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シス・カンパニー公演『23階の笑い』間もなく開幕!小手伸也・浅野和之 インタビュー

三谷幸喜の演出によるニール・サイモン作『23階の笑い』が、12月5日から27日まで、世田谷パブリックシアターで上演される。

ニール・サイモンはアメリカが誇る20世紀最大の喜劇作家であり、2018年に91歳で他界するまで、舞台、映像の世界で長く愛されてきた。また脚本家・三谷幸喜が敬愛する作家で、それゆえに長く封印し、初めて演出したのは、2013年上演の『ロスト・イン・ヨンカーズ』だった。それから7年の年月を経て、ついに三谷幸喜は、2度目のニール・サイモン作品を演出することになった。

その作品『23階の笑い』は、1993年から1994年にかけてブロードウェイで初演。物語の時代は1950年代で、テレビ業界の裏側が背景となっている。作品に自伝的要素を盛り込んできたニール・サイモンらしく、この作品も、彼が実際に大物コメディアン、シド・シーザーの下で、放送作家・コメディ作家として下積みの時期を過ごしていた体験が、リアルに描かれていると言われている。

その作品で、大物コメディアンのマックス・プリンス役を演じる小手伸也と、ベテランシナリオライターのケニー役の浅野和之に、三谷作品や今回の役柄、そしてお互いについて語ってもらった。

小手伸也 浅野和之

マックス役が小手くんだと聞いて「あ、ばっちりだ!」と安心

──この作品は、ニール・サイモンの戯曲ですが、三谷さんがニール・サイモンを演出するのはまだ2作目なのですね。

浅野 三谷さんにとって特別な思いのある、尊敬する作家だけど、あまり演出されてないんですよね。僕もこれが2本目で、かなり前に『おかしな二人』を鈴木裕美さんの演出でやっただけなんです。

小手 僕なんかニール・サイモンは初めてですから。というか翻訳劇自体が2本目で、1本目が去年のトム・ストッパードの『良い子はみんなご褒美がもらえる』だったんです。

浅野 そうなんだ!

──『23階の笑い』という作品を読んだときの印象はいかがでしたか?

浅野 ドタバタ風を想像していたら、ちょっと違ってましたね。わりと落ち着いたトーンで、話が淡々と進んでいく感じで。

小手 僕はそもそも翻訳劇が2本目ですから、あまり他の作品との比較ができないのですが、三谷さんがとても言葉に注意をはらいながら、繊細に演出されているような印象を受けました。

浅野 それは僕も感じますね。ニール・サイモンのニュアンスを大事にしながら三谷流演出になっている気がします。

──お二人の役柄ですが、まずコメディアンのマックス・プリンス役の小手さんは、この役を演じると知ったときの気持ちは?

小手 正直ふるえましたよ。どの役をまかされるのか分からない状態で、まずお話をいただいて、でも企画書をいただいたらマックスのところだけ配役が空白だったので、ここだな?と。稀代のコメディアン役だと知って、「どうしよう、根っから面白い人間じゃないし」とかいろいろ悩んでいたら、三谷さんからメールがきて、「今度よろしくね!小手さんにかかってるんだから」って。どれだけこの人は僕にプレッシャーをかけるんだと(笑)。

浅野 (笑)。

小手 この作品ですが、マックスの番組を作ってる放送作家たちの話で、まず語り部的な立場で新人作家役の瀬戸(康史)くんがいて、そこに集まっている作家たちの中心となるポジションをマックスが担うので、マックス役としては、どれだけみんなの敬意なり愛なりを集められるか、それが課題になると思っているんです。実際はまだまだ皆さんに付いていくだけで精一杯なんですが。

浅野 キャラ的にはぴったりですよ。マックス役が小手くんと聞いて、あ、ばっちりだなと安心しました。

──浅野さんの役柄は、ケニーという放送作家で、マックスのための作家が沢山いる中で、若い頃から天才として知られていた人です。

浅野 それは過去の栄光であって(笑)、今や翳りが出て来て、若い人たちにどんどん追い抜かれていくような、そういう存在で。ポジションとしてはマックスが信頼をおいている人で、精神的な支えにもなってるんだろうなと思います。

「笑いのことだけ考えて、ピュアな気持ちで稽古に向かっていく

──作品の内容ですが、三谷さんが7月に作・演出された『大地』と繋がっているような内容で、文化人や芸術家の自由が妨げられていた「赤狩り」、マッカーシズムがアメリカに吹き荒れていた時代が背景になっています。それは今のコロナ禍の中で起きていることも思い起こさせます。

浅野 まだ日本はそこまでは行っていませんが、いつか起こり得ることではないかという気がします。それにコロナ禍の中で、人と人とが分断されていくという状況も見受けられて、ちょうどマッカーシズムによって、映画人や演劇人が分断されていった状況にも通底するなと。

小手 SNSなんかでもギスギスしてますよね。その人にとっては正しいと思ってやっていることが攻撃になっていたり。よくないなと。でも今、この作品をやりながら、僕らはピュアに作品作りに励むしかないなと思うんです。物語の中の人たちも抑圧は受けているけど、みんなすごくピュアな気持ちで作品作りをしていて、「とにかく面白いものが作りたい」という、それだけの気持ちでそこにいる彼らが、なんか今の自分たちと重なるなと。

──マックスは自分の好きな笑いを守ろうと、色々な形で闘いますね。

小手 作家たちも守りたいし、自分の笑いも守りたい。すごく強い責任感で笑いを生み出している人だと思います。だから、そういうモチベーションをそのまま、この作品を作っている自分たちに置き換えてやればいいのかなと。確かに世の中の色々な状況、政治的な問題などとも重なりますが、それを強く背負いすぎると風刺が効きすぎると思うので。ニール・サイモンが書いたこの作品と今の状況はいやでもリンクするし、それだけでメッセージになるので、それ以上のものは僕は背負わないで、ただ笑いのことを考えていた人としてやろうかなと思っています。だから今、毎日わりとピュアな気持ちで稽古に向かっているんです(笑)。今日も面白いことをやれるようにがんばろうと。

浅野 そうだね。お客さんにはそれをそのまま観てもらえばいいんだと思う。

映像は未知の恐怖もあって、あえて「俺は舞台だ!」と

──おふたりは『子供の事情』で初共演していますが、それ以前の印象はいかがでした?

小手 浅野さんは僕にとっては先輩という枠では、もはやなくて、天上人、雲の上の人です。僕は1980年代、90年代の小劇場ブームにかすってる人間ですので、浅野さんがいた野田(秀樹)さんの夢の遊眠社とか、鴻上尚史さんの第三舞台とか、もちろん三谷さんのサンシャインボーイズとか、その世代の方々を神聖視している、というかただのファンなので(笑)、一緒にやらせていただけるのが光栄でしかないです。そもそも浅野さんと初めて出会ったのは野田さんのワークショップのオーディションで。

浅野 そうだよね。覚えてる。

小手 野田さんの一般公募のオーディションで、行ったらすごい人数で、そのときサポーターかなんかで現場に浅野さんがいらっしゃって。

浅野 『子供の事情』で一緒になったとき、その話をしたんだよね。共演したことはないんだけど、確かにどこかで出会ってるなと思ったから。

──『子供の事情』で共演して、小手さんの印象は?

浅野 自分のカラーをしっかり持ってて、それを持ち込んでくる。だから埋没しない。あのときもドテという役をちゃんとやりきりましたからね。たぶんたいへんだったと思うんですよ。台詞がそんなにないし。まあ僕のほうがもっとなかったけど(笑)。

小手 ははは(笑)。

浅野 役もけっこう共通する部分があって、ドテはちょっとコミュニケーションが不自由な小学生で、そういう人物をしっかり出してて、なるほど信頼できる役者さんだなと。

──小手さんは小劇場の頃から、どんな役でも小手さんの個性で見せてしまう。悪役も良い役も独自のカラーで見せてしまいますね。

浅野 劇団(innerchild)やってたよね。1人でやってたの?

小手 いや3人でしたが、ほぼプロデュースユニットでしたね。

──舞台への執着というのはやはり強かったですか?

小手 すごくありました。映像の仕事は苦手で、やりたくないと思っていたんです。というか苦手意識からくる敬遠という感じで。まったく知らない世界だから恐いという未知への恐怖もあったので、あえて「舞台だ!」と。酒席で「映像に魂は売らない!」みたいなことを叫ぶ演劇人が多かったこともあって(笑)。

浅野 ははは(笑)。

小手 だから当然のように「俺は舞台だ!」と、プライドで舞台をやり続けてるみたいな。まあ、今考えると逃げていたんですけどね(笑)。いざその世界に飛び込んでみて、未知が既知になると、すごく面白いし、そこで学んだことを舞台に還元できるし、僕が舞台で学んできたからこそ、映像でやれることがいっぱいある。両方の世界が繋がって、そこからはずっと楽しいですね。

──浅野さんも映像でもベテランですが、何よりもすごいなと思うのは、スーパー歌舞伎などにいつものスタンスで、すっと馴染んでいて、軽々とジャンルを超越してしまいますね。

浅野 いや、僕も単純に未知なるものに飛び込んで、どんなことが起こるんだろうというのが楽しみなんです。だから呼んでくれたことが嬉しくて。最初は冗談かと思ってたら本当に呼んでくれたので、「そんなことあるんだ!?」と思いながら、すごく楽しみだったし、今でもやってて楽しいですね。普段やったことのないことをやるって、自分にとってたいへんだけど、大切なことなんだなっていつも思います。まあ、あんまりたいへんなことばかりだと疲れちゃうけど(笑)、自分の中に喝を入れるためにも、また違うことをやってみたいなと。

小手 負荷がかかると燃え上がるタイプですよね。

浅野 そうそう!なにくそと思う。

──三谷さんの舞台は負荷がかかるほうですか?

浅野 僕にはかかってますよ、負荷!(笑)

小手 『子供の事情』では明らかにかかってましたね。僕もですよ。当て書きで有名な方なのに、「小手さん、この役どういうふうにやろうか?」って聞かれたんですよ。「え、当て書きしてくれたんじゃないんですか?」って。

浅野 (爆笑)。

──そういう意味ではお二人とも頼りにされているのだと思います。

浅野 いやあ、どうなんでしょうね。そう思いたいですけどね(笑)。

小手 思いたいですね!

お客さんの心に宿る、良い仕事をしているんだなと

──今回もそういう頼りになる役者さんばかりですね。ところで小手さんは、コロナ禍の自粛期間のあと、舞台はこれが初めてですね

小手 舞台自体が久しぶりで、自分の中では演劇のほうに軸足を置いていると言いながら、1年半出てないんです。ですから今回気合いを入れて臨まないといけないなと。もちろん三谷さんの作品というプレッシャーもありますし、出ている人たちがみんな芸達者ですから、埋没しないようにがんばるしかないなと。

──浅野さんは7月の『大地』に続いて三谷作品で、まさに三谷さんと歩みをともにしていますね。

浅野 いや、この間稽古場で、「なんだまたいるの?浅野さん」って言われましたよ(笑)。「一生付いて行くって言ったじゃないですか」って言ったら、「毎回いなくてもいいでしょ」って(笑)。だから「いや毎回です。絶対です」って言ってやりました(笑)。

──『大地』で久しぶりに出た舞台への感慨はいかがでした?

浅野 やっぱり特別な思いがありました。それにそれだけではない何かも感じました。僕は自粛期間中、ずっと韓国ドラマを観ていたんです。すごく面白いドラマだったので最終回が終わったとき、ふっとロスになった。舞台もそうですが、良い作品は、なんか観た人の心の中に宿るんですよね、物語が。宿っているときはすごく心地よくて、でも終わると寂しくて。それを思ったとき、改めて自分がやっている仕事って、こういうことだよなと。お客さんの心に宿るんだなと。それを改めて感じて、ああ、良い仕事をしているんだなと。演劇っていう仕事をしていて良かったなと。考えてみたらすごく若い時に観たものがずっと残ってたりするから。

小手 僕、浅野さんが出ていた『半神』の台詞とかまだ言えますもん。(ラストシーンの台詞を語りはじめる)

浅野 恐いよ!(笑)

──では、そろそろこの『23階の笑い』のアピールを一言ずついただけますか。

浅野 今回はニール・サイモンですから、とにかく楽しく笑いながら観ていただきたいですね。この世相だからこそ笑いは本当に大事ですし、劇場に来て笑っていただくことで、ちょっとした気分転換になればいいなと思います。

小手 誰かが主役というより沢山の人たちの群像劇で、それぞれの人間が笑いというものを作るために、どういう葛藤があり、どういう苦しみとどういうクレイジーな要素が必要で、せめぎ合いながらもその空間がすごく楽しいという作品です。みんなが一生懸命に笑いを作っているその楽しさ、仕事の楽しさみたいなものが、客席にも伝わっていくようにがんばります。

浅野 ということで、小手くんがどんな素敵な芝居を見せてくれるか、楽しみにしていてください(笑)。

小手 それで締めるんですか!(笑)

小手伸也 浅野和之

■PROFILE■
こてしんや〇神奈川県出身。早稲田大学卒。劇団innerchildを主宰。作家・演出家・俳優を兼ねる。PFFスカラシップ作品映画『不灯港』では主演を務め、海外でも高い評価を受けている。舞台での活動が中心だったが、2016年の大河ドラマ『真田丸』で注目を集め、2017年の『仮面ライダーエグゼイド』では幅広い世代から認知された。2018年には『コンフィデンスマンJP』『SUITS/スーツ』で人気を博す。最近の舞台は、シス・カンパニー『子供の事情』(17年)PARCO『良い子はみんなご褒美がもらえる』(19年)など。

あさのかずゆき○東京都出身。1987年、劇団『夢の遊眠社』に入団。1992年の解散後は、舞台に加えて映像の世界でも活躍中。『You are the Top/今宵の君』以来、三谷作品で欠かせない存在。読売演劇大賞・最優秀男優賞に2度輝くなど受賞多数。最近の舞台はシス・カンパニー『子供の事情』(17年)、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』再演ハイバイ15周年記念『て』CAT『TOPHAT』(18年)、 PARCO『マニアック』シス・カンパニー『恋のヴェネチア狂騒曲』スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』(19年)、PARCO『大地(Social Distancing Version)』(20年)など。

【公演情報】
シス・カンパニー公演
『23階の笑い』( 原題:Laughter on the 23rd Floor)
作:ニール・サイモン
演出・上演台本: 三谷幸喜
翻訳:徐賀世子
出演:瀬戸康史 松岡茉優 吉原光夫 小手伸也 鈴木浩介 梶原善 青木さやか 山崎一 浅野和之
●2020/12/5~27◎世田谷パブリックシアター
〈料金〉S席12,000円 A席10,000円 B席8,000円 補助席(1階) 9,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット予約〉
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00) https://setagaya-pt.jp/
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/23f/
〈公式サイト〉 http://www.siscompany.com/23f/
〈公式Twitter〉@sis_japan

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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