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二人の女優が二人の女王を演じる傑作舞台『メアリー・ステュアート』に挑む! 霧矢大夢・保坂知寿インタビュー

同じ時代にひとつの島に生きながら、生涯一度も会うことのなかった二人の女王を描いた物語『メアリー・ステュアート』が、演劇ユニット「unrato」により1月31日~2月9日、赤坂RED/THEATERで上演される。

フリードリッヒ・シラーの同名作品を下敷きに、イタリアの劇作家・小説家ダーチャ・マライーニが二人芝居に翻案したこの作品は、男性遍歴と共に波乱の生涯を送り処刑されたスコットランド女王メアリー・ステュアートと、未婚を貫き「国家と結婚した」と言われたイングランド女王エリザベス1世という、歴史に名高い二人の女王を演じる二人の女優が、互いの乳母と侍女も演じるという、演劇的興趣に漲る二人芝居。日本でもこれまで麻実れい×白石加代子、南果歩×原田美枝子、中谷美紀×神野三鈴、などの組み合わせで上演が重ねられている。

そんな作品をキャパ150の濃密な空間で上演しようという、今回の刺激に満ちた公演でメアリー・ステュアートとエリザベスの侍女を演じる霧矢大夢と、エリザベス1世とメアリーの乳母を演じる保坂知寿が、作品や役柄のこと、大河内直子の演出、更に互いの魅力までを語り合ってくれた。

凄いチャンスを頂いたなと

──二人芝居の傑作として名高い作品ですが、出演を決められた時の気持ちはいかがでしたか?

霧矢 赤坂RED/THEATERという濃縮された空間には、宝塚退団後よく立たせて頂いているのですが、あそこでならきっと凄い世界が繰り広げられるのではないか?とワクワクする感じでした。でも実際演じるとなるととても大変な芝居になるのだろうという覚悟も必要だと思いました。2年ほど前にロンドンに旅行した時にスコットランドにも足を伸ばし、メアリー・ステュアート関連の観光もしたし、ウェストミンスター寺院のメアリーのお墓も行きましたが、まさか演じるとは思っていなかったので、もっとじっくり見ておけば良かったと思いました。

保坂 私はミュージカル作品をたくさんやらせて頂いていますが、小さな空間でのストレートプレイは大きな刺激になるので、できるだけやっていきたいと思っているので、企画を伺っただけで飛びつきたかったんです。でも、とにかくまずは台本を読んでからにしようと台本を読み、「これは大変な作品だ」という思いはありましたが、1回読んだ時点で「やらせて頂きます」とお返事をしました。それからやや時が経ち、改めてじっくりと読み始めましたら、「これは凄いことを引き受けてしまった!」という思いが溢れてきて、焦りだしたんですけれども(笑)。でもこれだけハードルの高いものに挑戦できるというのはなかなかあることではないので、凄いチャンスを頂いたと思っております。

つくり込んだ美術などが助けてくれる

──今ハードルの高い凄い作品だ、というお話が出ましたが、お稽古がはじまってみて、改めて作品についてはいかがですか?

霧矢 演出の大河内直子さんは、美術や衣装のビジュアルイメージをしっかりと創り込まれる方で、今回もそのビジュアルイメージが明確で、本番用の小道具もすべて揃っている中で稽古をしています。もちろん壮絶な運命を背負った二人の物語で、せりふも膨大で、二人で必死で喋っていますが、演じ手次第でいかようにでもできるという状況でもあります。台本にも細かいト書きの指示などがないので、どう表現してもいい。もちろんこの膨大なせりふを覚えるのは苦しいですし、二人で女王とそれぞれの乳母と侍女も演じますので、最初はその切り換えなどにもとらわれていました。立ち稽古が始まり、この空間に意味を持たせて演じていくと、少し楽しくもなってきたかもしれないです(笑)。

保坂 かも知れない(笑)。私も台本を読んだ時には、何もない地舞台に生身の二人が出てきて演じ合うちょっとコンテンポラリーな空間なのかな?と、想像していたんです。でも、直子さんの演出はそうではなく、時代を感じさせる道具をちゃんと飾ってくださって、この中で演じられるなんて、なんと贅沢な!と思いました。助けてくれるものがいっぱいありますし、小道具が背景を語ってくれます。私達がやろうとしている世界観を手伝ってくれているものがある上でのやりやすさを感じます。私としても、(小声で)こっちの方が好きかもと…(笑)。

霧矢 なんで声を潜められるんですか?(笑)。

保坂 色々なやり方があるからね(笑)。もちろん二人は女王という特別な立場の人を演じますが、内面的なものに共感して頂けると思いますし、それを「現代」の手法でやることもできるのですが、今回はそうではなく「時代」の中でやろうとされていることも良かったなと思います。

霧矢 一方で、衣装はとてもシンプルなので、ドレスで飾り立てられていない、生身の二人の女性の物語だというのも、感じて頂けると思います。

──大河内さんの稽古はどうですか?

保坂 私は初めてご一緒させて頂いていますが、稽古場でジャッジされている感が全くないんです。「こうしたい!」という確固たるものがあるのに、柔軟で常にのびのびと稽古をさせてもらっています。スタッフさんと話されていても、いつも穏やかで、今とても大変なことをやっているはずでも、そう思わないでいられるのが素晴らしいなと感じます。

霧矢 直子さんと最初にご一緒したのは宝塚を退団して二年目の時です。まだ女性を演じることの引出しが自分の中に乏しくて、戸惑いがあった頃ですが、私の本来持っている女としての部分を一緒になって掘り起こしてくださった。女優をやるということそのものにまだ構えがあったのを、「霧やんはちゃんと女性なのよ!可愛げがあるわよ!チャーミングよ!」とおだててくださり(笑)、なおかつ演劇的にハードな作品を共に走って、鍛えて頂いたという思いが強いです。今回もこれまでの信頼関係を更に進化させて、知寿さんと共に良いものを創っていけたらと思っています。

演じる二役が意外にも乖離していない

──役柄についてはいかがですか?

保坂 エリザベスⅠ世は皆様お馴染みの方でもあり、まず恐れ多いという感じもありますよね。今回は改めて様々な文献を読み、映画を観たりしました。短期間にとても考えられないような経験をされている人ですから、その想いや苦しみについては想像するしかないのですが、彼女が内面的に持っている大胆なのに繊細であったり、とても強いのに臆病でもあったり、絶対的な自信の影のコンプレックスなど、人間誰しもが持っている二面性が、極端に振れている人だと感じます。メアリーと大きく違うのは、神から与えられた女王という立場に就いた人間として、「こうあらねばならぬ」という思いが強いところですね。じゃあ自分はどっちのタイプだろう?と考えると、絶対にエリザベスだなと思います(笑)。だからこそ共感できるポイントもたくさんあり、大変だっただろうな、もっと楽に生きる道もあったんじゃないか?という気持ちにもなる。まぁ楽に生きていたら歴史が変わっていただろうし、大きな決断を下していかなければならない立場だからこそビクビク生きていた部分もあっただろう、ただ強く雄々しい、偉い人だけではない部分に想いがいきますね。

霧矢 メアリーはそういうエリザベスと本当に対照的で、王冠をかぶった状態で生まれてきたような人で、フランスに行ってのびのびと育てられた。ラテン系なんですね。知寿さんが頭でしっかりと考えて行動される部分があるとお聞きして、私はラテン系で頭で考えるというよりもパーンと勢いで行ってしまったり、慎重さがなかったりといったところがあってメアリーのほうだなと思いました(笑)。不器用な生き方や逆境に立たせられた時の強さにも共通点を感じます。私も困難な時にこそ頑張らなきゃ!と思う方なので。もちろんこう感じるのは、自分との共通点を探す作業をしているからでもあるのですが、自分が本来持っている要素を入れていけるかもとは思いますね。

──そんな人物を演じながら、お互いの侍女や乳母も演じるというところもこの戯曲の演劇的な主眼になっていますね

保坂 私はメアリーの乳母を演じます。最初は瞬間的に別の人物にチェンジするという作業が必要なのだろうと思っていたのですが、稽古をしていくうちにエリザベスとメアリーの乳母はそこまで乖離していないなと感じています。霧やんが演じるエリザベスの侍女もそうよね?「女王様」と奉るというよりはちょっと勝気な人で、冷酷な部分もある。エリザベスは刺激があって面白いから傍に置いているのだなと。

霧矢 エリザベスに対する侍女として立っている時に、メアリーに見えたとしても良いんじゃない?と思えるような存在ですね。もちろん役が変われば繰り広げられている芝居は確実に違うのですが、観ている方にもしかしたら混乱が生じたとしても構わないのではないかと思うようになりました。メアリーだったらこう言うんじゃないかな?とエリザベスが想像することを、侍女が言っていたりもするので。結婚しなかったエリザベスに対して、侍女は「私、結婚したいんです!」と言うのですが、そういう関係はエリザベスとメアリーに共通していると感じたりもします。本当に良くできている戯曲なんだなと感じます。

──それは戯曲として読んでいた時より、実際に演じて更に感じたことですか?

保坂 そうですね。

霧矢 より強く感じるようになりました。

一人で頑張っているのではない安心感

──二人芝居についてはどうですか?

霧矢 大尊敬している知寿さんがお相手なので、私が何をやってもきっとなんとかしてくださるだろうという、多大な安心感があります。

保坂 いやいや!「なんとかして!」の合図に気づかないところがあるかも知れない(笑)。

霧矢 いえいえ、それは私です!(笑)。いかようにもしてくださるのではないかと頼りにしています。

保坂 それはそのままお返しします!(笑)

──大きな座組での舞台経験が大変豊富なお二人ですが、その違いについては?

保坂 二人芝居は、大変さも互いに同じなので、一人で頑張っている感がないですね。「二人で一緒に!」です。

霧矢 大勢のカンパニーだとまず自分のことを精一杯頑張って、それが皆の中での相乗効果になって作品の力になっていけたらと思いますが、この作品では二人しかいないので、ライバルであり、戦友でありという感覚になっています…って私、後輩なのに…(笑)。

保坂 何をおっしゃいます!(笑)。

霧矢 一人芝居も経験させて頂いていますが、その時はひたすら「大変だ、大変だ」と初日まで思っていましたが、今回は知寿さんがいるから大丈夫だという気持ちが強いのです!

保坂 わからないよ~。「やりやがった!」と思うかも!(笑)

──そんなふうに信頼するお二人ですが、お互いに感じている魅力はどこですか?

霧矢 劇団四季時代からずっと舞台を拝見していますが、四季の中でも特に一人の女性として自立していらっしゃるという印象が強くて、「カッコいい女優さんだな!」と思っていました。四季を退団されてからは、そこにコミカルさが加味されて、舞台の上で常に小気味よい居方で光っていらっしゃるという印象です。

保坂 霧やんとご一緒するのは二回目なのですが、前回はそこまで絡みのある役柄ではなかったものの、良い意味でとても真面目なんだな!と感じていました。真摯に役柄や自分のやるべきことに向かい合う方というのが最初の印象でしたね。それと同時に今、私に霧やんが言ってくれたことと近いのですが、宝塚的な香りを匂わせないタイプの方で、でも「匂わせて」と言えば一瞬で出すこともできる。宝塚で培ってきたものが血となり肉となっていて、かつ、今この年齢の、このキャリアの女優さんとして自分と向き合っていらっしゃる。過去にも自分のやり方にも捉われず、柔軟にその時々の芝居、現場に向き合っているのが素敵だなと思います。何よりお芝居が好きなんだなと、シンプルに感じさせてくれる人ですね。

──そんなお二人で繰り広げられる二人芝居に期待が膨らみます。では舞台を楽しみにされている方達にメッセージを是非!

保坂 お客様のほうがもしかしたら、これまで上演された『メアリー・ステュアート』にお詳しいかも知れませんが、今回は150席の濃密な空間です。お芝居を観ていると言うよりも、同じ時代のその空間に共にいるという感じになるのではないかと思いますので、楽しみにして頂けたらと思います。

霧矢 すべて言っていただきました。素晴らしいです!

保坂 ええ~? もうひと言!(笑)

霧矢 では(笑)、新たな『メアリー・ステュアート』を「体感」して頂けるように、頑張りますので是非観にいらしてください!お待ちしています!

きりやひろむ○大阪府出身。1994年、宝塚歌劇団入団。09年、文化庁芸術祭演劇部門新人賞を受賞するなど活躍し、10年、月組トップスターに就任、12年に退団。退団後は女優として舞台を中心に活躍中。主な出演作品は、ミュージカル『ラ・マンチャの男』音楽劇『レミング』ひとり芝居『THE LAST FLAPPER』ミュージカル『マイ・フェア・レディ』ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』『この熱き私の激情』『SKIP』ミュージカル『タイタニック』ミュージカル『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』『LULU』ブロードウェイミュージカル『ピピン』など。ミュージカル『I DO!I DO!』で第22回読売演劇大賞優秀女優賞受賞。3月に『悪魔の毒毒モンスター』、5月にディズニーミュージカル『ニュージーズ』への出演が控えている。

ほさかちず○東京都出身。82年から06年まで劇団四季に在団。『ウエストサイド物語 』『キャッツ』『アスペクツ・オブ・ラブ』『夢から醒めた夢』『マンマ・ミーア!』『オンディーヌ』など、多くの作品でヒロインを演じ活躍した。退団後もミュージカルからストレートプレイまで幅広い作品で、大きな存在感を発揮し続けている。近年の主な出演作品に『ペテン師と詐欺師』『レベッカ』『ライムライト』『夢の裂け目』『ブロードウェイと銃弾』『これはあなたのもの』『休暇 Holidays』『秘密は歌う』『地獄のオルフェウス』『道化の瞳』など。第34回菊田一夫演劇賞を受賞。4月に『モダン・ミリー』、12月に『オトコ・フタリ』への出演が控えている。

【公演情報】
unrato#5『メアリー・ステュアート』
作◇ダーチャ・マライーニ
翻訳◇望月紀子
演出◇大河内直子
出演◇霧矢大夢 保坂知寿
●2020/1/31~2/9◎赤坂RED/THEATER
〈料金〉一般8,800円 学生4,400円 高校生以下3,300円(全席指定・税込・未就学児童入場不可
〈unratoHP〉http://ae-on.co.jp/unrato/2019/10/17/unrato5ms/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/田中亜紀】

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