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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】清水邦夫『楽屋―流れさるものはやがてなつかしき―』

 

 

 

 

 

 

植本 清水邦夫さんの『楽屋―流れさるものはやがてなつかしき―』これは上演回数が日本1位なんだってね。びっくりしました。
坂口 やってみたいネタですよね。有名な戯曲のさわりもたくさんでてきてね。乱暴に言っちゃえば、有名な戯曲の台詞を責任持たないで喋れる。
植本 一本通してじゃないからね。
坂口 ちょっと気が楽かな(笑)。
植本 これ77年初演で、清水さんは41歳でお書きになってる。
坂口 演出もしてるの?
植本 わかんない(編注:秋浜悟史さんが演出)。ちゃんと読んだのは初めてで、みずみずしいなと思った。声に出して笑ったところも何カ所もあって。
坂口 滑稽な感じから人生(女優?)の切なさ?業?みたいなものが見えてくると面白いお芝居になるのかな、っていうスタイルですよね。僕はそれはあまり感じなかったけどね。
植本 僕は逆だった、自分が役者だからかな、役者へのエールというか、役者賛歌みたいに受け取りましたけどね。
坂口 なるほど。
植本 バックステージものですね。
坂口 僕は幽霊とか出てくる絵空事の面白さ、そっちかなって思いながら読んでました。
植本 よく言われるのは性別で男と女がいて、もう一つ女優っていう生き物がいるってこと。そういうのが書かれてるのかなって。でもいくつも男優バージョンもあるみたいなんだよね。
坂口 それはいいや(笑)。

 

【登場人物】
女優A
女優B
女優C
女優D

【ト書き】
闇のしじまから、いつの間にか女優A・Bが現れて、鏡に向かって、メークアップをはじめる。
かなり……熱心にその作業に没入する、女優Aの眼はなぜか焼けてただれており、視力は充分ではないらしい。
一方、女優Bののどには、白いホータイが巻かれ、鮮血が滲んでいる。
メークに没入する二人の姿は、きわめて真剣であり、どこか滑稽でもあり、そしていささか哀しい風情がある。

突然、大きな鏡(姿見)の前に、女優Cが立つ。
女優Cは、「かもめ」のニーナの扮装。手には火のついた煙草。

女優C わたしは……かもめ。いいえ、そうじゃない、わたしは女優。そ、そうよ!

ゆっくりと灯りが入る。
と、そこはごくありふれた楽屋。
彼女は出番前のセリフの稽古をしているのだ。
メークする女優A・Bは、女優Cに全く無関心のように、自分たちの作業に没入する。

(「清水邦夫1 楽屋―流れさるものはやがてなつかしき―」ハヤカワ演劇文庫刊より引用)

 

坂口 話の流れとしては楽屋に女優の幽霊AとBの二人がいます。
植本 死んだ時期の違う戦前と戦後の幽霊が化粧前で化粧してます。
坂口 で、現役の女優Cがいて、その人はそんなにスターではないけど、実際にニーナ役になったりしてますね。というか場面はいま彼女が舞台でチェーホフのニーナを演じに行く直前の楽屋ですね。
植本 女優Cは幽霊の女優A,Bは見えない。彼女はそれなりのポジションをつかんだけど大変そうです。
坂口 女優A,Bの女優Cに対してのコメントが辛辣でおもしろい。
植本 (笑)。
坂口 で、後から出てくる若めの女優Dがいるという構成ですね。この人はプロンプター?
植本 そうです。
坂口 プロンプターって舞台で台詞を忘れた人に教える役割?
植本 基本的には稽古場で、まだうろ覚えの時につけたりしますし、僕実際に舞台袖からプロンプターの声を何度も聞いてます。あと、お付きポジションの人が同じ舞台にいるときはパって出す、みたいな時もあるみたいですね。
坂口 外国の映画とかで舞台のこう(手で箱の形作る)・・・
植本 ああ! なかなか日本じゃないね。客席からは見えないようになっててね、舞台前面に穴が掘ってあってね。
坂口 そこから教えるみたいなのがずっと頭の中にあったから。この芝居だと主演の人が台詞を分かんなくなったときに、一緒にでていて教えてあげるっていう、そればっかりやらされていた若い女優Dが、
植本 精神を病んで病院にいたのだけど、どうやらそこから出てきてしまったらしい。

坂口 その前に最初から幽霊になっている二人、
植本 女優AとBね
坂口 の女優さんの会話があってなんとなく状況が見えてくる。二人は出番もないのに化粧したりしてるんですよね。そこはおかしいですよね。
植本 あと面白かったのは『斬られの仙太』。
坂口 三好十郎の、
植本 ついこないだ新国立劇場でも上演されていて、同じ日本の作家さんのも引用してるんだ、と思って。
坂口 結構長く引用してますよね。
植本 はい。
坂口 これは作者がそれぞれのチェーホフとか三好十郎とかシェイクスピアとかを敬愛しつつ、なんかそういうことをテーマにした遊び心、清水邦夫の遊び心(?)が面白かった。

*

植本 冒頭に出てくる台詞で面白かったんですけど、「わたしたちの仕事で大切なものは、名声とか光栄とか、わたしが空想してたものじゃなくて、じつは忍耐力だということがわかったの。得心がいったの。」なるほどねって。
坂口 植本さんは実感があるのね。
植本 (笑)あと最後の方に出てくる、「あたしって誤解されやすいんです。でも誤解されやすいところがもしかして女優に向くんじゃないかってある人が言ってくれたんです。間違いでした。」面白いなあと思って(笑)。
坂口 面白いんだけど、面白い物を沢山積んでるけど、終わってみたら何にもなかった。
植本 (笑)。
坂口 けなしてるわけじゃないですよ。結果として読み終わった後、更地になってた。
植本 あ、それはわかる。
坂口 すっきり楽しめましたけどね。面白かったけど、次も読みたいかっていうとね。
植本 なるほどね。今までこのコーナーさ、8年以上やってると思うけど、通って来なかったな清水邦夫さんをと思って。無意識に編集長のなにかがはたらいてたんじゃない?
坂口 (笑)。さあ話を戻すと。

*

植本 はいはい、一番若い女優Dが精神病棟から出てきて、役を私に返せって女優Cに言いますね。
坂口 「枕をあげるから返して」って、
植本 汗臭いシミのついた枕を。
坂口 設定として上手ですよね。ただ返してくれって言うんじゃない。
植本 その理由もね、あなたお疲れでしょう?病院予約してあるから、大部屋の方が寂しくないでしょ?私ちゃんと役全うするからみたいな。女優Cからするとこの人何言ってんのって?
坂口 (笑)。
植本 (笑)でそうこうしてるうちに・・・霊が3人に増えます。
坂口 女優Cに女優Dがビール瓶で殴られて殺されちゃう。
植本 それが直接原因かはわからないんじゃないかな。
坂口 そうなのか、殴られて倒れて一回はけてますよね。戻ってきたときは亡くなってる
植本 その時は霊で出てくるので、女優AかBが「打ち所が悪かったの?」って言ってるけど、もしかしたら自殺なのかわからないですけど・・・
坂口 あ、そっか。

*

植本 話戻っちゃうけど、女優AとBの死因がまず面白いですよね。
坂口 一人は空襲?
植本 女優Aは戦争で。顔自体も戦争の傷が・・・
坂口 目の周りとかがね。
植本 それに対してもうちょっと若い女優Bは血だらけになっていて・・・、包帯をとってみるとためらい傷がいっぱいある。それは自殺なんだろうと。
坂口 でも二人とも亡くなってる事情は違うけど、プロンプターという役割は一緒ですよね。
植本 二人とも大きい役をやったことがなくて。女優Bは女優Aに対して、いいわね戦争の傷は甘い思い出で活かされやすいからって言ってて(笑)。
坂口 そういう台詞が上手にはめ込まれてますね。
植本 うん。で、女優Dが亡くなって霊で出てきて、それで女優A・Bは目が合うから驚く。自分達が見えるはずないのに、見られてるってことでね。女優Dから女優A・Bに話かけが始まって、最後はじゃあ3人で『三人姉妹』やる?みたいなことになります。

*

坂口 チェーホフの台詞が何回も出てきますね。ニーナの台詞とかが。
植本 『かもめ』自体も女優さんが出てくる話だし、チェーホフは女優には良い役が多い気がして。
坂口 そうですね。情感がのせやすいというか。
植本 『桜の園』を筆頭にね。
坂口 「生きていかなければね」みたいな懐かしい台詞も出てきて芝居好きには面白い作品だと思いますけどね・・・、チェーホフに興味ない人にはどうなんだろうって思いながら読んでましたね。
植本 ああ〜なるほどね。演劇人がやりたがるのはすごい分かるし。笑いがいっぱいおきるんじゃないかなって。

*

植本 ボリューム、サイズ感もいいんですよね。上演時間にしたところで。
坂口 だからってちょっとした作品ではない。
植本 ちゃんと稽古しなきゃ無理だし。やるとなったら4人集まって、じゃあ企画がありました、どの役やる?っていう攻防も面白いし。
坂口 年齢から決まっていくんでしょうね。あとかわいければ女優D、とかね
植本 (笑)そうそうそう。
坂口 でもなあ〜〜
植本 なんですか?
坂口 やっぱりどうしても気になるのが、お芝居好きな人は良いんだけど、いろんな引用があるし・・・、なんか素人はおいて行かれちゃうような気もして・・・、
植本 抜粋の分量も多いからね。
坂口 チェーホフよく知らない人にいきなりニーナの台詞何カ所もでてきて、お芝居の流れの中で言われてもちょっと戸惑うかもね。
植本 そうかもね。
坂口 僕だって最初戸惑ってチェーホフおさらいしたもん。
植本 エライ(笑)。そうね。トリゴーリンとかコースチャって言われてもねっていう。
坂口 そんなせりふがあるからこその戯曲だから、いいじゃんっていえばいいんですけどね。
植本 じゃああれかね、上演回数が日本1位っていうのはやりたい側のエゴかね。
坂口 でもこれは清水さんとチェーホフたちとの掛け合い?みたいな部分もあるのかなってちょっと思いましたけどね。だったらもっとやってみてくれてもいいかなって。
植本 どういうこと?
坂口 もっとね。俺、今チェーホフと掛け合いしてるよって、演劇好きチェーホフ好きは楽しいかなって。
植本 筆が乗ってる感じがする(笑)。
坂口 でもまあ皆さんやりたいんですよね。
植本 (笑)俺だってウチのユニットでやってみたいもん、男四人でね。
坂口 これ全然できますよ!面白くなるかどうかは別ですけどね。

〈対談者プロフィール〉
植本純米

 

 

 

 

 

 

 

うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。以降、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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