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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】太宰治『春の枯葉』

植本 本日は、太宰治の『春の枯葉』です。
坂口 太宰ってこんなに演劇に興味がある人だとは思ってなかったです。
植本 でも戯曲の数は少ないんでしょう?
坂口 表に出てるのはたぶん4つで、これが最後の作品ですかね。戦後に2つで、大正の終わりかな、この人が学生の頃に2本作ってるようですね。
植本 へーー。でもなんか演劇の印象はうすいよね。近代文学では金字塔の人だけど。
坂口 僕は不勉強でよく知らなかったんですけど、チェーホフとかに興味があってすごく読んでたらしいですね。
植本 へー!そうなんだ。
坂口 自分の生家が津軽の没落した大地主っていうんで、それに合わせて『桜の園』とかを意識してたみたいですね。まあ、歴史の背景が違いますけどね。

植本 『新ハムレット』って作品があるじゃないですか。ハムレットをベースにしてるけど上演のために書かれたわけではないんですね。
坂口 はじめに読み物として戯曲を書いてみたっていう断り書きみたいなのが、ね。
植本 今回の『春の枯葉』ともう一つ『冬の花火』という作品が、セットにされてますけどね。割と同時期に書かれてますね。
坂口 戦後すぐ。昭和21年、敗戦の翌年ですね。だから『冬の花火』は、GHQの上演許可がおりなかったらしいですね。で、『春の枯葉』は吉本隆明が演出してるんですね。
植本 吉本ばななさんのお父さんだっけ?
坂口 そうなっちゃうけどね(笑)。学生の頃演出していて、そのあとは千田是也?
植本 これは俳優座かな。東京工業大学だっけ?その吉本隆明さんはね。その前に新生新派ってところが多分やってると、、、。
坂口 あ、そうなの。

植本 去年なんかもやられてたりとか、ちょこちょこはやられてる作品なんだなと。
坂口 全く僕らが知らなかった。あ、僕らって。僕は、ね。
植本 いいんですよ。一緒にしていただいて全然。もう長い付き合いだからお互いのことわかってるから。
坂口 (笑)。そう言ったら新派が一番合うかもしれないね。なんか、あんまり、こう、うん、新劇的でもないような感じするし。
植本 まあでもなんていうのかな。太宰治らしいっちゃらしいんだけど、、、本人も悲劇って言って書いてるからあれなんだけど、救いのない(笑)。悲劇と喜劇は表裏一体って言われるけど、あんまりそうでもないんだよね。悲劇なんだよ(笑)。
坂口 でもさ、やってもそんなに悲劇の悲しさは伝わってこないって感じはしません? なんとなく他人事っていうか。
植本 ドライっちゃドライなんですけど。

坂口 設定されてる場所は、
植本 津軽半島の僻地みたいなとこ、村です。海岸。
坂口 の小学校、この頃は国民学校。
植本 登場人物は、そこの36歳の教師、野中弥一。その奥さんの節子31歳。節子のお母さんの54歳しずさんですね。
坂口 はい。
植本 そして国民学校の教師仲間で、東京から疎開して津軽にきてるお兄ちゃんと妹。野中の家に間借りしてるんですね。
坂口 妹はギリギリまで東京にいて、最近こっちに来たっていう設定ですね。
植本 奥田義雄さん28歳と、その妹菊代さん23歳です。
坂口 4月だから春。言ってみれば戦後の地方の情景、、、? が、わかりもしないけど、なんとなく、場面はそういうとこです。

植本 まあ、太宰の作品には津軽よく出てきますけどね。
坂口 植本さんは太宰は得意なの?
植本 むしろ通ってこなかった方で。読もうとチャレンジするんですけど、途中でどうしても挫折しちゃうんですよね(笑)。なんか、あの、、、重いというか(笑)。
坂口 うっとうしいんだ。ぐずぐずぐずぐず、、、
植本 そうそうそう(笑)!それが特徴なんだよね。ぐじぐじしてる!
坂口 でもさ、チェーホフはぐじゅぐじゅしてないじゃん。カラッとしてるよね。結構しんどいこと書いててもカラッとしてる。
植本 人も死ぬけどカラッと死ぬからね。割と。
坂口 そこが彼の素敵なところで、この戯曲を読んでると、なんかべたっとしてて。まあ、太宰にはに太宰の感情があるわけですけどね。選んどいてあんまりあれだけど、、、
植本 だってさ、編集長これ送ってきたときにさ「戯曲としてはあんまりかもしれないけど、太宰を取り上げてみたい」ってメモ紙が添えてあってさ。なんで最初にそんなこと言っちゃうんだろう、俺まだ読んでないのにって(笑)。
坂口 あっはっはっは!あーーーあまあまあちょっとさぁ、、、
植本 すごい先入観で、こっち、、、。
坂口 ゴメン。まあでもあれだよね、戯曲としてはそんなに、、、。
植本 ぎゃははは(笑)!うーん本人もね、戯曲そんなに書いてなくて、やっぱり戯曲書くにあたって「随分苦労した」っていうのを友達に手紙出してたりとかするし。
坂口 そうなんだ。

植本 これ、いきなり長台詞っていうかダイアローグで、セリフ長いじゃない?
坂口 しかも、相手がいるのに長台詞が多いよね。相手の人大変だよね。
植本 そこがお芝居の魅せどころですけど、聴くっていう芝居ね。
坂口 さすが役者だね(笑)。
植本 当時としても、これあんまり評価高くなくて。周りの評論家とか同じ作家さんからは戯曲である必要ないんじゃないの? って言われてたりして(笑)。
坂口 あ〜〜なるほどね。芝居をみたんじゃなくて戯曲を読んで、、、
植本 だったら得意の小説でいけばいいんじゃないの? 同じ書きたいことがあるんだったら? とか。あと誰かが評してたのは、登場人物が全部太宰治だって(笑)。
坂口 たしかに(笑)。でも奥さんの長台詞とかもなくはないけど、、、お母さんとか。
植本 お母さんの長台詞とかは意外性があっていいと思う。「あれ?お母さんもしゃべりだしたぞ?」っていう。しかも息子の悪口(笑)。

坂口 息子って言うのは主人公の野中弥一。彼は養子なんですね。国民学校の教師ですね。で、劇の始まりは生徒が帰っちゃった後の夕方の教室。ここで彼の最低限の思想が語られます。36歳。先生だからある程度インテリなんですかね。養子になってることに屈折してるし、まあ敗戦っていう、36歳で敗戦ってやっぱり、、、それまで愛国精神を教えてきた訳でしょ? 学校でね。で、ここで一気に民主主義を教えるっていう矛盾にぶつかるわけで。そのなかで彼が黒板に教えた内容の断片が書かれてる。

正面の黒板には、次のような文字が乱雑に、秩序無く書き散らされ、ぐいと消したところなどもあるが、だいたい読める。授業中に教師野中が書いて、そのままになっているという気持。
その文字とは、
「四等国。北海道、本州、四国、九州。四島国。春が来た。滅亡か独立か。光は東北から。東北の保守性。保守と封建。インフレーション。政治と経済。闇。国民相互の信頼。道徳。文化。デモクラシー。議会。選挙権。愛。師弟。ヨイコ。良心。学問。勉強と農耕。海の幸。」
等である。
(『春の枯葉』第1幕ト書より)

植本 出だしはなかなかいいんですよ。
坂口 はい。そこに教え子達が歌っている「荒城の月」が遠くから聞こえてきてね。彼はそのことにもうひとつ納得していない。なんでこんな、、、
植本 陰気な歌をね。
坂口 彼は民主主義を明るくあれしなきゃいけないって任務がありますからね。で、生徒が一人残されていて、歌ってみなさいって言われて歌うシーンがありますね。ここはなかなか、、、
植本 ここまで良いです。
坂口 はい。
植本 その後に間借りしている菊代が登場します。
坂口 彼女は最近こちらに疎開してしてきました。そこもなかなか軽快だと思うんですよ。
植本 ここらへんから事件がおきてきます。菊代が野中に理由もなくお金を渡すっていう。
坂口 そうそう。でもこの二人の会話に、二人の間になんかあるんじゃない? みたいな。気持ちのやりとりがある感じしますね。太宰の特長なのかもしれないですけども。お金の渡す前に、「二人で話す機会がないんだわあ、あらごめん、誘惑するんじゃないわよ」みたいな台詞があって、

菊代 いいえ、兄さんに逢いに来たんじゃないんです。(たわむれに、わざと取り澄ました態度で)本日は、野中弥一先生にお目にかかりたくてまいりました。
野中 なあんだ、うちで毎日、お目にかかってるじゃないか。
菊代 ええ、でも、おなじうちにいても、なかなか二人きりで話す機会は無いものだわ。あら、ごめん。誘惑するつもりじゃないわよ。
野中 かまいませんよ。いや、よそう。兄さんに怒られる。あなたの兄さんは、まじめじゃからのう。
菊代 あなたの奥さんだって、まじめじゃからのう。
(『春の枯葉』第1幕本文より)

坂口 って二人が笑うっていうのが、ここのシーンは僕はとっても好き。
植本 もしかしたら「ふれあい」は「連れ合い」だったかなあ、、、。ふふふ。
坂口 共通の話題でふざけあう、じゃれあうみたいな感情のやりとりがとってもいいなあって、先が楽しみだなって思いました。
植本 でも僕は菊代って人は最初から全く好きになれませんけどね。
坂口 (笑)そーね。まあ、東京からでてきた人なりのコンプレックスがあるんですね、疎開してきたから、、。自分とこの土地の人との落差みたいなことを結構語りますよね。なんだかんだ言ったって、地方の人はお金がほしいんじゃん、みたいな。
植本 すごい派手な着物きてるんだけど、別に好きで着てるんじゃない。持ってくるときに普段着みたいな物は、全部焼けちゃってこんなものしか残ってないから派手なものを着てるんだって言い訳をしてますね。

坂口 それで、この会話の後で菊代が野中にお金を渡すんですね。
植本 奥さんには内緒でって言ってね
坂口 でもそれは彼女の本心ではない。
植本 このあと野中が色々と高い物を買ったりする。酒とか刺身とかね。
坂口 はいはいはい。次のシーンでは野中家のお母さんが洗濯物干してたりしていて、人物紹介みたいになってくるんですね。
植本 お母さんの長台詞の中で、野中家にはお兄さんがいたんだけど死んじゃって、あの人が生きてたらなんとかなってたんじゃないの、みたいに愚痴ります。
坂口 優秀なお兄さんだったんですね。
植本 野中の妻のお兄さん。主人公野中とは関係がない。
坂口 戦争で死んじゃったの、、、お父さんも?
植本 お父さんもそれなりに有力者だったぽいですけど。
坂口 それもなんか、太宰の実家のニュアンス? これは得意なとこなんじゃないですか?
植本 居心地の悪さ?
坂口 で、だんだんこの家で暮らしている5人の様子がわかってくるっていう感じですかね。それでその後だ。野中がお酒を買ってくる。

植本 はい。あの、まあ、漁師達が飲んでいるから大丈夫っていう(笑)、その当時の粗悪なね、、、
坂口 あれよくわかんないんだけど、サントリー?
植本 ああ、サントリーって言ってるね。
坂口 漁師が騙されてるってこと?
植本 それか、得体の知れないものにサントリーウィスキーって名前をつけて美味しい感じで飲んでんのかな(笑)って思ったけど、、
坂口 ああ。それを分けてもらってくる。ついでに平目を一匹買ってきて自分の女房になんかつくってくれって、細かい。半身は焼いてね、みたいな(笑)。ああいうのはちょっと好きだけど。野中という主人公は養子に入った家にすごいコンプレックスを持っていて、だからカミさんに対しても義理のお母さんに対しても鬱屈した気持ちを持ち続けている。同居人の奥田と自分の女房がもしかしたら仲良くなってるんじゃないかっていう。

植本 そうそうそう。野中と菊代ペア。節子と奥田ペア、ね。
坂口 なんとなく気持ちのやりとりはありそうだっていうのは会話のニュアンスからでてきますよね。でもまあ妄想じゃないかって感じもしますけどね。
植本 どうしたって節子と菊代がお互いに好きじゃないっていうか、ね(笑)。
坂口 すごくね。それは女同士の、東京から出てきた人と、地方でずっと暮らしてて、両方プライドを持っている。
植本 そうそうそう。お互いに自分のことをバカにされてると思うから。
坂口 これはなかなかに解決する術は、、、
二人 ない(笑)!
坂口 これはもうしょうがないっていう気がする。で、これ良かったね! 久しぶりにちゃぶ台ひっくり返すっていうシーンがでてきたね。ドリフターズのコントみたい!
植本 今となってはね、ちゃぶ台ひっくり返すってコメディだから(笑)。
坂口 でもこれはマジでひっくり返してるからさあ。いいですね。
植本 昔はよくあったと思うのよ。菊池寛の『父帰る』とかでもひっくり返してるから。
坂口 ぐっと近くなると『巨人の星』とかね。
植本 あの時代までは笑わせようと思ってないからね。

坂口 だから、新鮮でした(笑)。カミさんが片付けるとかなかなかいいシーンじゃないですか。そうこうしてると、菊代が生徒を使って、、、野中を呼びに来ます。
植本 ああ、菊代が警察に捕まっちゃった。賭け麻雀を生徒に教えていたっていうね。
坂口 捕まっちゃったから来てくれ、って生徒が言いに来るんだけど。
植本 結局は狂言で。本当に菊代なにがしたいんだか(笑)。
坂口 とにかく混乱してる、苛立ってるってことなんじゃないのかな。で、どうすんだっけ?
植本 いやもう、僕の中では死んじゃうっていうとこにいっちゃう(笑)。主人公の野中がね!
坂口 いやいや、呼びに来たときは酔っ払ってるんだよね?
植本 頭が痛い痛いってずーっと言ってて。
坂口 海岸かなんかに行くんでしょ?
植本 一旦出て、途中で見失うっていうか、追いかけるのあきらめて、帰ってくんじゃない? これ。
坂口 これ家に帰ってきてるの!? 海岸で死んだのかと思って。(ページをめくる)奥田と節子の会話がありますよね? ちょっとだけ意味ありげな、、、(ページをめくる)歌が聞こえてくる、、、?
植本 これどこだ場所(ページをめくりつづける)、、、これ、海岸なの?(笑)。
坂口 (ページをめくり続ける)奥田と節子のやりとりが結構長いんですよ。
植本 うん、長い。
坂口 (ページをめくりつづける)、、、あ、これ本当に長いですね。
植本 これ三場、海浜って書いてあるね。
坂口 そうだよね。
植本 じゃあそうなのか、野中は外で死んでんのか。
坂口 だって、砂浜に漁船が打ち上げられている、、、
植本 帰ってきてないのか(笑)。家だと思ってた。
坂口 だからさ、海岸で死んじゃうんだよ。

植本 全然話違うけど、これ面白かったのは、舞台回ってるね(笑)。
坂口 あ!そうね!回り舞台なんだね。
植本 これ太宰が勝手に決めてるね(笑)。
坂口 指定も細かいよね結構ね。
植本 そうなんです、だからこれ最後の場面で妻としては「これからも二人で仲良く暮らそうよ」みたいなこと旦那に問いかけてるんだけど、気づくと死んでる。
坂口 でもその前にちゃんと野中はすごいよ。「お前は悪魔だ」とか言ったりしてるよ。妻に対して。
植本 お前強い女だなみたいな事でしょ?
坂口 「人が死ぬほど恥ずかしがっているその現場に勝手に乗り込んできて、恥ずかしくありませんかと聞ける奴は悪魔だ」。なるほどねって思うますよね。勝手にはないですけど。
植本 へへへへへ。
坂口 そこはそれなりのやりとりはあるんですよ。
植本 今までどうだったんだって話だよね。
坂口 どうって?
植本 夫婦の生活とか。
坂口 あははは。犬も食わない。上手い戯曲ってさ会話の中から過去のこととかじわっと伝わったりするけどさ、これもうわかんないもんね。いきなりだもんねえ。
植本 (笑)そうね。最後ね、「わたくしは心を入れ替えたのよ、これからお酒のお相手でもなんでもしようと思っていましたのに、あなた!!」って号泣。
坂口 そんなに急に心なんか入れ替えるかよ〜〜
植本 号泣するってところで、後、風と枯れ葉と歌声ってところでこの三幕ものの芝居は終わるんですけど。
坂口 あ、死んだ後にね。無理に悲劇調にしてます。

植本 なんか夢オチってあるじゃないですか。夢だった。大体それ禁じ手とされているじゃない? でもこれ死にオチってすごくない? 死んで終わらせるんだ〜って。
坂口 しかもそんなすごい死に方じゃないでしょ? お酒飲みすぎて死んじゃうんでしょ??
植本 そうなの。間違いなのかもしれないけど、これについて自殺って書いてる人もいたんだけど、自殺なんじゃないかって。どうなんだろう、粗悪な酒を飲んでそれがちょっとあたって死ぬんですけど。
坂口 自殺は読み過ぎじゃないの? だってこの流れでは危ない酒かもしれないけど、漁師達はあんなに飲んでても大丈夫だから平気だよって、言ってますもん。
植本 それはあれかもね、太宰自身が自殺してるじゃない? そういうところから深読みしちゃうのかな?
坂口 そうですね。ところどころ、ああ読んじゃうなというな含蓄があるような部分があったり、面白がれる部分もあるけど全体的にはちょっとね。

植本 井上ひさしが『人間合格』って作品書いてて、太宰と対話してるっていう体で書いてるんだけど。それに「太宰さんは嘘が破綻すると死ぬっていうところにいきますよね」ってことが書いてあって(笑)なるほどねっていう。
坂口 それはまあいってみれば一番めんどくさくない生き方かもしれない。
植本 とにかくご本人がドラマチックな方じゃないですか? 小説を書いてる以上に。
坂口 はい。
植本 後は誰かが書いてたのは、卑下自慢、卑下マンって書いてあったけど。
坂口 ああ、自分を卑下する。
植本 自分はダメだダメだって言って、相手にそんなことないですよって言ってもらう作戦。
坂口 甘ったれなんだね。
植本 で、結局自分のこと自慢してる。っていう。
坂口 まあさ、大地主の六男かなんかでしょ? 末っ子なんでしょ? だから地方の金持ちの末っ子だからやっぱ甘やかされてるんだよ。でも、卑下して、そんなことないよ。って言われる気持ちはわかんなくはない。僕はその部分がわかる。

植本 あ〜でもそこは、狙わないよ。あるけど。
坂口 まあ、狙わないけど、なんかわかる。
植本 言葉を待ってる、っていうね(笑)。
坂口 「いや〜そんな大したことないですよ」っていって(笑)。
植本 「気にしなくていいよそんなこと〜」みたいなね(笑)。
坂口 は、ありますね。ただなあ、僕、他の太宰の小説とかほとんど読んでないから。太宰に限らず有名な人は読まないって方針でずーっと生きてたから。
植本 ははは(笑)なんだそれ!
坂口 でもこれ読んだらなんとなく太宰のニュアンスが、、、これでわかられても困るのかもしれないけど、コレ読んだら簡単にわかった。わかっていいのかどうかはともかくとして。という気はしました。でやっぱり、ああチェーホフは面白いんだなあ。って改めて思いました。
植本 (笑)そっちいっちゃうんだね。
坂口 やっぱり全然複雑だしね面白いよね。
植本 なんだろう、、、読んだ時にチェーホフと比べると、頭の中で立ち上がってくるものがちょっと少ないかな、とは思って。匂いとかが。もちろん津軽の特有のものとかあるんだけど。人間関係から生まれるものが少なかったかな。
坂口 そうね。これで太宰を色々言われたら太宰ファンの人は「すげー違う」と言うだろうけど、これに関していうと、ね。

植本 今頃きくけど、なんで今回太宰でこれなの?
坂口 太宰の中でこれって若き日の吉本隆明や千田是也が演出してるっていうし、最初だけ読んだらちょっと面白かったから。
植本 まあ、太宰は取り上げないとなっていう。うふふふ
坂口 そう前に、、、雨にも負けず、、、
植本 ああ、宮沢賢治ね。
坂口 そう! あれ面白かったから。
植本 あれは面白いですよ! なんとか陣営だっけ。
坂口 『飢餓陣営』。すごく面白くて。もしかしたらそういう発見があるかなって思ったけど、なかったですね。
植本 (笑)。でも結構やられてるし、やろうと思う人もいっぱいいるんだなあ、と思って。
坂口 台詞に感情を込めたように見せる、見せたい人はやりたいんじゃない?
植本 何気なく名言じゃない? それ(笑)。
坂口 いやいやいや(笑)もう嫌なんだよねそれ。あんまり込められるとゾクゾクってしちゃうんだよね。込めるんだろうけどさ、程度の問題で。やりたい人、役者として芝居をやりたい人?
植本 勿論逆もあるんですよ、やらなきゃいけない。「この芝居つまんないな、なんとか頑張らなきゃ」と思って込めちゃうこともあるじゃないですか。
坂口 あ、わかった、それはすごく。
植本 救わなきゃっていう、、、
坂口 あります。ですよね。それは、、、植本さんのなんかの芝居でも見たことがあるかも。
植本 (爆笑)そこにいくのか!言うんじゃなかった!
坂口 あ〜あやってるよ〜〜って(笑)。
植本 まさか自分に返ってくるとは思わなかった(爆笑)!すみませんでした。
坂口 いやいや努力はね。
植本 言えば言うほどですよ!
二人 (爆笑)。

植本 でも編集長に言われなかったら、この本の存在知らなかったので。
坂口 いや、僕もつい先日まで知らなかったですよ(笑)。
植本 好きな人は勿論ね、熱狂的なファンはすごく多いから。でも、150作位書いててほんの3、4作でしょ? 戯曲。
坂口 言ってみればどんな素晴らしい作家でも良い時も悪い時もある、ということですね。
植本 あと、本当に得手不得手っていうか、小説を書くのと戯曲を書くのって両方やってらっしゃる方いっぱいるけど、違うんでしょうね、作業として。
坂口 全然違うんでしょうね。やっぱりどういう演じられ方をするかっていうのが最終的な、戯曲っていうけど台本って言えばね。でも上演前提じゃないって人もいるわけでしょ? 上演台本っていう風にして書かれてるなら、やっぱり向こう側が見えてるっていうかある客観性が必要かもしれませんね。具体的に「ここはこうやって演じるとか」。これ、太宰のもなくはない、と思う。
植本 はい。なくはないと思います。俺達偉そうだ(笑)。どっから目線。情景は、浮かびます。
坂口 偉そうだねえ〜。
植本 そんなに俺たち太宰に思い入れないのかもね。
坂口 僕は全くないから。、、、残念。
植本 (爆笑)。
坂口 でもちょっと有名な人がね、チェーホフに興味があったっていうことが。
植本 ああ、太宰がチェーホフに興味があったからもしかしたら面白いんじゃないかと。
坂口 そう。小説もろくに読んでないけど。まあ、その影響があって書かれたっていうのに興味が、ひかれました。
植本 久しぶりにやろうと思わない戯曲でした(笑)。
坂口 ああ自分がね。まあそういうこともあるでしょう。はい。ということで、、、今回は、すみませんでした!
植本 (笑)こちらこそすみませんでした。

 

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

坂口眞人
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

 

【植本純米 出演情報】
音楽劇『ライムライト』
原作・音楽◇チャールズ・チャップリン
上演台本◇大野裕之
演出◇荻田浩一
出演◇石丸幹二 実咲凜音 矢崎広 吉野圭吾 植本純米 保坂知寿 ほか
2019年4月4/9~24◎シアタークリエ 地方公演あり
公式サイト:http://www.tohostage.com/limelight

(文責)坂口眞人

 

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