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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】テレンス・マクナリー『マスター・クラス』

坂口 今回は『マスター・クラス』、植本さんの推薦の本です。
植本 言葉は悪いですけど、タイムリーというか・・・
坂口 素晴らしいね! 表現について語りつつ、素敵なエンターテインメントになっていて、人物評にもなっている。大好きな本になりました!
植本 (笑)そうね、評伝にもなっている。
坂口 下手な自伝とか読むよりをコレ読めば・・・
植本 どこまで本当かわからないけど(笑)。
坂口 だからこそ彼女の内面というか、これまで生きてきた軌跡がよくわかる。多分、自叙伝とかだとこんな風には書けない。ちゃんと批判的な目がありつつ、彼女の行動を、彼女になった役者さんに言わせてるから客観性もある。

植本 タイトルが『マスター・クラス』テレンス・マクナリーさんが書いてます。マリア・カラスの話なんですけど、書いてる彼自身がマリア・カラスのことが大好きだから、大好きな人がシニカルなこととか、批評、皮肉を込めて書いてたりするからいいんだと思うんですよね。
坂口 しかも、マリア・カラス自身の力が落ちて、スターじゃなくなった時期の話ですもんね。
植本 はい。高音が出せなくなってね。
坂口 その後で、ちょっとだけ先生をやったんですね、ニューヨークの有名な音楽学校で。
植本 ジュリアード音楽院ですね。
坂口 そこで行った授業の様子を元ネタにしてるんですね。だからフィクションとはいえ、リアリティもあります。
植本 タイトルになってますけどマスター・クラスっていうね、きっと生徒の中でも限りなくプロに近い人のためのクラスですよね。公開リハーサルみたいなスタイルになっています。
坂口 公開授業だから実際にお客さんも入ってるという設定で、公演を観に来たお客さんを授業のお客さんとして見立ててる。
植本 客いじりもあって。
坂口 素敵ですね。僕がいうのもアレだけど・・・100点。
植本 (笑)それはよかった(拍手)。

坂口 こんな素敵な本に出逢えて嬉しいけど・・・一方で自分の知識のなさが悲しい。
植本 音楽用語とかそういうこと?
坂口 海外からきた公演とかをそこそこ観てた位の観劇キャリアだから。そうすると台詞に出てくる内容とか情景とかわかんないことがいっぱいある。外国の作品とかはどれもそうだろうけど、これは特に自分の知識のなさが残念。
植本 彼女は50年代に活躍して、なんか活動期間が短いんだよね。
坂口 一番良いときは10年位って言ってましたよね。だからびっくりしました。こんな一人の表現者、歌い手をネタに、こんなに表現の面白さ大変さなどの様々な要素がちりばめられている戯曲はそんなにないかな、と僕は思います。本当にこれは良かった。
植本 マリア・カラスの役をやる人の負担って言ったら、とてつもないけれど(笑)。他にもね、授業受けに来る3人の生徒。女2人と男1人に、道具係と、あとピアノの伴奏者がでてきますけど。負担はやっぱり、9割位はマリア・カラス役の人にきますね。
坂口 うまい具合に無理のない一人芝居みたいな作りになってますよね。

植本 内容を話すと、一人目の授業受けに来る生徒が一幕を占めるんですけど、二幕になると男の人と女の人が順番に生徒として現れますね。マリアが「なにを歌ってくださるの??」って言うと「私はこれを歌います」「僕はこれを歌います」そうすると歌う前に彼女がすごい喋りますよね。「そんなものを歌うの?身の程知らずね」みたいな。
坂口 服装から、出てくる時の態度からね。なにからなにまで言うんだけど、彼女なりのユーモアというか、おばさんっぽいユーモアがちりばめられてる。
植本 すごいおばさんっぽいんだよね(笑)。
坂口 色んな悪口言ってて、最期に透明人間になる(笑)。
植本 あ、「私のこと、ここにはいないと思ってください、パッ、透明人間」
坂口 そうそう。そんなこと言われたら客席はたまんない。
植本 生徒に対して「これからあなたのことで意地悪なことを言うからちょっと耳をふさいでてください」みたいなこともね(笑)。
坂口 お客さんにも静かにしてだけじゃなくて、「あなたの服装はここにくる服装じゃない」とか言ったりするでしょ。
植本 「あなたパッとしないわね」とか言ってその周りの人が笑ってると「後ろの人もそうよ」って。
坂口 演芸場の客いじりみたいなことをマリア・カラスがやってるんだよね。それがなんていうか授業の厳しさとかも含めてすごくバランスが上手に作られてますね。

植本 しかも、マリア・カラスがこの戯曲の中で言ってることは芸術論ですもんね。
坂口 そうですよね。全部が全部肯定するかはともかくとして、一回聞いてみる価値は充分にあると思うな。彼女がどんな気持ちで、舞台に立って作品を作ってたかっていうのは、この本一冊でよくわかります。素晴らしく示唆に富んでいてびっくりしました。
植本 特に昨今こういう状況下だからマリア・カラスも言ってるけど「本当はオペラなんかなくてもいいのよ、でもオペラがあると少し賢くなったりとか心が豊かになったりするでしょ?」ってまさに今だなって。
坂口 いろんな方がそれに近い発言をなさってるけど、この時代、自分の力が落ちてしまったときの発言だけに身に染みる気がしますよね。
植本 生徒とのレッスンの中で、時々自分自身を回想するシーンがあるじゃないですか。生い立ちっていうか、最初の旦那さんの話、その後の恋人の話とかが出てきますよね。あれって、マリア・カラスの役の人が旦那さんも恋人の役もやるってことですよね。
坂口 全部一人でやってんじゃないですか? 生徒が歌い始めて、それまでが大変なんですけど(笑)、歌い始めてそれがフェードアウトして、マリア・カラスの録音されていた音源が会場に流れる。
植本 はい。
坂口 会場中に流れてそこで自叙伝的なというか、苦労したとか自分のことをね。

植本 そうそう。子どもの頃からのことを話しますよね。
坂口 それがすごく印象的です。
植本 そこは割と史実にのっとってる(笑)。
坂口 うん。多分史実どころか、それを増幅・整理してマリア・カラスらしい話にして作家は提供してくれてるから、よりリアリティがある。この作家本当にすごいと思う。
植本 そしてなによりも彼はマリア・カラスのことが大好きなんだと思う(笑)。そして全盛期じゃなくて、声が衰えた頃を書いてるのがまたいいですね。
坂口 好きなら褒めたいけど、褒めるだけではない。けなしてるってわけでもないけど、傷ついてるところなどをうま〜く使って、人物像を作り上げていますよね。彼女の音源を流しながら彼女に自分の過去を語らせる。作劇がうまい。
植本 それもただ語らせるのではなく、授業の進行と絡めながらね。
坂口 子どもの頃音楽を習っていてそこに可愛い子がいてね、その子ばっかりに良い役がいっちゃって、「私はその復讐のためにずっと音楽をやってきたのかもしれない」。彼女は大きい舞台で成功するわけですよね。その時にやっと復讐が出来たというふうに言う。その暗い、妬みとかそういう影の部分をずーっと背負いながらやってきたんだなって。とてもいい話です。

植本 厳しい部分がいっぱい書かれてるけどその根底にはマリア・カラスがピュアっていうのがあるんだよね(笑)。
坂口 少なくてもこの本に関してはマリア・カラスに親しみというか好きになっちゃう。実際近くにいたら大変だろうけど、そういう書かれ方でいて芸術論にもなっている。
植本 すごいなって思ったのがこれ、テレンス・マクナリーさん書いたのが1995年初演なんですけど、翌年には黒柳徹子さんの主演でやってるんですよね。
坂口 当時あった銀座セゾン劇場ですね。今だと誰がやったら面白いんだろう。
植本 朴璐美(ぱくろみ)さんとか、声優さんとしても有名な。その方合ってるな、と思いながら。
坂口 僕は麻実れいさんかなと思って。
植本 ああ〜〜〜なるほどね、いいですね。
坂口 もちろん貫禄とかも含めて。
植本 皮肉の言い方も良いですね。
坂口 実際は知らないけど(笑)。
植本 (笑)いやいやお芝居の中でのね。
坂口 (笑)。
植本 これドラマ化されててそれだとメリル・ストリープがやってるのかな。
坂口 ああ〜〜そういった、それなりの方がやらないと、ちょっと収まりがつかない、かな〜〜。
植本 貫禄ね。そしてなんていうの、ダブルミーニングで、マリア・カラスも有名だけど、それやってる人もある程度有名な方が効果的な気はしますね。

植本 今回のマクナリーさんが3月24日にコロナで亡くなってしまって。
坂口 ええーー!
植本 だから言葉悪いけどタイムリーだなって思ったんです。
坂口 それはものすごく残念ですね。
植本 マクナリーさんの作品は、つい先日までシアターオーブとかで大きなミュージカルの『アナスタシア』結局コロナで途中で中止になっちゃったんですけど、それの脚本やってたりとか、あとは『フルモンティ』、ミュージカル版『蜘蛛女のキス』とかも書いてらっしゃる。バリバリ現役の方だったみたいですよね。
坂口 ほ〜〜ん、すごいですねえ。他のもこんなに面白いのかなぁ? これ僕がハマっちゃっただけ??これ面白いよね??
植本 面白いけど、難易度高いじゃないですか。
坂口 実際やるとなったら?
植本 うん。
坂口 本人の音源とかも使わなきゃいけないし。最期もすごくいいですね。教えていた生徒に悪口言われて、
植本 「こんなとこに来なければよかった。あんたなんか嫌いよ、自分が歌えなくなったもんだから若い芽を潰そうとしてんでしょ」みたいに言われちゃうね。
坂口 その後マリアは言い訳せずに「傷つきました」みたいなことを言いながら、さっきも植本さんが言ったように、オペラが少しは世の中的に役に立ってんじゃないのかって語って終わるんですけど。

【『マスター・クラス』(劇書房刊)最終場面本文より】
マリア (前略)この世から『トラヴィアータ』(ヴェルディのオペラ『椿姫』)がなくなっても、お日様はちゃんと昇ります。オペラ歌手なんかいなくても、世界はまわっていきます。でも、わたしたちがいると、その世界が少し、居心地がよくなるんじゃないかって思うんです。少し、豊かに、そして賢くなるんじゃないかって。芸術なんかまったくない世界に比べて。年をとるにつれて、わからないことが多くなってきます。でも、これだけははっきりしてきました。自分が何かをするかっていうことは、とても大事だって。事実そうなんです。(後略)

坂口 これゲイの方が書いてるんですね。
植本 だから途中にもありましたね、マリア・カラス信者はオカマがいっぱい、みたいな。このマクナリーさんもマリア・カラスのレコードの貸し借りを巡ったゲイのカップルの話とか書いてますね。あと、セレブにも好かれてる。セレブはマリア・カラスを食事に誘いたがる。
坂口 (笑)それは世の常っていうか。
植本 オカマ達はマネしたがる、ファッションとか生き方全部って言ってます(笑)。

坂口 だからそうね、彼女の芸術的な部分とは別に自叙伝的な部分とかも入っていて。
植本 回想でね。最初の旦那さんが30歳上の実業家の方で。単純に旦那さんがオペラファンなんですよね。 マリア・カラスが100キロ越えてたときに見初めたってことで。そのうちに新しい恋人が現れて、アリって呼ばれてる。アリストテレス・オナシス。
坂口 僕らの時代では有名なギリシャの海運王。
植本 ほんと? 単体で有名?
坂口 単体で有名だよ。
植本 あ〜〜〜それは知らないわ!
坂口 ケネディの嫁と結婚した奴でしょ?
植本 ケネディ大統領未亡人のジャクリーン・ケネディ。
坂口 超有名よ。
植本 マリア・カラスとしては裏切られた形になってんですよね。
坂口 フラれた。
植本 あ、有名なんだやっぱり。彼は芸術を解さない人みたいなね。
坂口 お前オペラは歌わなくていいから、俺が教えた娼婦の歌を唄え、とかさ、そういうやりとりもでてきますよね。
植本 マリア・カラスは彼のこと大好きだったみたいですよね。一時はこの人と一緒になれるなら歌を辞めても、って感じがしますもんね。
坂口 今のスケールで言ったら、誰なんですかね?
植本 ・・・アレジャナイ? ロケットで宇宙に行こうとしてる・・・。
坂口 (笑)それはスケールが小さ過ぎない? オナシスに比べたらゴミみたいなもんだよ、たぶん。なんとかジョブズとか。
植本 ああ、スティーブ・ジョブズ。トランプは入らないの?
坂口 あれは色気がなくて、フェイクなおっさんでしょ。いくら有名でも色気がなかったら金だけあってもいい女は寄っていかないと思うんだよね。それなりに人としての魅力がないと。なのでオナシスとはとても有名なスキャンダル。しかもそんな話を彼女(役者)が一人語りでオナシスとカラスのやりとりを、見せていくわけでしょ?

坂口 カラスは注意したいこととか、気づいたこととかを譜面に全部書き込んでるんですね。
植本 楽譜が見えなくなるくらいにって(笑)。
坂口 メモをとらない生徒に言ってますね「あなたがいつか何年後かにこの作品をやるってなったときに、あのとき何て思ってたかわかんないでしょ」って。
植本 しかも「あなたが小さな劇場でやるときに」って言うんだよ(笑)うっへっへ。そこもいいよね。
坂口 常に言うことが皮肉っぽいんだけど、でも憎めない感じ。本当は面倒くさい女なんだと思うんだけど。でもそれはファンの、ゲイの彼が書いたからそんな風に書けたんだなってなんとなく・・・、
植本 彼はそういうとこが大好きなんでしょうね(笑)。皮肉めいたとことか。本人的には「私、人の悪口言うのが嫌いなの」って言ってるけども、それ自分が気づいてないだけで言ってるよっていう(笑)。

坂口 背表紙にキャッチコピーがあって、彼女の衝撃的な過去とかがわかるよって書いてあって、女としての幸せをなげうって芸術にすべてを捧げたマリア・カラスって書いてあるんですけど、ここだけは違うと思うんですよ。彼女は女としても、人間としても、幸せは投げうってないと思うんですよ。自分の人生と芸術をごじゃごじゃにして、でも素晴らしい表現をした人なので。それがこの本の一番の魅力なのでね。
植本 読み物として、面白いですね。
坂口 本当にありがとうございました!こんなものに出逢えるとは。
植本 (笑)編集長とは長くやってるけど、こんなに感謝されたことないわ〜
坂口 (笑)いろんな表現としての要素がちりばめられていて、こんなエンターテインメントが作れるんだっていうのにはビックリしました。この本に出逢えて本当に嬉しかった。でもやっぱり知識がもっとほしかったな〜。これほんとに好きなら、う、逆、なのかな?
植本 ??(笑)。
坂口 そのくらいだからこの本が楽しめるのか?
植本 ああ〜〜。
坂口 知識ありまくりの人が楽しめるのかというと、それ微妙じゃないですか?
植本 知識ありまくりの人はきっとマリア・カラスに対してもすごく思い入れがあると思うから、それはそれでそういう人が読むと面白いんじゃないんですか?
坂口 そうですよね、だから、残念。ただあれですよね、あまり歴史的な背景はないから、他の外国の意味深なものと比べたら読みやすいかも知れないですね。
植本 皆さんに読んでいただいて、上演を待ちましょう。
坂口 テレンス・マクナリーさんありがとうございました!ブラヴォー!

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

 

 

 

坂口眞人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

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