだ
 さあてさて カキちゃんや
 ここいらで お食事だ」

「やめてくれ」とカキたちが
 青ざめて さけびだす
「やさしさの そのあとに
 わるいこと するんだな!」
 セイウチの 言うことにゃ
「いい夜だ すてきだろう?

 来てくれて うれしいよ
 君たちも すてきだよ」
 大工さん そっけなく
「もう一まい 切ってくれ
 お前さん 耳よけりゃ
 二度言わず すむのにな!」

 セイウチの 言うことにゃ
「すまねえな ここらまで
 急がせて 来てもらい
 そのあげく ウソなんて!」
 大工さん そっけなく
「おいバター あつくぬれ!」

 セイウチの 言うことにゃ
「かわいそう 泣けてきた」
 しくしくと 涙して
 でかいのを えらび出す
 ハンカチを 取り出して
 目の前を おおいかくす

 大工さん カキたちに
「走るのも いいもんだろ?
 帰りには 歩くかね?」
 でもそれに 返事なし
 当たり前 というのも
 カキぜんぶ 食べちゃった

 セイウチと大工はごちそうの残りをバスケットにつめて、あくびをしてうとうとする。

 大工さん 涙やめ
 セイウチも 泣きやんだ
 カキをみな 食べ終わり
 ごろりんと おやすみだ
 やったのは わるいこと
 天ばつが 下りくる

大工 ちょいと寝るぜ!(寝そべっていびきをかく)
セイウチ こちらも一休み。(寝そべる)

 セイウチと大工が眠りにつくと、一匹目のカキの幽霊が舞台上に現れ、踊りながら馬乗りになって大工を痛めつける。

〈うた:カキのソロ〉
 1)大工はねてる バターつけて
   お酢にコショウも 出しっぱなし
   こいつらには とわの眠りを
   あの胸にくらわせてやるぞ
   さあ とつげきだ おお(大工うめく)
   さあ とつげきだ おお
   できるのは ふんづけることだけ

 次に二匹目のカキの幽霊が舞台上に現れ、踊りながら馬乗りになってセイウチを痛めつける。

(2)うそ泣きなのか セイウチさん
   子どもよりも 大食らいして
   ぼくらはただの薬味かよ
   ごめんなさい ああ(セイウチうめく)
   あ こんにゃろめ ああ
   できるのは ふんづけることだけ

 座り込む二匹のカキ、そこへ三匹目が登場。幽霊のホーンパイプダンスののち、幽霊たちは去る。
 書き割りが閉まって、元の庭に戻る。

アリス セイウチの方がマシね。かわいそうなカキをそれなりにあわれんでるもの。
デー あいつは大工以上に食べてるね。ハンカチを前に広げて、いくつ食べたか大工に数えられないようにしたんだ、むしろ!
アリス あさましいことね。だったら大工の方がマシね――セイウチほど食べてはいないし。
ダン でもあいつも食べられるだけ食べたね。
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

坂口 ここはすごく調子が変わると思うんですよ。まず、書き割りが開いて海辺が現れる。内容はセイウチと大工が牡蠣を騙して、おびき寄せて喰っちゃったっていう話ですよね。
植本 この後半に来てこのボリュームの歌が。どの歌よりも長いですからね。
坂口 (笑)。ここはトーンが変わるんですよね、それがすごく興味があって。
植本 この役は力量がいるわ。この量もたせるには。
坂口 大変ですよ。しかもオチがあって、腹いっぱいで寝てると喰われちゃった牡蠣の亡霊が出て来てかわいい復讐をするって。
植本 なんなんだ・・・
坂口 このシーンはぽこんと入ってる感じですね。これはすごく興味がありました。
植本 牡蠣の亡霊が1コ、2コ、3コ、と次々と現れて、ダンスをして、セイウチと大工を痛めつける(笑)。
坂口 セイウチと大工のおっさんがどういう風にあの長い歌を歌うんかって。すごく興味があって。
植本 登場はすごく後半なので、お客さんも何が起きても大丈夫な体勢にはなってると思うんですよ。

植本 これさキャストが普通に数えても35役あって、でもその中には妖精たち、とか白いチェスの駒たちとかいっぱい書いてあるから、登場人物が50人はくだらないと思う。兼ねればいいのかな?
坂口 これこそ、市民劇とかでやったらどうですかね?プロの人と町の人が一緒になって、キャラクターの濃い役は魚屋のおっさんでもできるかもしれない。その道のテクニックを求めなければね。町の人もひっくるめて一年くらいかけて作れば・・・。
植本 具体的だ(笑)。俺がYouTubeで見たケント大学のは、ちょっとしたオケが後ろにいるんですけど。その人達が途中、演奏やめてトランプもってトランプの兵になってました。
坂口 いいですよね。それこそ地元の音楽関係の人を連れてきてもいいですよね。広がりのある楽しいイベントになるような気がします。プロが集まってやってもいいけど、とにかく楽しげな仕掛けで作れたらいいんじゃないかなって思います。

◆幕間

◆第二幕「鏡を抜けて」

・第一場 鏡の間

アリス 鏡の国へすり抜けられないものかしら。そうなれば素敵、きっときれいなものもあってよ。そうよ、そんなふりをしてみれば! この鏡は頑張ればすり抜けられるの。鏡はふわふわした薄いガーゼってことにして、だから向こうにも行けてよ。あら、何だかちょっとぼんやりしてきて、えっ? これなら簡単に通り抜けられそう……

 アリス、暖炉の上にのぼって、鏡の向こうに通り抜ける。

・第二場 鏡の国

 色鮮やかな花園。そこへチェスのコマがわらわらと舞台上に現れる。

〈うた:チェスのコマのコーラス、うたのあとダンス〉
 ただちに戦闘配置
 赤白キングにクイン
 ビショップわきから援護だ
 ナイトは縦横無尽
 ポーンは両翼固め
 ルークはにらみをきかす
 ポーンは両翼固め
 ルークはにらみをきかす
 ただちに戦闘配置
 赤白キングにクイン
 ビショップわきから援護だ
 ナイトは縦横無尽

 ダンスの終わりに白のポーンが一体倒れ、白のクイーンが駆け寄って拾い上げようとしたが、その勢いで白のキングにぶつかってしまい、クイーンとキングも舞台上に倒れてしまう。そこへアリスがやってくる。
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

植本 これさ、おもしろいのは、一幕が『不思議の国のアリス』で二幕が『鏡の国のアリス』なんだけど。原作自体こんなに見事な2匹目のドジョウってないよね。1作目当たって、続編を書いてアリスも7歳から7歳半になってて2作目も大ヒットって。
坂口 続きっていえば続きですよね。
植本 今まで著名な方達が訳してて、菊池寛と芥川(龍之介)とか。最近だと河合祥一郎さんが訳してたり。けっこういるみたいよ。
坂口 そうなんですか。いやでも、それにしてもこの翻訳はすごくいいですね。色んなことをわきまえてミュージカルのこととか、その場で使う言葉の雰囲気をていねいに、そして思い切りよく選んで作り込んでます。
植本 ご自身も言ってらっしゃるけど、原作を損なわないようになるべく気をつけて翻訳したけど、これを上演するには縛りはないので翻訳の部分変えてもいいですよ。とまでおっしゃっていて。

(前略)
羊肉は頭もモモも取り下げられ、大きなプラムプディングが運ばれてくる。

アリス プディングには紹介なさらないで。でないとちっとも食事にならないもの。
赤のクイーン (すねて不機嫌になり)プディング――アリスだよ! アリス――プディングだよ! プディングをお下げ!

 ウェイターがやってきてプディングを下げていく。

アリス 待って、プディングを返して!

 するとプディングが戻ってきたので、アリスは切り分けてクイーンに渡す。

アリス 分けるのは任せて!
プディング なんたる無礼! もしあんたが一切れに分けられたら、いったいどう思うかね! あんたってやつは!
赤のクイーン さあ、あたいたちはあんたの健康を祝うよ、乾杯!
一同 クイーン・アリスに乾杯!

〈うた:一同のコーラス〉
 アリスに乾杯
 いちばんの女王様
 みんなにそそいで
 アリス女王 乾杯
 われらがクインのアリスに
 アリスに乾杯
 いちばんの女王様
 みんなにそそいで
 アリス女王 乾杯

 旗が降ろされ、舞台は暗転。

〈うた:妖精のコーラス〉
 お起きなさい 旅はおしまい
 不思議な夢は消える
 妖精の目覚ましで
 いつもの世界へもどる

 お起きなさい 旅はおしまい
 不思議な夢は消える
 妖精の目覚ましで
 帰る いつもの世界へ

 見ると、アリスは第一幕と同じ木の根本で眠っている。ゆるやかな音楽、アリスは目覚めて、目をこする。

アリス もう、ほんとへんてこな夢だったわ!

 幕。
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

坂口 最後はね、すごく急に歓迎されて帰って行く。
植本 大久保さんのセンスかも知れないけど終わり方すごくない?「もー、本当ヘンテコな夢だったわ!」で幕。(笑)。
坂口 始めにでてきた妖精達がナビゲートするんですよね。
植本 まあ、最初と最後合わせて作ってるんですけど、こんなにあからさまな夢オチってないよね。
坂口 夢オチって夢オチか・・・って思うけど、これはOKな夢オチだよね。
植本 だって皆最初からわかってるから(笑)。
坂口 本当に素直な感じで拍手ができるかなぁ。このミュージカル楽しいと思うんだよね。なんでもっとやらないんだろう。
植本 まぁミュージカル化されて、20年くらいはすごく頻繁に上演されてたみたいですけどね。
坂口 こういうミュージカルを現実に落とし込んで行くのはたいへんなんでしょうかね。そのまま音にすればいいわけじゃないでしょ。関係する人達が分かるように整理して譜面にして、みんなが歌えて演奏できるようにする手間はかかるんですかねぇ?
植本 まあそうですよね・・・
坂口 でもなぁ・・・。とても可愛らしくて、ナンセンスで、テンポもよく!しかも明るい。たのしい条件が揃ってるじゃないですか。
植本 マザーグースからキャラクターとか取られていたり。詩もナンセンス詩で有名な方のが入ってるから。

(前略)
白のクイーン 後ろ向きに思い出せないとは、お粗末なおつむざます。あべこべにしてみて、ハンプティダンプティの歌を口ずさめば、これから起こることもわかるざますよ――それじゃ。

 白のクイーンは出て行く。

アリス ハンプティダンプティをうたえ? いったい何が起きるっていうの?

〈うた:アリスのソロ〉
 ハンプティダンプティ へいの上
 ハンプティダンプティ ころりんこ
 馬や兵士がみんな来ても
 ハンプティダンプティ もどらない

 うたい終わると、ハンプティダンプティが後ろの壁に座っている。

アリス あら、ほんとに出てきてよ! しかもそっくりそのまま卵みたい!
ハンプティ 卵と言われるとひどく腹が立つな! まったく!
(『不思議の国のアリス ミュージカル版』青空文庫より)

坂口 そういう知識がある人はさらに楽しめますね。だからこれはいろんな人の手を借りながら、大きなチームで作ったらいいんじゃないですかねぇ。
植本 これ、編集長言ってたけど市民劇とてもいいと思います。
どの役が来ても楽しい(笑)。オリジナル、新たに作曲することが許されるならそれでもいいし。
坂口 これ流行している歌の替え歌みたいになってるのもあるって書いてありましたよね。その時は、翻訳の方が言ってるようにそれに合わせて変えていくとか、変わっていける面白い作りができるかなぁ。
植本 俺たちみたいな大人よりも、子供の方が純粋に楽しめるんだろうなって。
坂口 大人も充分たのしめますよね。
植本 また、やりますか「えんぶ」でプロデュース公演(笑)。
坂口 (笑)。
植本 期待してますからね。
坂口 (笑)。

 

植本純米

 

 

 

 

 

 

 

うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼

 

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