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【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】カレル・チャペック『ロボット』

植本 本日は、カレル・チャペック。
坂口 『ロボット』ですね。
植本 それは副題かもね。これは「R・U・R」と書いて、「エル・ウー・エル」っていうのかな。チェコ語、ロシア語の読み方ですね。
坂口 すごくおもしろかった。ガンガン読めちゃって、ビックリしました。このチャペックっていう人、前に知ってました。『園芸の12ヶ月』っていう本を読んでました。
植本 そうなの、エッセイもいっぱい書いてますね。
坂口 それがね、すごくおもしろいんですよ。もちろん園芸の話なんだけど。ユーモアとか皮肉も上手に効いていてね。そのときは戯曲書いてるなんて知らなくて。これ読んでビックリしました。
植本 ね。「ロボット」っていう言葉はこの戯曲から始まったんですね。
坂口 しかもあれですよね。いわゆる鉄腕アトムとかそういう感じとはちょっと違って。何て言うの? もっと人造人間っていうか、リアリティが。
植本 昔の作品だから、もうちょっと素朴なのかと思っていたら、意外と最先端技術なんですね。アンドロイドとか、サイボーグっていうのかな。
坂口 SFだから、未来の話を書いてるんだね、彼は。
植本 はい。

植本 この作品が書かれたのが1920年。その時点で「ロボット」ができて、そこからずいぶん経ってるという設定になってます。書かれた当時からすると、未来の話ですよね。
坂口 だけど、読んでると今の人が書いても全然おかしくないっていうか。
植本 本当にね。
坂口 今、の人、が書いてるみたいな感覚で読んじゃいました。
植本 うん、うん。
坂口 すごいですね。100年近く前でしょ。ロボットの話だけじゃないですね、基本的に人間の話、人の存在みたいなことを全体で書いてるわけですよね。
植本 宗教観とか、
坂口 労働、社会の成り立ちとか。
植本 人にとって働くとはどういうことか、とかね。
坂口 それが今の話としてすごくリアルに伝わってきます。この人はチェコの人ですね。
植本 はい。
坂口 大変な時期ですよ。1917年がロシア革命でしょ。その3年後にこれ書いてるわけだから。もう揺れ動くどころの社会じゃないですよね。
植本 ロボットっていう言葉が、ご本人がね、「自分が発明したって言われるんだけど、本当はお兄さんのアイデア」みたいなこと言ってて。お兄さんが芸術家なんですけど、強制収容所で亡くなってるんですよ。
坂口 ほほ~。
植本 で、このチャペック自身にもガサ入れが入るんですけど、もう踏み込んだ時には亡くなっていたっていう。
坂口 なるほどね。そうだ、その話で思い出した。冬の寒いときに趣味の庭仕事してて、肺炎になって死んじゃうんだ。
植本 え、それ園芸の本に書いてあったの?
坂口 何かに書いてあった。若くて死んじゃうんだよね。
植本 本当だ。1890年生まれで38年に亡くなってるから、48で亡くなってますね。
坂口 真冬の庭でのアクシデントのときに。たぶん、ちょうど今頃。クリスマスの頃に庭仕事していて、
植本 あ、そうですよ! 昨日が命日。25日(この対談は昨年12月26日に行われました)。クリスマスが命日で、ちょうど80年前に亡くなってるのかな。チェコの国民的作家と言われている方で。
坂口 オタクとしては立派な亡くなり方ですね。
植本 ぼく知りませんでしたけど。
坂口 『ロボット』っていう戯曲があるっていうのは知ってたけど、こんなにおもしろい話とは思いませんでした。
植本 じゃあ、作品のこと話しますかね。
坂口 はい。

植本 序っていうのがけっこう長いんですね。
坂口 この場で全部説明しちゃうっていうか。
植本 そうですね。どこかの孤島にある工場で、ロボットの研究と生産が行われていて。そこに会長のお嬢さんが訪ねてくる。
坂口 いかにもありそうな理由で訪ねて来ますね。
植本 ロボットに人権をっていう。
坂口 そう、そう。偉い会長さんの娘さんがちょっと世間知らずで、ヒューマンな考えを持っていてね。
植本 もしかして今だったら、ちょっとそこひっかかっちゃうかも知れませんね。女性の扱いっていうことで言うと。
坂口 ああ、でもありがちな話なんじゃない? なんかとても、ああ、なるほどなって。で、この会社の社長が対応するんですね。この工場は、大規模にロボット生産をしてる。
植本 まぁ、独占企業に近いんですかね。
坂口 しかも場所も孤島ですよね。彼女は船でやって来て、自分の意見があるから、見学させろと言って。
植本 社長のハリー・ドミンさんが対応します。
坂口 会長の娘だからということもあってか、キチッと説明するんですね。
植本 そうすると、まず、男と女のロボットとがいるんですけど。もはや、人間と変わらないんですね。彼女がまさかロボットと思わないで会話していると、「わたしはロボットです」みたいなことを言い出して。それがにわかには信じられないっていうところからスタートして。いいスタートですよね。
坂口 ロボットにある部分の感情を入れてないんですけどね。あ、なるほどって、分かりやすいなぁと思います。

植本 次に出てくるのが工場側の人間で、技師とか、博士とか、領事とか、建築士。
坂口 個性豊かですね。
植本 そう、社長以外に5人出てくるんですけど、社長を含めて、全員がこのお嬢さんを好きになるっていう。
坂口 そう、おじさんたちだよね。この時点で、社長が38才ですね。でー、これさらにおもしろいのは、この序幕から次の一幕では10年経っているという設定ですね。
植本 そうです。一幕は10年後ですね。
坂口 その個性的なおじさんたちの写真が文中にありますね。
植本 当時の初演のね、役者さんたちが扮装した姿が出てきますけど。
坂口 不思議なメイクというか、衣裳も含めて。とても存在感があります。
植本 当時としてどうだったかは分かりませんけど、今から見るととてもレトロな感じのする、いい感じの。
坂口 オシャレレトロみたいな感じでした。
植本 なんか、後書きか何かに書いてあったけど、翻訳した方が書いてるのかな。それぞれがいろんな国を代表しているような造形になっていてね。
坂口 あ、書いてありましたね。イギリスとか。
植本 ドイツ、フランス、ユダヤとか。
坂口 そうそう。
植本 ト書きにも書いてあって、それぞれの特徴ね。小柄で活発、浅黒く黒い髭とか。金髪で真面目で優しい顔つきとか。大男でガサついていてとか。いろいろ書いてあります。

坂口 これ、見てる人が、分かりやすいよね。すごく。それで、ロボットを作った始まりみたいなことを説明しますよね。キチガイみたいなじいちゃんがいて。
植本 あぁ、そうですね。老ロスム。
坂口 が、人間みたいなロボットを作りたいと。
植本 人間に近づけるために開発していくんだけど、そこに甥っ子の若いロスムというのが現れて、「10年かけてまだそこか」みたいなこと言って。そんなことよりも、労働力として余計なものを排除したロボットを作りたいということで。
坂口 でもその人も何か、ある時、排除されてる。
植本 はい。
坂口 で、ドミンが社長になったっていうことがありますよね。
植本 そうなんです。
坂口 この来た娘さんは21才なんだな。
植本 序幕で社長が「私と結婚してください」っていきなりプロポーズしちゃうんですけど、「もし、私がダメだったら他の5人の誰かを」って。男しかいないんで島に残って欲しいんですね。
坂口 そうですよね。
植本 この序幕の終わりとしては、彼女に男たち5人が朝食にそれぞれ得意な料理を作って現れるという。
坂口 分かりやすい。見てて、序幕で、あ、なるほど。じゃあ、本編に入りましょうっていうときに、すごく分かりやすい10年前の話だったと思いますね。

植本 そして、次、一幕に入りますけど、そうすると、社長ドミンとこのお嬢さんヘレナは結婚している。
坂口 場面はそのヘレナの部屋ですね。
植本 一室ですべて終わるでしょ? どの場面も。そこが舞台劇だから有り難い話ですけど。余計なね、大掛かりなセットを組まなくていいから。そこが近未来SFとしてはおもしろい。
坂口 部屋の窓からロボットが上がって来たりとか。
植本 後々ですけど、外の世界はロボットだらけになっていますからね。
坂口 で、一幕が10年後のヘレナの部屋ですね。
植本 ここでは、ロボットがすでにちょっとおかしくはなって来ていますね。
坂口 船がもう来なくなっちゃった。船がいつも定期的に来ていて、荷物を出したり、いろんな連絡を取り合ったりっていうのがあるんでしょうね。それがなくて不穏な感じだなぁっていうのが、一幕の始まりですね。

植本 もうこの時点でロボットは彫刻を投げて壊したりし始めて。「わたしは人間たちの主人になりたい」とか言い始める。ロボットがちょっと狂い始めてますね。
坂口 それは、誰かがそういう細工をしたんですね。
植本 ガル博士でしたっけ?
坂口 そうだ、生理研究部部長。
植本 そのガル博士が、アーティスト寄りっていうか、研究者寄りなんですよね。どんどん研究したいので、生産に役立つロボットよりも、人間に近い頭脳を与えて行くので、そういうロボットが現れちゃうんですね。
坂口 人間の手でそういう感じのロボットが出てきてしまう。
植本 開発したいんだよね。
坂口 でもそれも、社長夫人のヘレナに頼まれてやってるんだよね。みんなヘレナが大好きなわけでしょ。だから、女の浅知恵が怖いっていう。落語の志ん生の話みたいになっちゃう。
植本 むふふふ。声高にそんなことは言えないですけどね(笑)。「女の浅知恵」って久しぶりに聞いたわ。
坂口 落語とかでよく言うでしょ(笑)。
植本 (無視して)どんどん、この工場の状況は悪くなって行きます。
坂口 で、子供ができない世界になっちゃってるんですよね。人間はもう何もしなくていい世界になってるわけでしょ?
植本 それはまた、少子化問題と重なって、すごいことですね。
坂口 彼女はそういう事態を避けたいから、ロボットにもそういう感情が芽生えるようにしてちょうだいって言って。
植本 さっき言った「浅知恵」で言うと、共存を願ってるんですよね、人間とロボットのね。
坂口 それは10年間一貫して彼女はそういう考えを持ってる。ステキだと思うんですけどね。だから、微妙だよね。ロボットっていうけど、彼女の視点があるから、今の労働者がロボットに置き換えられるような目線ができてくるような気がするんですよ。この作品ができた当時も、
植本 貧富の差が激しかったみたいですね。
坂口 やっと革命が起こって、労働者が主人公になった国もあるけど、働く人たちはひどい扱いを受けていたわけでしょ。しかも作家は、そっち寄りの人なわけですよね。
植本 政府に目を付けられがちな、
坂口 人だから、たぶん、そういうニュアンスもあったんでしょうね。彼女の視点がいろいろな場面を複雑にしています。
植本 10年経ってもまだ、男どもは、お嬢さんのこと好きみたいですよね。
坂口 素晴らしいよね。

植本 二幕になると、もうね、ロボットに周りを囲まれてます。
坂口 これさ、物の本に書いてあったけど、最初は二幕で終わっているんですね。
植本 あ、何か書いてあった。
坂口 二幕で終わっちゃうと、ロボットが主人公になって、
植本 悲惨な話ですわ。
坂口 そうだよね。
植本 で、何か、アメリカとか、そこで終わってるバージョンが多いとか言ってて。ロボットの天下になって終わってる。
坂口 ここの場面ではおっさんたちが殺されていきますね。でも、読んでると殺されてる悲惨さっていうよりも、あんな風にして死んじゃったのねみたいな。
植本 この男どもがユーモアのセンスがある連中で、コミカルな部分があって。あれも何か、演出によるのかもしれないけど、事務所なり社長室なりに、ロボットがニョって飛び出してきたり、顔を出すっていうのがね、おもしろい!
坂口 ドキッとするでしょ。
植本 うん、どんどんロボットが入って来ちゃうんですけど。

坂口 二幕の最初はヘレナの部屋なんだけど、彼女がピアノを弾いてるんだね。それは、まぁ、劇的な理由もあるだろうけど、観客の気持ちをね。ピアノの曲を流して雰囲気を作って行くテクニックが上手! これから怖くなって行くのにね。劇作家としての腕の見せ所みたいな感じがしましたね。
植本 ねー。
坂口 そう、だから殺され方もおもしろい。
植本 そうなの、第一の犠牲者がお金にこだわってる人がね。あ、その前に、ヘレナが書類燃やしちゃうっていうのが。
坂口 そう、一幕で燃やしちゃうんですね。貴重な秘伝というか、
植本 ロボットの作り方ですよ。レシピみたいなものですけど。
坂口 それには感情の入ってるロボットも作れるような秘伝が入ってたのかな?
植本 そうだと思います。
坂口 そんでそれを何でか、一時の感情で燃やしちゃうんだよね。
植本 また言うんでしょ、女の浅知恵って、わははは。
坂口 ははは。これ書いたら叱られるのかな。
植本 いやいや別に(笑)。
坂口 ことわざみたいなもんだからなぁ。

植本 それがあって、じゃあ、どうしようかって中で、営業担当かな。ブスマンだっけ。
坂口 そう、あのー、ユダヤ人って言われてる人が折衝に行くんでしょ、お金持って。
植本 金持って、何とか解決できないかって言うと、まぁ、あのー、ロボットの侵入防止というか、外敵防止のために自分たちで家の周りに電圧線を張り巡らせてるんだけど、そこに触っちゃうんですね。
坂口 ここはなかなか素敵な死に方ですね。
植本 仲間が「電源を切れ!」っていうのが間に合わなくてね。
坂口 で、感電してその持ってる金に埋もれて死ぬっていう。
植本 そうそうそう、それは観客からは見えないんだけど。
坂口 これは当時の作家から見たユダヤ人のイメージなんですかね。
植本 うわー。
坂口 でもそう書いてるよね、作家はね。っていうようなことがあって。みんなそれぞれ何か。もう後の人はなんか、よく分かんない。散って行って、いなくなっちゃってましたね。
植本 刺されたりとかありましたけど、他の人で。

坂口 そんで、結局、アルクビストでしたっけ?
植本 建築士の、アルクビスト。
坂口 彼だけがロボットに救われるっていうか。
植本 まさか、序幕、一幕、二幕で、この人が最終的に主役級になるなんて、誰も思わないでしょ。
坂口 本当ですよね。すごい。
植本 お前か!って思ったんだよね。
坂口 彼は働くから救われてるんでしょ。
植本 そうそう、ロボットが、「お前もロボットと同じようなもんだから」って命を取らないですね。
坂口 彼は建築士として物を作ってるからね。だからそこらへんも皮肉な話ですよね。革命とかのね。働かないでお金儲けてるやつは殺しちゃって、働いてるやつは生き残らせるっていうのも、ちょっと意味ありげな。
植本 そうね。で、この人が最終的に主役になって、最後ね、突然、長いセリフとかがいっぱいあるんだけど。ま、それを思ってちょっと前の方に立ち戻ると、序で、男たちがヘレナのために朝食を作るじゃない? あそこでこの人だけ、「あいつは何もできない」って言われてたりとかね。
坂口 ほー、そうか。
植本 「机を並べる程度しか、あいつは何もできない」って言われてたりとか。あとはまぁ、ヘレナとの2人のシーンで、外で壁を塗る作業とかをしているので、呼ばれて部屋に入ってくるんだけど格好が汚いんですね。手とかも汚いんだけど、ヘレナが「あなたのそんな手が好き」っていうシーンがあって。ああ、そういうことか! これ伏線なんだなって思って。
坂口 なるほどね。そんで彼が生き残って。
植本 要はね、ロボットが、自分たちを生産できないんですよ、ロボットのことを。レシピを燃やされてなくなってしまったので、だから、自分たちで作れないので、人間でただ一人生き残っている建築士になんとか作ってくんない? って頼む。
坂口 でもかれは実際はできないですね。そっちの方面には疎いからね。
植本 専門職ではないので、見よう見まねで頑張ってはいますけど。
坂口 そうですね。
植本 二幕は、「ちょっと、ロボット作ってよ」ってロボットが唯一の人間にお願いしている。というところで終わっている。

坂口 三幕は工場の実験室になってますね。
植本 ここからね、新たな登場人物が、唯一の人間とあとロボットなんですよね。それも斬新っていうか…、
坂口 ロボットの中でもリーダーの人たちがいたりして。
植本 それ、前に社長室にもいたロボットだったり。例の彫刻を投げちゃったロボットだったり。政府と呼ばれているダモンも冒頭の方で一回出てきますけど。名前だけね。なんでその、ロボットが人間を殺すかっていう、そこ大事かなと思うんだけど、要するにロボットとしては人間のまねをした。
坂口 そういうことですよね。だから支配するためには、人、っていうか、
植本 排除していくっていう。
坂口 それはロシア革命とかにも言えてることで、どんどん人を殺して行くのは、そっちの目線も入ってるかもしれないですよね。作家はね。

植本 ぼく、子供の頃、SF読んでて、やっぱりアイザック・アシモフっていうところから始まってる。ロボット三原則っていうのを考えた。
坂口 それ、何?
植本 人間のことは傷つけちゃいけないっていうことだったり、自分のことも傷つけちゃいけないっていうことだったり、するんですけど、だからこの作品は、1920年に書かれてますけど、その年にアイザック・アシモフは生まれているので、その三原則ができたのは30年後なんですね。だからその三原則ができる前なので、ロボットと言えばなんとなく人を殺す? もちろん、フランケンシュタインもあったし、害を及ぼす的な、恐れられてる感じでは共通イメージがやっぱり、人の中にはあったみたいですね。
坂口 そうなんだ。言ってみれば、ロボットって言ってしまえばそうだけど、人が作った科学っていうのも人を殺すっていうかさ、良いことばっかりはないよね。生産性を上げていく、いろんな物を作るわけじゃないですか。人間は。原発もそうだけど。
植本 そうそう、ダイナマイトにしてもそうだし。
坂口 それが逆に人間に害を及ぼす物になってくるっていうのは、この書かれていることにけっこう近いっていうか、人間が本当、始末に困るっていうことですよね。それはすごいなって思っちゃいますよね。
植本 そうですね。

坂口 で、まぁ、アルクビストはいろいろ頼まれるわけですよね。いくらやってもロボットは、ロボットを作れないから。
植本 寿命がだいたい20年、高性能でも30年って書いてあった。
坂口 そんな中で、結局、彼はどうやったってできない。
植本 そうなんです。専門が建築の方なので、試験管をいろいろいじってますけどね。
坂口 あと、けっこうドラマチックなやり取りがありますよね。「おれの身体を解剖して調べてみろ」とか。
植本 ロボットが言ってるのね。
坂口 ロボットが言ってますよね。でも、それでも結局、上手く行かない。で、あれだ。
植本 もう無理だよって言って、ちょっとアルクビストが別のところに「もー無理だー!」って外に出てくのかな。そこにまた2体のロボットが出てくるんですけど、それがまた、衝撃的な。ラストに向かうんですけど。
坂口 そうだよね。
植本 あのー、自己犠牲できるロボットっていうか。言うとアダムとイブなんですけど。
坂口 愛とかそういう面倒なものが生まれてくるわけですね。
植本 この中だと、プリムスとヘレナ。お嬢さんと同じ名前を持つ女ロボットなんですけど、この2人が。
坂口 ここはポジティブな話になって行くわけですよね。
植本 ここポジティブ(笑)。
坂口 うん。ここはお互いをかばいあって、
植本 「あの人を殺すならわたしを」「あの子を殺すなら俺を」っていう。
坂口 だからアルクビストは試してるんだよね。あの、その愛をね。本物かどうかね。そんで、じゃあお前を解剖するって言うと、「じゃあ、わたしを」「俺を」って言っていって。彼の思い通りの形に。
植本 そう、で、ロボットが言うには「このドキドキって何だろう」って。すごいでしょ?(笑)。
坂口 で、どうなるんだ? 2人がどっかに行くんだっけ?
植本 「好きなとこに行け」って言われて「どこに?」「どこなりと」「ヘレナ、彼を連れてお行き」「行きなアダム」「行きな、エバ」「彼の妻になるがいい」「プリムス、彼女の夫になるがいい」って言って、2人を残して、最後、建築士の長いセリフで終わります。
坂口 あ、なんか解説に書いてあった。彼は神の、主?
植本 主っていうものがあるとしたら、その上に神があるんじゃないか。その役割をこのアルクビストに背負わせてるんじゃないかって。
坂口 なるほどね。ああ、そうですね。ロボットのヘレナがね、夢に見たっていうか、「小さな家と庭があって、それに犬が2匹」うんぬんっていうね。小市民の可愛い夢見る世界がこのロボットにあるんだよね。
植本 すごいね。何かが芽生えたっていうか。
坂口 そうそう。これはこれで、また面倒ですけどね。
植本 感情の芽生えっていうんですかね。

坂口 でもそれはさ、あいつが作っておいたからでしょ? ガルだっけ。
植本 そう、ガル博士が。
坂口 ヘレナにそそのかされて。
植本 いろいろ試して作っちゃったんだよね。
坂口 そうそう、ここで「女の浅知」が生きた(笑)。いろいろ言ってすみませんでした!
植本 本来ね、ロボットたちはみんな同じ顔をしてるんだけど。ガル博士は研究、いろんなことがしたいから、それぞれね、いろんな顔をさせたりとか、格好をさせたりとかね。
坂口 はい。
植本 元々は男女差がないロボットなんだけど、そこにいろいろ差を生ませていたりっていう。
坂口 そうか。それで、最後にアルクビストが聖書の一節を読むんだね?
植本 はい。
坂口 「神は人間を自らの姿に」って。 これ、あれだよね。2人が何もないところで生き残るっていうのは、地蔵中毒と同じだね。
植本 そうなの!? まさか地蔵中毒が出てくるとは思わなかった(笑)。
坂口 いやいや、今、原稿作ってるんだよ、遅くなってゴメンね(12月26日時点の話です)。で、読み返してみたらさ、最後すげぇ混乱して、うどんが流れ込んだりしてみんなが死ぬわけ。そうするとさ、子供の頃貧乏だった幼なじみの2人が生き残ってね。男の方が女にたのまれてね、真実を嘘で塗り固めるために嘘を言い続ける女をコンクリートで殴り続けて終わりになる。ストイックですね(編注:この部分はあくまでも個人の感想です)。
植本 そこに持ってくるとは思わなかった(笑)。
坂口 (笑)。
植本 でもこれさぁ、100年前に書かれていて、後の作品への影響力はすごいよね。
坂口 そうですね。
植本 『ターミネーター』とか、『ブレード・ランナー』にしてもそうだし。『AI』っていう映画もあったし。
坂口 そう言えばそうですね。
植本 ロボットの反乱っていうのは、今となってはありふれた題材ですけども。当時としてはね。
坂口 ロボットの反乱っていう意味ではさ、こっちの方が圧倒的に社会性があるっていうかさ、寓話って言ったら分かんないけど。守備範囲が広いかも。ほかの作品はもっとディテールでおもしろい真理が描かれてるとは思うけどね。
植本 そこはやっぱお国柄っていうか……。
坂口 時代?
植本 時代だね。
坂口 (写真を見て)これロボットですね。
植本 ね、そうそう、みんな胸に番号が書いてある。
坂口 これかわいいよね。写真見てるとすごいなんか、こう。
植本 当時のね、今、上演するとしたら、どういうのが正しいのかなと思って。この作品ね。なんか、築地小劇場でやってるのかな。
坂口 すごいよね。当時の彼らの新しがり屋。情報が今のようにすぐに手に入らない時代だからこそのチャレンジ精神ですね。

植本 今、やるなら逆にレトロにやった方が正解なのかなぁ。
坂口 ねー、なんか、ロボット物というとピカピカ光ったり、ピッタリとした細いタイツみたいな服装になったり。
植本 (吹き出す)細いタイツって何だ!?
坂口 なんか、違うけどさ。でも、この、この雰囲気は出ないな。日本人がやっても。ね。どの写真見ても、
植本 いいよね。
坂口 本当に素晴らしいし。この挿絵、
植本 舞台のスケッチですね。お兄さんが手伝ってるみたいだね。
坂口 なんかすごくいわゆるモダンな感じで書かれてますよね。んーー、でもこれヘレナがなぁ。いかにも…
植本 何、ちょっとかわいくないってこと?
坂口 うん(笑)。
植本 ちょっと何て言うの? でっぷりなさっているからね。
坂口 まあ、可愛いから真ん中にいるっていうのもなにだからね。
植本 これね、ブックレビューみたいなのあるじゃないですか。ネットで。
坂口 はい。
植本 それ見ると、おもしろいのが、SFファンが読んでて、戯曲だっ! ロボットっていう言葉の始まりが戯曲だったっていうことに驚いている人がすごく多くて。戯曲だから読みやすいっていう人も多かったですね。
坂口 あ、分かりますよ。ぼくむかしそれで戯曲にはまったから。
植本 基本、会話で成り立ってるじゃないですか。
坂口 そう! めんどくさくないし、自分でイメージが作れる。
植本 で、あと、うれしかったのは、演劇人からするとね、実際に舞台で見てみたいっていう人が多くて。
坂口 ほー、ぼくはあんまそうは思わないけどな。
植本 わはははは!
坂口 これー、けっこう白けるよね。
植本 舞台、そんなに普段見ない人がそう言ってくれるのは、うれしいでしょ?
坂口 うー、そうか。
植本 それで見てくれるならさ。
坂口 いいよ、芝居は。
植本 えーへへへ、お客さん来てもらわないと!
坂口 わははは。あー、そう。でもまぁ、確かに、ドラマチックな部分っていうのはあるよね。死ぬとこ確かに見せない、大群も見せないけど、なんかこう、場面場面で、おもしろく作れるかなぁっていう気は。
植本 ね、ロボットの行進のSEとかさ、かっこいいじゃない。ザッザッザって。
坂口 かっこいいと思う。最初の場面とかも、本当に変化がないけど、社長とヘレナお嬢さん、夫婦になる2人の会話とかもね。なんか、すごく素直に読めた。
植本 孤島だからさ、海の、波の音とかも入れるでしょ。
坂口 はははは。いいんだね、気に入ったんだね。
植本 楽しかったです。

坂口 じゃあ、作るか!
植本 えんぶで!?
坂口 いやいやいや、今、役者の人とかがさ、気まぐれに作品作りとかしてるじゃない。
植本 全然、賛成してないじゃない、それ。気まぐれって。
坂口 いやいやいや。もう、そうとう。
植本 でもこれ、ちょっとコメディタッチで作れるね。
坂口 作れる。全然大きな劇場じゃなくてもいい。駅前劇場で作れると思う。
植本 全然いいと思う。
坂口 じゃあ、近いうちに、植本さんもいろんな芝居に出演してお金も貯まったろうから、駅前劇場でプロデュース公演があるかもしれないっていう。
植本 わはははは! いやいや、もうちょっとみなさんの声も寄せていただいてね。
坂口 ネットで100人集まったらやるとかいうやつ。
植本 見たいっていう声を期待して。
坂口 そんんときは主役をやっていいから。
植本 パトロンとしてえんぶさんに頑張っていただいて(笑)。
坂口 頑張るよ!
植本 ヤッター! わはは。
坂口 昔、演劇やって大損した経験もあるからね。それを活かしてね(笑)。おもしろい舞台を作りましょう!
植本 はい、というか、これ本当に読みやすい戯曲なので、みなさんぜひ手に取っていただいて。
坂口 訳者が違うけど、青空文庫で。
植本 そうなの! それ後で気づいて。昔の作品だから青空文庫に入ってる。
坂口 でもこの文庫本は新しい訳なんでしょ。
植本 いくつも出てるみたいですけど。
坂口 興味のある方は、青空文庫でタダで読めるので、ぜひ読んでみたらいいですね。
植本 でもこの岩波文庫のやつは当時の写真がのってます。
坂口 いいね、本当に。
植本 ぜひこれ見てもらいたい。
坂口 でもネット見てたら、舞台写真1枚出てました。それはすごい雰囲気が出てました。
植本 ぜひぜひお読みください。
坂口 今回は素晴らしかったね。
植本 楽しかった!

〈対談者プロフィール〉
植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に参加。以降、老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。主な舞台に東宝『屋根の上のヴァイオリン弾き』劇団☆新感線『アテルイ』こまつ座『日本人のへそ』など。

坂口眞人
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。

 

 

【植本純米 出演情報】
音楽劇『ライムライト』
原作・音楽◇チャールズ・チャップリン
上演台本◇大野裕之
演出◇荻田浩一
出演◇石丸幹二 実咲凜音 矢崎広 吉野圭吾 植本純米 保坂知寿 ほか
2019年4月4/9~24◎シアタークリエ 地方公演あり
公式サイト:http://www.tohostage.com/limelight

(文責)坂口眞人

 

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