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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】ウディ・アレン『オールド・セイブルック』

植本 今回は、名匠ウディ・アレンの戯曲集『浮気を終わらせる3つの方法』の3編中のひとつで『オールド・セイブルック』。
坂口 戯曲も書いてたんだと思って紀伊國屋で買っちゃいました。ごめんね(笑)。
植本 (笑)。あの〜〜好みで言うと・・・(爆笑)。どうしましょうこの先。
坂口 (笑)
植本 これ、上演するとなったら日本人には難しくない?
坂口 そうですね・・・。
植本 やりとりの妙を見せていくんでしょうけど。むこうで笑いをとっていたって、あとがきに翻訳の方も書いてらっしゃったけど。
坂口 読んだ時思ったのは、あ、これ子どもの頃TVでやってた「ルーシー・ショー」みたいな感じ。
植本 それってお客さんの笑い入る感じ?
坂口 わざとらしく入る。当時はなんでこんなとこに入るんだろうって思ってました。
植本 内容に触れないうちにどんどんしゃべっちゃう(笑)。
坂口 (笑)。
植本 日本人がやるとしたら、私達今外人を演じてますっていう、なだぎ武さんや友近さんとかお笑いの方達がコントで外人を演じてる面白さにいくのかなって思って。
坂口 艶笑コメディですよね。それがまずメインにあって、あとはやりとりの・・・突っ込みとボケ?
植本 ボケ合戦だから(笑)。
坂口 なので・・・う〜〜ん

植本 まあ・・・あらすじ話す?
坂口 一応話すでしょう!
植本 (笑)まぁ、シーラとノーマンって夫妻がカントリー・ハウスに住んでますね。
坂口 どこに住んでますか?
植本 コネチカット州のオールド・セイブルックという街ですね。
坂口 この戯曲のタイトルになってますね。日本でいえば大磯とか、違うか。
植本 これさ、最初のセリフ3行位が面白かった。だからイケる!って思ったでしょ?
坂口 思いました。そこはト書きと一緒に引用させていただきましょう。

(配役)
シーラ(ノーマンの妻)
ノーマン(シーラの夫/矯正歯科医)

ジェニー(デイヴィッドの妻/ランジェリーショップを経営)
デイヴィッド(ジェニーの夫/整形外科医)

サンディ(ハルの妻)
ハル(サンディの夫/会計士)

マックス(劇作家)

※カッコ内は編集者注

【ト書き】
幕が上がる。コネチカットのカントリー・ハウス。アメリカのアンティーク家具と現代的な調度品の組合わせの中に大きな石の暖炉があり、二階へ続く階段も見える。その家に住むシーラとノーマンは、裏庭でバーベキュー・パーティーを開こうとしている。といっても、ゲストはシーラの妹のジェニーとその夫のデイヴィッドだけ。ガチョウの鳴き声が聞こえている。
ジェニーとシーラとノーマンが、裏庭に出て料理を始める前に、世間話をしながら、飲み物を作っている(もしくは、おかわりをしている)。

【本文】
シーラ (窓の外を見て、物憂げに)見て、ノーマン、ガチョウが戻ってきてるわよ。
ノーマン ロシア演劇に出てくる悲劇のヒロインみたいな話し方だね。
ジェニー 私、ロシアのお芝居って大嫌い。なんの事件も起きないのに、ミュージカルと同じだけお金をとるんだもの。
(後略)
(ウディ・アレン『浮気を終わらせる3つの方法』白水社刊より引用)

植本 これ芝居好きにはたまらない出だしなんじゃないの?って(笑)。
坂口 (笑)。二人は30歳代の夫婦かな?
植本 結婚7周年のパーティを家でやってます。旦那のノーマンは歯医者さん
坂口 矯正歯科医です。
植本 ゲストは妹夫婦で、
坂口 妹の旦那は形成外科医デイビット。
植本 この人はパーティーそっちのけでタイガーウッズの試合をTVで観たくてしょうがない。
坂口 この人はアメリカの俗物くんの代表みたいなことなのかな。
植本 ゴルフを観るならピスタチオで、バスケを観るならカシューナッツって決まりとかね。そういうセリフでお客さんが笑っていくんだと。役者の言い方にかかってるとは思うけど(笑)。
坂口 で、4人でバーベキューパーティーをしています。
植本 ジョークとか言いながらね。
坂口 家庭内の4人だからどんなつまんないこと言っててもそれはOKだね。
植本 アメリカ人そんなこと言いそうだよねって。
坂口 (笑)。
植本 ここまで快調ですよ(笑)。
坂口 (笑)。

植本 いけるいけると思って読んでいくとですね、昔ここに住んでいたという夫婦が突然訊ねてきます。たまたま車で通りかかったので懐かしくて、
坂口 ちょっと家を見せてくださいと。
植本 しかも「ここで結婚式を挙げたんです」とか言って。そうするとむげにもできないし「それは懐かしいでしょう」と招き入れます。
坂口 ここら辺までは・・・
植本 (笑)。
坂口 この人達が出てきたら場の空気が乱れて、なにかあるかなって?
植本 思いますよね、知らない人が家に訪ねてきたりしたら。
坂口 やっぱりこの二人がなかなかのくせ者でね。
植本 常識から外れてるって言うか、旦那さんがグイグイ入ってくる。
坂口 だけど、ここまではそんなに嘘っぽくはない。
植本 まだ大丈夫ね(笑)。
坂口 まだ大丈夫(笑)。
植本 彼は会計士なんです。
坂口 自分のプロフィールとかを話して、詩人っぽいでしょとかって言ったりして・・・
植本 要はウザいんですよ。
坂口 (笑)。
植本 自分のことアピールしてくるからね。
坂口 奥さんは最初のうちは控えめです。
植本 旦那さんがグイグイいくから止めたりとかね。
坂口 そんなこんなをしていると、

植本 ポイントがやってまいります(笑)。その家の暖炉のところに隠し金庫があることを知ってるか? と前の住人から言われます。その場にいた人は誰も知らない。
坂口 じゃあ、金庫を開けてみよう、と、その家の奥さんが開けてみると日記が入ってます。その日記を見てみると自分の旦那さんの日記です。
植本 はい。性交渉日記みたいな(笑)。
坂口 奥さんの妹と自分の旦那が浮気をしてた。
植本 赤裸々に日記として書かれています。何回寝たとか、事細かく。
坂口 かなり具体的に書いてありますね。当然のごとくトラブルに。
植本 烈火のごとく、奥さんはまずは旦那さんを怒り、次に妹を怒り。当然なんですけど。
坂口 妹の旦那さんも出てくる。
植本 妹の旦那はとんちんかんなところがあるので、日記を見ても自分のこととは思えず、とにかくタイガーウッズの試合の方に戻ろうとしますよね。
坂口 ここらへんは普通の艶笑コメディみたいな感じです。
植本 不倫していた二人の奥さんに対する言い訳はなかなか面白いと思いますよ。前戯は短かったとか(笑)。
坂口 割と具体的なんですよね。それにさらに侵入してきた夫婦がちゃちゃを入れて。
植本 関係ないのに話にどんどん参加してくる。
坂口 火に油です。
植本 そして修羅場と化します。

坂口 そのうちに侵入者である夫婦の不倫っていうのも入ってきて(笑)。
植本 旦那さんが近所の女優に色目を使ってるんじゃないかって奥さんが疑っていて、旦那さん最初は否定してるんですけど、結局認めてしまいます。
坂口 原因は女房が真面目すぎる、っていうところに不満をもっていたんですね。
植本 妻にもうちょっと夜の生活、冒険してくれてもいいんじゃないかって言ってます。
坂口 (笑)。ベッドの上に鏡をつけたいのに、ってところもおかしいよね。「あんたのケツしか見えない」っていう妻の反論もいいですね。
植本 上下運動しているあんたの背中しかみえないから嫌だ。
坂口 背中ですね、なるほどって。
植本 向こうでは大爆笑だと思うんです(笑)。
坂口 それぞれ浮気の内容が倦怠期夫婦の典型を誇張したものなのかもね。だけど・・・
植本 だけどぉ(笑)?
坂口 そこまではいいとして、このあと作家が出てきますよね?
植本 え? もうそこいっちゃうの?
坂口 なんかあとあるかな?

植本 (笑)。そうすると二階から作家という人が。この作家というのはこの家の持ち主なんだけど。
坂口 侵入してきた夫婦から家を買ったのがこの作家で、その作家から今住んでる夫婦がまた買い取ったという流れだよね。だけどだよ、二階に作家が縛られている? これリアルの話なの?
植本 よくわからないけど、ここからファンタジーな話ですよ。この人は劇作家だから戯曲を書いていて、この行き詰まった話を途中で投げ出して引き出しにしまいました。
坂口 はい。
植本 そうすると書かれた登場人物の4人がこのままでなるものかって引き出しから出てきます。そしてその4人が劇作家をふんじばって二階に閉じ込めます。
坂口 ということは、この人たちは劇作家が書いた劇の登場人物だったわけだよね?
植本 はい。ここからわたくしは一気に読む気がしなくなった(笑)。・・・どうでしたか?
坂口 最初なんのことかよくわかんなかったですよ。でもとにかく最後まで読んで。二回目に読んだらさっき植本さんが言った様などうやら劇の登場人物だったのかなとは思ったけど、そりゃあ乱暴でしょう。
植本 (笑)。
坂口 そりゃあいくらなんでも乱暴でしょう。
植本 あんたが書けないなら私たちが演じてみせるわ、みたいなことになって。
坂口 それでどうなんだっけ?
植本 最後は侵入者の夫婦を残して全員が二階へ上がっていくんですね。
坂口 なんで上がっていくの?
植本 忘れないうちに書斎へ行って第三幕を完成させてしまおうって、これでスランプを脱出できそうだと。・・・その最中に、ドタバタなのに登場人物たちが夫婦とは人間とはみたいなこと言うじゃない。
坂口 怒ってるね(笑)。
植本 いやいやいや(笑)。で、なんか知らないけど、全員上に上がっていくんです。そうすると侵入者二人が残されて、ま、現実の二人ですよ。で、どうするかっていう話。

坂口 最初はちゃちゃ入れる役だった夫婦が現実だったっていうことですよね。その仕掛けは面白いといったらなんだけど、皮肉な感じにはなりますよね。
植本 でもさぁ、現実の夫婦に戯曲の中の登場人物が見えてるわけじゃない? どういう構造なんだろうって。
坂口 そこの説明はないから。
植本 二人残されてどんな気持ちなんだろうって。
坂口 最後仲直りするんだよね?
植本 キスして。で終わりますからね。
坂口 最後の方にも姉夫婦がでてこない?
植本 だからそれはみんなが二階に上がる前の話ね。
坂口 じゃあ現実の夫婦が浮気の話をしてる時は全員が揃ってるってことか。
植本 そうそう。で、多分周りがポカーンとする絵がつくれるんじゃないですかね。
坂口 そうか。そんでその後に二階に上がっていくのか、ふ〜〜む。
植本 でさっき言った様に現実の二人が元さやに収まるみたいな感じで終わります。
坂口 ふ〜〜〜ん。そうかぁ・・・・
植本 これ読んだ時「ああ自分はこういうものをやるために演劇やってるんじゃないな」って思った(笑)。
坂口 (笑)。

植本 編集長がさっき言ってましたけど、乱暴ですよ(笑)。
坂口 あまり考えてないよね。
植本 実際どうなんだろうね、勢いでガーって書いたのか、意外と何度も何度も推敲してるのかわからない(笑)。
坂口 じゃあこれだけは確かだよ。ウディ・アレン衰えたり。いくら考えようが、考えまいが衰えは隠せないと思うよ。ウディ・アレンよく知らないで言ってますけど。
植本 あとはあれかな、時代にそぐわないとか取り残された感とか。
坂口 そぐうもそぐわないもないでしょう。時代性すら取り込めてない。
植本 辛口! 超辛口!
坂口 (笑)。別にね、ただおもしろければいいっていう作品もありだと思うけど・・・
植本 逆にね、年齢を重ねて、かなりのご高齢じゃないですか。それでこういうものをさらっと描くのはすごい様な気もするけど。これこの本は2005年刊行か、もう16年くらい前か。
坂口 本当にこれは・・・すみませんでした。
植本 (爆笑)。活字になるのが楽しみです。
坂口 これ記事にするの難しいですね・・・。
植本 (笑)。

植本純米

 

 

 

 

 

 

 

うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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