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「人間」の本質に突き刺さる痛みと熱 ミュージカル『フランケンシュタイン』

2017年の本邦初演で、多くの「フランケンシュタインフリーク」とも言える熱狂的なファンを生み出し、熱い喝采と考察に包まれたミュージカル『フランケンシュタイン』待望の再演バージョンが日比谷の日生劇場で上演中だ(30日まで。のち2月14日~16日まで名古屋・愛知芸術劇場大ホール、20日~24日まで大阪・梅田芸術劇場メインホールで上演)。

ミュージカル『フランケンシュタイン』は、ゴシックロマンの名著として名高いイギリスの小説家メアリー・シェリーの同名小説に、大胆なストーリー解釈とメロディアスでありつつ、魂を揺さぶるパワフルさを秘めた音楽をもったミュージカルとして、韓国で製作・初演されたミュージカル。ストーリー展開の細かい整合性を追うよりも、楽曲のパワーでテーマをダイレクトに投げつけてくるにも似た韓国オリジナルミュージカルの特徴がハッキリと出た作風で、メインキャスト全員が一人二役を演じるというトリッキーな演劇的作劇も相まって、2017年の日本初演時に、ミュージカル界の事件とも言える興奮を生み出した。

今回はそんな作品の待望の再演で「生命創造への飽くなき探求」に没入する科学者、ビクター・フランケンシュタインの姉エレンと、二幕ではギャンブル闘技場の女主人エヴァに新キャストの露崎春女を迎えた以外は、メインキャストが初演から揃って続投。愛と友情、人間の業を描いた壮大かつ、衝撃の物語が更に熱く展開されている。

  【STORY】

19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタイン(中川晃教/柿澤勇人 Wキャスト)は、戦場で敵兵の命を救おうとした咎で処刑されかかっていたアンリ・デュプレ(加藤和樹/小西遼生 Wキャスト)の命を救い、二人は固い友情で結ばれる。神の領域である「生命創造」に挑むビクターに感銘を受けたアンリは、彼の研究を手伝うが、研究の為の遺体を手に入れようとしたことから殺人事件に巻き込まれたビクターを救う為に、無実の罪で処刑台ら送られる。「この研究の為に生きるべきは君だ」と言い残して命を落としたアンリをなんとか生き返らせようと、ビクターはアンリの亡き骸に自らの研究の成果を注ぎ込む。しかし誕生したのは、アンリの記憶を失っているばかりか、「人」とは言えない「怪物」だった。この世ならぬ者を生み出してしまってことを悟ったビクターは「怪物」を自ら葬り去ろうとするが、「怪物」は月夜の森の奥深く消えていく。

「怪物」の行方がようとして知れないまま月日は流れ、ビクターは幼い頃から「生命創造」を成し遂げられると思い続けていた自分を信じてくれたジュリア(音月桂)と結婚するが、次第に彼の周囲では次々と不穏な事件が起こりはじめ……

生きとし生ける者はすべて「種の保存」という本能が備わっていて、その欲求は本来理屈を抜きにした根源的なものだ。ただ、もちろん人間の場合は、そこに「愛」という大きく深い感情が絡んでくることによって、全てはある意味で複雑化していて、愛と種の保存とは一概に=になるものではない。しかも化学が発達し、生命の誕生にかなりの部分で介在することができるようになっている現在では、この作品でビクターの目指した「生命創造」に近づきつつあるものが、現実味を帯びてもいる。

それでも、生命の創造に対して人がどこかでその一線を越えないよう、少なくともおおっぴらには自制しているのは、生命の誕生にまつわる化学では説明のできない神秘が人類の歴史上数多く残っているからだろう。やはり命がどこから来てどこへ帰るのかは、あくまでも神の領域であって、そこに人類が踏み込むことは、結局は破滅を招くものだという恐れや、倫理観は根強い。

この作品ミュージカル『フランケンシュタイン』にも、原作世界をほぼ換骨奪胎していると言ってもよい作りの中で尚、その恐れと超えてはならない一線を越えてしまった者が直面する痛みは、強固に残されている。端的に言ってビクターの生命創造への妄執は、一種の狂気をはらんだものに違いないが、その出発点に愛があることが作品の切なさと痛みを一層鋭いものにしている。なぜならビクターが生命創造に執り付かれていくのは、最愛の母を生き返らせたいというあまりにも切実な思いが出発点になっているからだ。おそらく彼が取るその後の様々な行動をすべて抜きにして、幼くして病で母親を失った少年が、自らの頭脳を駆使して母を生き返らせたいと願ったという、その根本部分の強い感情に共感できない人は多くないだろう。

だが、物語の根幹がそこから出発していてさえも、ビクターに命を救われたことを恩義に感じ、彼の研究に共感し、その成就の為ならば自らの命も差し出して構わないという思いに至るアンリの「君に恋をした」とまで表現される無私の愛は、結局更に大きな悲劇を生んていく。アンリとは呼びようのない新たな命となって生まれ出てしまった「怪物」が辿る、再び命を得たことを幸福とは思いようがなかった運命によって、本来は「愛」であったものが引き裂かれていく痛みにはあまりにも鋭いものかある。この作品のトリッキーさの肝とも言える、「怪物」の回想として描かれる闘技場の一連のシーンで、メインキャストが全て、ガラリと性質の異なる役柄を二役で演じることで、人の業が引きずり出される様に至っては、その痛みが壮絶すぎて息苦しいほどだ。結局人間は、自分か他者かひとつしか助けられないという極限に追い込まれたら、どうしたって自分を取るだろうし、個人ではなく群衆となった時に、あっと言う間に真実かどうかも定かでない些細な情報に扇動されて、周りに同調してしまうことも悲しいかな避けがたい。そんな負の連鎖がこれでもかとたたみかけてくる展開を持つ作品には、立ちすくむほどの怖さがある。

けれども、ここに壮大なミュージカルナンバーによる音楽的な昇華と、Wキャストも組まれている演者の異なる個性によって、舞台が見事に色合いを変えていく光彩が加わり、エンターテイメントの趣向が施されたことで、作品がどこか悪魔的な魅力を生み出しているのには、改めて感心させられる。それは、ある時は救いようのないバッドエンドに見えたものが、ある時にはここからもう一度新しい物語がはじまっていくという、光を感じさせるエンディングにも見えるというほど顕著な力になっていて、特に初演から更に進化したメインキャストたちの放つ力が絶大だ。

ビクター・フランケンシュタインの中川晃教は、母親を生き返らせる!と誓った少年の深すぎる想いが、つまりリトルビクターの心根が何一つ変わらぬままに成長したのだと思わせるビクター像がより顕著になった。元々大柄な人ではなく、根っこに天衣無縫なチャーミングさを持つ中川の個性が、ビクターの天才故の悲劇に筋を通した感覚が強まり、初演でショーストップの迫力を示し、この作品の熱狂を牽引したナンバー「偉大な生命創造の歴史が始まる」よりもむしろ、後半の後悔や懺悔を歌うナンバーに力感を感じるのも、そうした中川の変化が起因しているのだろう。そこに一人の役者が役を突き詰めることの妙味が生まれているし、二役で演じるギャンブル闘技場を営むジャックのファンタジー感が後退して、小悪党の趣が増したのも、互いがリンクしてバランスが良い。

一方、同役の柿澤勇人は、成長するに連れて「生命創造」そのものにのめり込んでいき、むしろ神をも越える存在になることをこそ願っているかのような、狂気の表出が色濃い。台詞発声が明瞭だし、一見スッキリとした青年に見えるビジュアルとのギャップが、その狂気を増幅していて、柿澤独自のビクター像が見事に屹立していた。もうひと役のジャックの相当に下卑た表現は好き嫌いが分かれるところだと思うが、ビクターの振り切れた思考の前ではそれさえも薄れる気がするほど、ビクターの造形が強大だった。

アンリ・デュプレと怪物の加藤和樹は、進化したキャスト陣の中でも更に、ミュージカル俳優としてこの年月で重ねた経験と研鑽が加藤にもたらした力量をあますところなく表出している。初演から繊細な演技に見応えがあったが、今回歌唱力が格段に上がったことによって、楽曲で訴える力が強まり、「君の夢の中で」の誠心な思いと「俺は怪物」の絶叫のコントラストが、役柄が辿る壮絶な運命を見事に描き切っていた。

もう一人の小西遼生はより演技面での進化が深い。アンリの無私の想いの造形が、加藤よりは若干理性を感じさせることが根幹にあり、怪人となってからの身体表現や表情の変化が際立つ。彫りの深い美しい顔立ちを、ここまで歪まされることに躊躇のない小西の役者魂に心打たれるし、怪人として生まれ変わってしまったことへの悲しみ、怒り、恨み、憎しみが手に取るようにわかる表現だった。

この二組の組み合わせとしては晴れてDVD化も決まった中川×加藤、柿澤×小西が王道ではあろうが、それぞれがクロスした組み合わせもまた独自の見せ方と、魅力を生んでいて、作品の後をひく感を強めている。

ビクターをひたむきに愛するジュリアの音月桂は、それこそ彼女の出自である宝塚歌劇でさえもここまで純粋に迷いなく一人の男性を愛し抜く役柄は珍しいと思うほど、純白の衣装で統一されていることが象徴するジュリア役を美しく演じている。これがあるからこそ、二幕で演じるギャンブル闘技場の下女カトリーヌの、理性や体裁を繕っていられるのは、愛された記憶があるからこそだと突き付けられる、あまりにも悲惨な人生を送ってきた女性が、自由を夢見てしてしまう行為の壮絶さに慄然とさせられた。この再演に際して音月のカトリーヌの行動が剥き出しの業を描き切ったことは、作品の在り方を更に変えたと思うほどの力があり、自然に汝らの内罪なき者石を持って彼女を打て、という聖書の場面が浮かんできたほど。歌唱力の迫力も倍加して二役の切り替えにも、より見応えがある。

ビクターの執事ルンゲの鈴木壮麻は、この人らしい気品の良さが、前半の救いにもなっているややコミカルに倒した場面も、ルンゲの誠実さの邪魔にならないのが強み。韓国ドラマで必ずと言っていいほど登場する「何があろうとも主人公の味方」という、実際にはなかなかいないからこそ描かれるのだろう役柄の、欠点はもちろん、犯罪ですらも許容できる人物像に真実味を持たせていた。闘技場の召使イゴールは予備知識がなければ、鈴木とは気づかないかも知れないほどの作り込みが楽しく、人も羨む美声の持ち主の鈴木にソロが少ないことだけが残念だ。

ジュリアの厳格な父ステファンの相島一之は、ビクターに対してむしろ街の人々に近いものの考え方をしている、決して手放しでビクターを許容していない人物の造形にリアリティがある。元々ミュージカル畑の人ではないところを、演技力でねじ伏せていて、二役の闘技場を乗っ取ろうとする守銭奴フェルナンドの狡猾さが、カトリーヌの行動を裏打ちする効果になっている。

そして、メインキャストの中では唯一の初役であるビクターの姉エレンの露崎春女はこれが初舞台。初演の濱田めぐみが、韓国での上演当初から「日本で上演するとしたらこの役は濱田しかいない」と囁かれていたほどの当たり役ぶりを示していただけに、後を受けるプレッシャーは如何ばかりだったかと思うが、濱田のように歌で何もかもを凌駕する感覚が薄い分、弟への愛と世間への気遣いに懊悩するエレンの、普通の女性としての感性が立ち上がっていて、役柄に新たな面白さを生んでいた。闘技場の女主人エヴァも日に日に振り切れてきていて、これは公演を重ねる毎に良くなってくることだろう。期待したい。

また、この作品の中では貴重なミュージカルらしい場面である「一杯の酒に人生を込めて」の振付が変わったことでよりショーアップの感覚が強まったのも利点で、本当の怪物は人間なのではないのか?を問う、人の業や痛みを鋭く感じる作品の、清涼剤としての効果を高めていたのも見逃せず、全体に大きな進化を感じさせる再演となっている。

【囲み取材】

初日を前に囲み取材が行われ、ビクターの衣装の中川晃教、ジャックの衣装の柿澤勇人、怪物の衣装の加藤和樹、アンリの衣装の小西遼生という、非常にレアな扮装の四人が登場。公演への抱負を語った。

まず、再演への思いをそれぞれが挨拶。

中川 三年前の初演の良さを皆さんが感じてくださったこその再演で、初演メンバーがほぼ揃い充実した稽古を重ねることができました。お客様に今この物語の素晴らしさを観て頂きたいという想いが増すのと同時に、二人のビクター、二人のアンリがいますので、ここを見なきゃもったいない!2つの魅力、二つの面白さを体感して頂きたいです。

柿澤 三年前の初演は突っ走っていて、初演の勢い、エネルギーがあり、その結果としてすごく盛り上がってくださったので、また再演では新しいメンバーも加わって、その熱を巻き起こしていきたいです。カンパニーの平均年齢が若干若くなったのもあってか、新たなエネルギーが溢れているので、是非そこを観て頂きたいです。

加藤 「すみませんこんな格好なので、なかなかすぐに『はい!加藤和樹です!』みたいにはならないんですけど(笑)。演出の板垣(恭一)さんもおっしゃっていたのですが、三年前の初演は本当にがむしゃらに突っ走っていたなと、演じている僕らでさえも感じていて。韓国版から僕らなりに突き詰めて作っていきました。今回はその僕らがやった初演をベースにしつつ、新たな解釈をするところはして、一つひとつのシーンを深め、無駄なものを削ぎ落としてより見やすくなったと思いますし、よりお客様が夢中になれるミュージカルになったんじゃないかなと思います。2020年1発目の作品なので、我々も全身全霊で取り組んで行きたいです。

小西 皆三年前を覚えている感じがするんですが、僕は稽古がはじまった時に全然思い出せなくて(笑)。今回どのシーンも新鮮にやったのですが、やってみてわかったのは、魂と記憶が抜けていくくらい全身全霊でやる作品なんだということを思い出しました。観る方達も三時間ずっとこの世界に入り込んで、観終わった後には魂が抜けて、いったいどこにいるんだろう?という気分になる作品だろうと思います。正月明けに合う作品なのかは…ですが(笑)、間違いなく皆様の心に衝撃を与える作品です。新年の始まりに大きく心を動かして頂ければなと思います。

 

また、2020年はどんな年にしたいか?ということで、挑戦の年にしたいことや、カンパニーに料理男子が多く、柿澤が健康に良さそうだからと毎日カレーを食べている、というエピソードが披露されたり、中川が小西の怪物とのラストシーンで、あまりにも想いが溢れて思わずキスしたくなってしまった!絶対にまた新たな命を生み出すんだ!という気持ちになると、思わず観に行く回数を増やしたくなる組み合わせの妙も語り、「(キスした時には)是非観て下さい!」と宣言すると、加藤が「(キスする)予定はあるの?」と問うなど、和気あいあいとした時間が流れた。

最後にメッセージが届けられ、

小西 三年前の初演時のことを皆さんがどれくらい覚えているかわかりませんが、もう一度びっくりすると思います。初演のメンバーが揃って友情物語、復讐物語を紡いでいく。一筋のストーリーを息を呑むように観て頂ける作品に仕上がっていると思いますので、是非正月明けのちょっとボーッとした頭をスッキリさせに来てください。

加藤 生きるということは、僕と言うか、アンリ、怪物にとってテーマなんです。なので、生きるとは?ではないですが、改めて生きることについてのメッセージがお客様に届いたらいいなと思いますし、人間が持つ力というものを2020年の始まりに感じて頂ければなと思います。

柿澤 三年前をさらに上回る熱狂を、日生劇場で巻き起こしたいと思います。2020年の1月のスタートにぴったりの、縁起の良いハッピーエンディングミュージカルとなっております!(全員笑)よろしくお願いします!

中川 心強いパートナーを得て、僕一人ではフランケンシュタインという役はできなかったなということを、とても実感した再演の稽古期間を経ての今日です。かっきー(柿澤)ありがとう! そして僕たち三年の歳を重ねてきた分、この人間の物語で心がすごく震えるんです。その瞬間に、ふと大切な人のことや、自分が生きてきた時間を振り返るって、の想いは役とは全くかけ離れている個ではあるんだけれども、どこかで音楽や物語が、ミュージカルという素晴らしい時間の中で一瞬重なることがあるんです。これがもしかしたらミュージカルの凄みなのかな、ミュージカルが話題になっているこの時代に改めて思います。この作品に携わる一俳優としても、このミュージカルを届けていく一人の人間としても、そういう気持ちを新たに持ってお客様をお迎えしたいと思っております。是非応援よろしくお願いします。

と、全員が力強く語り、作品への期待を高めていた。

【公演情報】
ミュージカル『フランケンシュタイン』
音楽◇イ・ソンジュン
脚本・歌詞◇ワン・ヨンボム
潤色・演出◇板垣恭一
訳詞◇森雪之丞
出演◇中川晃教/柿澤勇人(Wキャスト)、加藤和樹/小西遼生(Wキャスト)、音月桂、鈴木壮麻、相島一之、露崎春女 ほか
●1/8~30◎日生劇場
〈料金〉S席13,500円、A席9,000円、B席4,500円
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777(9時半~17時半)
〈公式ホームページ〉https://www.tohostage.com/frankenstein/
[全国公演スケジュール]
●2/14~16◎名古屋・愛知芸術劇場大ホール
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052−972−7466
●2/20~24◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800

 

【取材・文・撮影(囲み)/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】

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