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音楽劇『ハムレット』で初の海外戯曲演出に挑む 八世宗家・藤間勘十郎インタビュー

日本舞踊家で宗家藤間流八世宗家、藤間勘十郎が、初めて海外戯曲の演出に挑む話題作、音楽劇『ハムレット』が、22~25日、東京・北千住の天空劇場で上演される。

音楽劇『ハムレット』は古典戯曲として愛され続けているシェイクスピアの「ハムレット」を、藤間勘十郎演出、戸部和久上演台本、橋本賢悟音楽で、新たに音楽劇として構築した作品。
ハムレット役にCROSS GENE のボーカルとして活躍するキム・ヨンソク、オフィーリア役にミュージカル女優として数々の舞台に立つ栗原沙也加、ガートルード役に元宝塚歌劇団星組トップスターで、現在女優として活躍する北翔海莉、クロ―ディアス役に舞台を中心に活躍を続ける根本正勝、ポローニアス役と墓堀役の二役に独自のキャラクターで多彩な活動を続けるルー大柴をはじめ、様々なジャンルから個性的なキャストが集結。藤間勘十郎が描くシェイクスピアの世界という、新たな扉が開かれる舞台に大きな期待が集まっている。

そんな作品で、海外戯曲の演出に初挑戦する藤間勘十郎が、作品に向けた想いを語ってくれたインタビューを稽古場写真とともにお届けする。

洋の世界に和の世界を入れ込んでいきたい

──音楽劇『ハムレット』の演出を手掛けようと思われたお気持ちから教えて下さい。

演出のお話を頂きまして、和と洋のコラボをテーマにしたシスティーナ歌舞伎をさせて頂いていたこともあり、そうした一環として、洋物を身につけていきたい、勉強したいという気持ちがあって。「私でできるものなら」とお受けすることに致しました。

──『ハムレット』という作品に対してはどんな印象を?

もちろんシェイクスピアの王道的な舞台も拝見しておりますが、やはり今の松本幸四郎さんがおやりになった歌舞伎版の印象が強いです。海外のものを歌舞伎にするという発想は、それが初めてではなかったものの、非常に斬新に感じましたし、がっつり歌物の三味線でやっているのもとても面白かったです。一方今回の音楽劇『ハムレット』には、洋の世界に和の世界を入れ込んで行こうという気持ちがあります。歌舞伎の演出には型があって、所作も大袈裟というのかな、遠くからでもとてもわかりやすくできていますよね。その様式美を『ハムレット』の中に入れていきたいことがひとつと、お客様に僕が常々ご理解頂きたいなと思っているのは、歌舞伎は決して様式だけの世界ではなく、演劇でもあるんですね。もちろん主君への忠義の為に自分の子供の命までも犠牲にするなど、今の方にはなかなか理解しにくいような精神も出てくるのですが、そこに親子の情もあって、決して型だけで受け継がれたものではなく、心が動いているからこそできる演劇なんです。その部分も西洋のものの中に入れてみることができたならと思っています。

──人気アニメ作品の歌舞伎化などが今とても盛んですが、ある意味その逆を行くという発想なのですね。中でも『ハムレット』という戯曲自体の流れに、歌舞伎に通じるものもあるのでは?と感じますが。

それは大いにありますね。更に通常はデンマーク王となったクロ―ディアスと先王を二役で演じるのですが、今回はハムレットが父である先王を二役で演じます。そこなどは完全に『伊達の十役』の趣向につながる、歌舞伎の手法ですね。祖母の藤間紫が新橋演舞場で『西太后』をやった時に、三代目猿之助さんの演出だったのですが、一幕の最後にバッと見栄を切って終わったんです。その時に「歌舞伎でないものでも見栄を切って絵になって終われるんだ!」ということがすごく面白かったんです。また、スーパー歌舞伎にしても洋楽の中に「つけ」が入っていて全く違和感がありませんから、そうしたものも取り入れたいと思っていて、歌舞伎的なものを入れやすい作品ではあると思います。ただ、だからと言ってあまりにも歌舞伎的な発想に走って「定式幕はないのか?」みたいなことになってもいけませんから(笑)、そのバランスをよく考えていきたいです。

言葉の一つひとつを音楽的に聴いて頂きたい

──戯曲の中で特にここが魅力だと感じていらっしゃるところは?

やはり親の仇を打つという精神でしょうか。稽古をしていて感じるのは、本当に狂気に落ちているのは誰なのか?がわからなくなっていくんですね。そこにすごく人間のドラマがあるなと。日常でも酔っている人って必ず「自分は酔っていません!」って言いますよね?僕自身も言うんだけど(笑)、つまりその時にはもう既に真実がわからなくなっているんです。そういう本当のところがわからなくなっている部分をちゃんと描ければ、悪には悪の理もあれば、善にも闇があることがくっきりと出るでしょうし、いくら親の仇と言っても人を殺してしまう闇をきちんと描けばすごく面白くなるだろうと。

──確かに、本当に他者に危害を加えるか?は全く別次元として、そうしてしまいたいという負の感情に囚われることは誰にでもありますよね。

そうでしょう?僕にもそんな気持ちにかられた経験は何度もあります。でもその感情に呑まれてしまうのはある意味の弱さだと思うし、だからこそハムレットも気が付けば自滅の方向に向かっていくので、そういう弱さも大切にしたいです。また僕がすごくこだわっているのはオフィーリアが入水する場面で、そこは踊りで表現していて、ハムレットの幻想が出て来て『二人椀久』のように踊ります。あ、ここは舞踊か!という、僕がやるならではの見せ場になればと思っています。ハムレットが憎悪に囚われていく表現にも、憎悪を具現化した舞踊を取り入れようと思っていますので、そのあたりが他にない、藤間勘十郎演出の音楽劇『ハムレット』の特徴になっていけば良いですね。

──また今回は音楽劇ということで、音楽の魅力についてはいかがですか?

言うなれば歌舞伎も音楽劇だと思うんですね。黙阿弥などは完全に謡いですから、この作品でも台詞にメロディーがついていくという発想をしていて、言葉の一つひとつを音楽的に心地良く聞いて頂きたいと思っています。音楽の橋本賢悟さんはシスティーナ歌舞伎の1回目からご一緒している、もう十数年の付き合いなので、こちらの要望もわかってくれるし、意見も出し易い中でとても良い曲をたくさん書いてくれました。それと同時に鳴り物も生で演奏します。しかも不思議なことなのですが、歌舞伎の下座音楽が五線譜で残っているんです!

──五線譜でですか?

そうなんです!それでふっと「弾ける?」と訊いてみたらピアノでちゃんと弾けたので、じゃあこれで行こうという場面もあります。どうして五線譜で残っていたのかわからないんだけど(笑)そういう新たな発見もあって、楽しみが増えました。

藤間勘十郎が手掛けるならこれだ!という世界観

──キャストの皆さんについてはいかがですか?

やっぱり僕は歌舞伎の発想で創ろうと思っていて、クロ―ディアスには国崩しの秋月大膳のイメージがあったのですが、根本正勝さんが本読みをされるのを聞いていたら、決してそうではなかったんです。何気ない一言が殺意を盛り上げたり、憎悪を掻き立てたりする。そうした台本を掘り下げる作業を様々にしてくださるキャストが揃っているので、僕の発想も刺激を受けて変わっていっています。キム・ヨンソク君のハムレットも、先ほども言いました人間の弱さということがとてもよく表現できている、すごく面白いハムレットになっているので、これから更に稽古を進めてい  く中で、様々な変化をしていくだろうと、自分でも楽しみにしています。

──これまでにも、多岐に渡る多彩な活動をされていますが、今後やっていきたいと思われていることはありますか?

共同演出を経て、演出家としてひとりでさせて頂いたのが『石川五右衛門』という作品で、それが29歳の時でした。いま、39歳になりまして、そこから十年が経ったことになりますが、歌舞伎作品、またこうした歌舞伎以外の作品と様々にさせて頂いてきて、やっと自分も演出家だという自覚が強くなったと思います。決して振付師が趣味で演出をしているのではないと。もちろんどっぷり歌舞伎の世界で育ってきましたが、祖父(二世藤間勘祖)が劇団新派や、山田五十鈴さん、若尾文子さんの舞台の演出も多く手掛けていたので、そうした舞台もたくさん観ていて。祖父は「ここがポイントです」と提示することがとても上手かったので、その演出技術も学びながら、和物であれ洋物であれ、藤間勘十郎が手掛けるものならこれだ、という世界観を構築しなければと思っています。音楽劇『ハムレット』であっても、自分の色は出していきたい。その為の様々な要求をさせて頂いているので、北翔(海莉)さんなどは何度もご一緒していますから慣れていらっしゃると思いますが、他の方々はびっくりかも知れません(笑)。でも、この世界は成功して当たり前、失敗すれば消えていくだけですから、常に背水の陣で頑張っているので、これからもジャンルを問わず演出家としての自覚を持ってやっていきたいです。

──また、この作品はハムレットが父親の想いを引き継ぐという物語ですが、日本舞踊宗家藤間流のご宗家というお立場として、引き継いでこられたものはありますか?

僕が母に言われて一番印象に残っている言葉に「お前がいなくてもこの家は滅びない」という一言があります。「だからこの立場にいることを当然だと思うな」と。

──それは、凄い言葉ですね。

でも確かにそうなんですよ。例えば僕が今日「やめた!」と言ったとしますよね。それで来月の歌舞伎の幕が開かないか?と言えば、そんなことは絶対にありません。ちゃんと幕は開きます。僕がいようがいまいが「藤間家」は滅びない。だとしたら、自分で八世宗家・藤間勘十郎として必要とされる人間でいなければなりませんよね。そう考えると『ハムレット』もまた、皆死んでしまっても王家だけは滅びないという世界が描かれるので、そういう意味でも相通じるものがありますし、この舞台もまた先ほど言いました通りに背水の陣で臨んでいるもののひとつですので、頑張っていかなければと思います。

──そんな深い覚悟で臨まれる音楽劇『ハムレット』に期待が高まりますが、改めて意気込みをお願いします。

良いキャスト陣に恵まれ、初めて洋物作品をさせて頂くにあたって最強のメンバーが揃ったと思っています。キャストの方達も普段やらないことをやることによって、新しい面をご覧頂けると思いますので、是非劇場に足をお運びください。

ふじまかんじゅうろう○日本舞踊宗家藤間流の八世宗家。1983年藤間凌を名乗り長唄『雨の五郎』で初舞台。1987年に出演したNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』の梵天丸役で一世を風靡する。2002年八世宗家・藤間勘十郎を襲名。2007年フランス・オペラ座の歌舞伎公演に振付師として参加。2009年新橋演舞場の新作歌舞伎『石川五右衛門』で演出・振付を担当。演出・振付。音楽を手掛ける藤間勘十郎文芸シリーズや、数々の新作を発表し、伝統芸能の旗手として活躍中。2003年芸術選奨文部科学大臣賞新人賞、2011年第3回創造する文芸賞、2019年文芸シリーズ其の三『恐怖時代』ほかで第四十回松尾芸能賞優秀賞受賞。

【公演情報】
音楽劇『ハムレット』
作◇ウイリアム・シェイクスピア
演出◇藤間勘十郎
上演台本◇戸部和久
音楽◇橋本賢悟
出演◇キム・ヨンソク(CROSS GENE)、大橋典之、栗原沙也加、根本正勝、野島直人、ルー大柴/北翔海莉
●10/22~25◎天空劇場
〈料金〉8.800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉アーティスト・ジャパン 03-6820-3500
http://artistjapan.co.jp/

 

【取材/橘涼香 写真/谷中理音】

 

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