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フランス革命下の愛と運命を描いた大ヒットミュージカル『マリー・アントワネット』上演中!

同じ“MA”の名を持つ王妃マリー・アントワネットと庶民の娘マルグリット・アルノー。二人の女性の運命がフランス革命の嵐の中で交錯する物語を軸に、マリーとフェルセンの悲恋と、フランス革命が狂暴化していく様をも描き出したミュージカル『マリー・アントワネット』が渋谷の東急シアターオーブで上演中だ。

『エリザベート』『モーツァルト!』などの傑作ミュージカルを生み出し絶大な人気を誇るミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイが手掛けた日本発のオリジナルミュージカルとして、2006年に初演されたこの作品は、日本での凱旋公演やドイツ・韓国での上演と数種のプロダクションが生まれ、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイ等クリエイター陣が作品を更にブラッシュ・アップ。2018年ロバート・ヨハンソン演出の新曲も追加した新バージョン『マリー・アントワネット』として日本に帰還し、絶大な人気を博した。今回の2021年版は、2018年版のキャスト、王妃マリー・アントワネットに花總まりと笹本玲奈、マルグリット・アルノーにソニンと昆夏美のWキャストなど多くの続投メンバーに、新キャストも加わっての魅力的な再演となっている。

【STORY】
18世紀フランス。国王ルイ16世(原田優一)統治の下、飢えと貧困に苦しむ民衆を尻目に王妃マリー・アントワネット(花總まり/笹本玲奈Wキャスト)を筆頭とする上流階級の貴族たちは豪奢な生活を満喫していた。

パレ・ロワイヤルで開催されたオルレアン公(上原理生/小野田龍之介Wキャスト)主宰の舞踏会で、圧倒的な美しさを誇るマリーは愛人のスウェーデン貴族・フェルセン伯爵(田代万里生/甲斐翔真Wキャスト)とつかの間の逢瀬を楽しむ。だが、夢のような舞踏会の途中、突然飛び出してきた貧しい庶民の娘・マルグリット・アルノー(ソニン/昆夏美Wキャスト)が、民衆の悲惨な暮らしについて訴え、救いの手を求めてくる。だが、庶民の暮らしの現実など想像もできない貴族たちから返ってきたのは嘲笑だけだった。マルグリットは貧しい人々に目もむけず、自分たちのことしか考えない貴族たちに憤りを覚え、貧困と恐怖のない自由な世界を求めるようになり、その情熱に目をつけたジャーナリスト・ジャック・エベール(上山竜治/川口竜也Wキャスト)に扇動され、革命を志向する道を歩み始める。

一方、マリーはお抱えヘアドレッサーのレオナール(駒田一)、衣裳デザイナーのローズ・ベルタン(彩吹真央)と共に最先端のファッションの追及に余念がない。彼女の行動の全てに理解を示す国王ルイだったが、国家予算が逼迫している中、贅沢は慎むようにとやんわりと釘を刺す。折も折、宝石商のべメール(中西勝之)から無数のダイヤモンドが散りばめられた高価な首飾りを売り込まれたマリーは、心惹かれながらもその申し出を断る。

同じ頃、実は国王夫妻を失脚させ、自らが王位につかんと画策するオルレアン公は王妃に関する嘘のスキャンダルをマルグリットとエベールを使って流させる。マリーがベメールの持っている首飾りを欲しがっていたことに目をつけたオルレアン公は、フランス最高位の聖職者ロアン大司教(中山昇)をも巻き込んだ権謀術数を仕掛け、かの有名な「首飾り事件」を起こす。波紋は大きく広がり続け、王室に対する民衆の怒りと憎しみは頂点に達し、フェルセンの必死の警告も空しく、遂に革命の炎はベルサイユにまで押し寄せ国王一家は囚われの身となる。マルグリットは王妃を監視するため王妃の身の回りの世話をすることになる。敵対関係にあったマリーとマルグリットだったが、やがてお互いの真実の姿を見出してゆく。フェルセンは愛するマリーと国王一家を救うために脱出計画を立てるものの失敗し、一家はパリに幽閉されてしまう。

やがて、最後まで王妃に忠誠を誓っていた真実の友・ランバル公爵夫人(彩乃かなみ)も暴徒に襲われ命を落とし、遂にルイ16世がギロチンで処刑され、マリーも公正さに欠ける公開裁判にかけられる。今まで王妃に対する憎しみを原動力にしてきたマルグリットは、地位も、夫も、子供も、全てを奪われ、必要以上に痛めつけられている等身大の王妃を間近で見て、真の正義のありかに迷い始める。やがてマリーが刑場の露と消える日、マルグリットの中でこの世界を変えるために必要なものは何かとの、自らへの問いかけが膨らんでいき……

『MA』とタイトルされて2006年に登場したこの日本発のオリジナルミュージカルは、日本での世界初演ののち各国プロダクションによって様々なバージョンが作られ、2018年『マリー・アントワネット』となって日本に帰還したものだが、『エリザベート』『モーツァルト!』同様、各国のプロダクションのアイディアを受け入れ、改良をためらわないミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイ作品らしく、その姿は世界初演の作品から大きくエンターティメントに舵を切っていた。しかも大変面白いのは、この『マリー・アントワネット』という世界中でわかりやすいタイトルを冠された新演出版が、ハプスブルグ家とフランス革命ものの人気が殊に高い日本の土壌に、極めて親和性の強い作りになって戻ってきたことだった。特に、今でこそ宝塚歌劇団の代名詞としての印象が強いが、1972年から1973年まで集英社の漫画雑誌「週刊マーガレット」で連載された、漫画家池田理代子の代表作『ベルサイユのばら』が一世を風靡した日本にあって、作品の中で描かれたフランス王妃マリー・アントワネットとその恋人のスウェーデン貴族フェルゼン伯爵(※『マリー・アントワネット』では濁らずフェルセンと表記される)をはじめとした、実在の人物を描いた歴史ロマンの部分と、このミュージカル『マリー・アントワネット』の表現に共通するものが多く、世界観が馴染みやすい。これが何よりの利点になっただけでなく、書き加えられた多くの新曲も適度にキャッチーで尚美しいという利点を持っていて、エンターティメントのミュージカルとして洗練されている。

中でも、後の研究でほとんどがデマだったとわかっている、マリー・アントワネットに関する醜聞や性質の悪いゴシップが、性質が悪ければ悪いほど庶民にもてはやされ、あたかも真実であるかのように「オーストリアから来た王妃」の評判を貶めていったことは、真実かどうかわからない切り取られた言葉によって、SNSで「炎上」騒ぎが度重なったり、異なる文化を持つ人々を排斥しがちな現代に通じるものが多い。更に、崇高な理想が実現したはずのフランス革命がたどる恐怖政治の時代という、よく知られた事実だけでなく、革命家たちがマルグリットを「女だから」という理由だけで排除しようとするなど、連綿と続く差別問題も浮かび上がってきていて、終幕の「どうすれば世界は」のナンバーこそ、やや生の声に過ぎるか?と感じるものの(憎しみの連鎖を止めるといった普遍的な命題は、作品そのもので語られるのがベターだと思う)、あくまでもエンターティメントの中で描かれているのが、作品のスケール感を高めた。

そんなミュージカルの2021年バージョンのキャストでは、マリー・アントワネットの花總まりが、当代一の姫役者ぶりに更に磨きをかけている。宝塚歌劇団時代の『ベルサイユのばら』、フレンチミュージカル『1789─バスティーユの恋人たち』等、マリー・アントワネット役を演じた経験も豊富だが、やはり主人公の一人として王妃が描かれているこの作品のしどころは極めて多く、運命によって流転していくマリーの変化の表現が巧みで、生まれながらの王族を自然に感じさせる。王妃である責任と愛に揺れる「孤独のドレス」の絶唱など、歌唱面でも更に進化しているのが頼もしかった。

Wキャストのマリー・アントワネット笹本玲奈は、世界初演の『MA』でマルグリットを演じ、2018年版からマリーを演じるこの作品の申し子的存在だが、今回の2021年版で、後半虐げられ続けても尚、凜と立つマリーの演技がぐんと深まっているのを顕著に感じる。「私の罪はプライドと無知、そして人の善意を信じすぎたこと」と、裁判で己の来し方を語る場面が素晴らしく、母としての慈愛と、最後まで誇りだけは手放さなかったマリーの生き様を体現していた。

もう一人のヒロインマルグリット・アルノーのソニンは、過酷な現実の中であがき、ただ憎しみだけを頼りに突き進んできたマルグリットが、終盤に向かって何が正義なのか?に揺れていく過程の表現が群を抜く。「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という後年マリー・アントワネットの言葉として伝えられたが、真実ではなかったという有名エピソードを、マルグリットが実際に別人から投げつけられる形で提示している作品の流れを巧みにつかんでいて、「100万のキャンドル」をはじめとした迫真の歌唱と演技に心揺さぶられる、常のソニンの美点はもちろん、演技面でも更に深化していることを感じさせた。

Wキャストのマルグリット昆夏美は、力強さは持ちつつも、怒りの中に悲しみが前に出る演じぶりが、マルグリットの悲嘆を強く描き出している。市民の為にパンを盗み、バスティーユ送りにされかかるところを行き合わせたフェルセンに助けられる。その時王妃の愛人として侮蔑しながらも、完璧な貴公子のフェルセンにふと心惹かれもするマルグリットの心情が伝わり、のちの展開に自然につなげることに成功している。歌唱力の高さは言わずもがなで、ソニンと共に甲乙つけ難いマルグリットを演じていた。

王妃の恋人フェルセン伯爵は、続投の田代万里生がマリーへの愛に忠実であるだけでなく、聡明で時代を観る目に優れ、フランス王家を憂い、なんとか現状を打破しようと試みて、耳に痛いことも敢えて語るフェルセンの誠実さをよく表している。マリーとのデュエット「あなたに続く道」の甘やかさ、現実を直視するようにマリーに訴える「遠い稲妻」の切々とした熱唱が際立ち、生来の気品高さも役柄に生きて、二枚目のミュージカル俳優としてますます磨きがかかっている。

そのフェルセン伯爵で新登場の甲斐翔真が役柄に爽やかな風を吹き込んでいる。マリーとフェルセン伯爵が同い年だという歴史の事実を久しぶりに思い出させるフェルセン像で、甲斐が演じると二人の言い合いにどこか兄妹喧嘩めいた香りが漂い、作品の中で若干一貫性に欠ける面があるフェルセンの言動を納得させる利点もあった。ビジュアルも抜群で軍服がよく似合い、現時点で充分歌えている上に伸びしろも感じさせ、大役が続いていることを納得させる逸材ぶりだった。

王位簒奪を企てるオルレアン公には新キャストが揃った。その一人である『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスや『1789』のダントン等革命家を長く務めてきて、近年は『レ・ミゼラブル』のジャベールも演じている上原理生は、神に選ばれた者は誰でもないこのわたしなのだと信じ込む、傲岸不遜な人物を悠々と演じている。青年期にロッカーになりたいとの夢を持っていたと聞く上原の音楽的志向が「私こそがふさわしい」のナンバーにもよく生きていた。

やはりオルレアン公に新登場の小野田龍之介は、現役で『レ・ミゼラブル』のアンジョルラスを演じている人。揃って革命家を演じてきた人材が、革命を利用しようとする役柄を演じるのは、作品をひとつ離れたミュージカルファンとしての楽しみも感じるし、上原よりも策略家の面が強調されているオレルアン像がWキャストの妙味としても面白い。冒頭マルグリットをじっと窓から見つめている姿が意味ありげで、後の展開を予感させる演技面の充実も感じさせた。

国王ルイ16世は続投の原田優一のシングルキャストになった。人前に出ることをあまり好まず、王妃の華やかさに圧倒されながら心から愛してもいて、彼女の行動を全て理解し、反逆する臣民にも発砲しない、万物に対して広い心を持っている王を原田らしい緻密な演技で表現している。フランス革命を背景にした幾多の作品の中でも、この作品のルイ16世の丁寧な描き方には特段のものがあるが、それによく応え、別の人生を歩む選択肢がない、国王に生まれ付いた者の悲嘆を表すナンバー「もしも鍛冶屋なら」の心震える歌唱も胸に染みた。

この作品のコメディリリーフ的な側面も担うヘアドレッサーのレオナールの駒田一と、衣裳デザイナーのローズ・ベルタンの彩吹真央が、高い地力で利に敏く状況判断もシビアな、貴族社会と結ぶことによって富を得ていくコンビを適度な毒気を含めて面白く演じている。実際のローズ・ベルタンは王妃が幽閉されたのちも、可能な限り王妃に衣類を届け続けた人物としても知られるが、あくまで作品が求めた役割に徹した彩吹が潔く、硬軟自在の駒田とのコンビネーションも抜群。前述の「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」をベルタンの発言にしているのも効果的で、終盤の重い展開にも、二人の存在がひと息つける良いアクセントになっていた。

王妃に最後まで友情を保ち続けるランバル公爵夫人の彩乃かなみの愛らしさは、この作品全体にとって一服の清涼剤。王妃のドレス選びに共に興じる無邪気さ、王太子、王女たちへの慈愛、そして神に全てを託す信心深さと、どの表情も柔和かつ可憐。亡命を勧める王妃と共にいると言いきり「神は愛して下さる」と歌うナンバーのリリカルなソプラノの美しさが、そうならないことがわかっているだけに涙を誘った。

マルグリットにいち早く目をつけるジャーナリスト、ジャック・エベールもWキャストによる新キャストが揃う。その一人上山竜治も、現在『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役を務めている人だが、こうした色濃い役柄にも果敢に飛び込んでいく役者魂を今回も感じさせている。舞台姿に華があるのも群衆の先頭を行く場面の多い役柄を自然に増補していて、非常に目を引かれるエベールだった。

一方Wキャストの川口竜也は長く『レ・ミゼラブル』でジャベールを演じている実力派。歌唱力も抜群だが、何より芝居の性根がしっかりしているのが今回も特段の強みになっている。事実でないゴシップ記事を書きまくることに躊躇がない、役柄のアクの強さの表現に良い意味の泥臭さがあり、ラストの展開に関わる重要な役柄を印象的に描き出していた。

他にも大きな役柄が多く、ロアン大司教の中山昇の表情変化の巧みさ、宝石商ベメールの中西勝之の時代から抜け出してきたような造形、名高い革命家のイメージにピッタリのロベスピエールの青山航士をはじめ、実際に出演している人数の何倍にも感じられるキャスト陣の活躍が怒涛の時代を盛り上げる。革命が狂暴化していく過程は観ていて胸が詰まるほどの迫力で、東急シアターオーブの広い空間を埋めていく力になった。盆回しを効果的に使った演出にもスケール感があり、作品が更に育っていることを感じさせる舞台になっている。

【公演情報】
ミュージカル『マリー・アントワネット』
脚本・歌詞◇ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲◇シルヴェスター・リーヴァイ
演出◇ロバート・ヨハンソン(遠藤周作原作「王妃マリー・アントワネット」より)
出演◇花總まり/笹本玲奈(Wキャスト)、ソニン/昆夏美(Wキャスト)、田代万里生/甲斐翔真(Wキャスト)、上原理生/小野田龍之介(Wキャスト)、原田優一、駒田一、彩吹真央、彩乃かなみ、上山竜治/川口竜也(Wキャスト)他
●1/28~2/21◎東急シアターオーブ
〈料金〉S席13.500円 A席9.000円 B席4.500円
〈お問い合わせ〉Bunkamuraチケットカウンター03-3477-9999、東宝テレザーブ03-3201-7777、帝国劇場『マリー・アントワネット』公演係03-3213-7221
●3/2~11◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈料金〉S席14.000円 A席9.500円 B席5.500円
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場メインホール06-3677-3800
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/ma/

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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